ＬＥＯＮ　ＣＯＲＤＥＲＯ
ＤＵＷＡＧ　ＬＡＮＧ　ＡＮＧ　ＨＡＨＡＬＩＫ　ＳＡ　ＬＵＰＡ
（レオン・コルデロ　じっとしてるのは臆病者だけだ）
　
96年：オクトアーツ・フィルムズ
監督：バルド・マーロ
主演：レイマート・サンチャゴ
　　　 ジェニファー・メンドーサ
　　　 ライラニ・ナヴァロ
　　　 エディー・グチェレス
　　　 マリタ・ソベル
　　　 ディック・イズラエル
　　　 キング・グチェレス
　　　 マンジョー・デル・ムンド
　　　 ジョニー・ヴィカール
　　　 レイ・“ラヴェン”・ヴェントゥラ
　　　 ペン・メディナ
　　　 ベルティン・ラブラ
　　　 ボーイ・アルヴァレス
　　 　アンジェラ・モレナ
　　　 アラベル・カドショ
　典型的なフィリピン映画のＢ級アクションに近いというべきか。
　全体は大きく二つにわかれ、前半はレイテのタクロバンが舞台。現地のシンジケートにつかえるトゥリン（レイ・ヴェントゥラ）が逮捕され、口封じのために殺される。トゥリンの息子のレオン（レイマート・サンチャゴ）がシンジケートのボスであるドン・サラザル（エディー・グチェレス）の娘のリレット（ライラニ・ナヴァロ）と恋仲の、ロミオとジュリエットっぽい定番の人間関係。ドン・サラザルの部下のクラウジョ（マンジョー・デル・ムンド）にレオンも狙われ、あやまってリレットが亡くなる。叔父のアンボ（ベルティン・ラブラ）を頼り、レオンがマニラへ逃れてからが後半。同郷で、レイテとサマール出身者をあわらすワライ（ディック・イズラエル）とストレートに名のる不良グループのリーダーと知り合い、ワライの妹のマリッサ（ジェニファー・メンドーサ）と恋に落ちる。トトイ・スプトニク（キング・グチェレス）がリーダーの不良グループとワライのグループが対立し、警察の目を盗んではケンカをくり返す。一方、マニラへきたクラウジョは警察署長（ジョニー・ヴィカール）にレオンの捜査を依頼。スプトニクがワライの男まさりな女の部下のアジャン（アンジェラ・モレナ）をレイプで殺し、アンボも殺したため、レオンがスプトニクのグループを全滅に追いこむ。ワライを殺した警察署長も撃退ながら、マリッサを失う。再びレオンがタクロバンへ戻ったあとがクライマックス。母のメディン（マリタ・ソベル）と妹のラクエル（アラベル・カドショ）がドン・サラザルに殺されていたとわかり、単独でレオンがドン・サラザルの本拠へ殴りこみをかける。
　タクロバンではマッカーサー・パークでレオンとリレットがデートするなど、適度に名所を盛りこむ。レイテとサマールを結ぶ橋もでてきて、レオンとリレットがそこからダイヴが見せ場のひとつをつくる。参列者が松明をもっての岩場のビーチでの葬式が興味をそそる。酒場のケンカといったおなじみのシーンはさておき、山の中にある叔父のミロイ（ペン・メディナ）の家が高床式の小屋で、ここにレオンがひそみ、クラウジョたちが襲ってきてミロイがやられる銃撃戦が急流の川に流されながらになり、滝へ落ちるアクションが生身のスタントの迫力といえて、香港映画のようにワイヤーを使わない本気さがよく、個人的にフィリピンのＢ級アクションを評価するポイントと実感する。ただしワライじゃなくタガログで話し、確信犯的にリアルさを避けているのはわかるも、マニラでの生活との差別感がでなかったあたりは残念。またリレットと一緒のときにクラウジョたちがレオンを撃ち、そんなの間違ってリレットに当たるのは当たり前で、この頭の悪いおマヌケさはマイナスの意味でフィリピン映画の専売特許に思える。
　マニラではアンボのジプニーのエリアがパコとサン・アンドレス間になっているあたりにエルミタのどこかとわかり、愚連隊同士の街中での乱闘が絵的におもしろい。古タイヤでかこったリングでレオンとトトイが一対一の対決をし、それで友情が生まれるわけでなく、負けたトトイがさらに悪党性をますのがフィリピンっぽい構成。そもそも警察がイチバンのワルなので犯罪者たちは賄賂を払っていて、トトイの部下のタショ（レーイ・ロルダン）が警察署長へつけ届けのカネをわたすガソリン・スタンドでタバコを吸っている安全性の欠如にオイオイとあきれるばかり。レオンの筒型の銃やアジャンの兄のアンティク（ボーイ・アルヴァレス）が使うゴムチューなど、銃器の貧弱さがフィリピンの図式。さすがにブルース・リーをまねたヌンチャクはコメディーのあつかいになっている。都合よく警察署長の弾がきれて、車で逃げたのでレオンとカー・チェイスに発展は、やや走る時間が短いため、ハデにふっ飛ぶわりにあっけなく感じる。
　フィリピン映画のアクションのダメさをなす、これまた専売特許に近いアホらしさはラストの一対多数のドンパチに違いなく、なぜか敵の撃つ弾は当たらず、レオンの撃つ弾は簡単に当たり、たったひとりで相手を皆殺しのお約束を笑うしかない。岩の海岸に立つ屋敷が、下に広がる洞窟ごとダイナマイトでこっぱみじんの炎上ぶりも、軽薄な銃撃描写のあとなのでバカバカし。墓でクラウジョなどがレオンへ爆薬を投げつける破裂で、いかにも墓石が軽っぽく動いているショットのシラけもあって、しょせんはＢ級。
　終わってみればレオンの身内は全員が殺されるとの悲惨な話ながら、とりあえず退屈を招かないバルド・マーロのテンポづくりはまずまずかな。
　ライライ・ナヴァロ、ジェニファー・メンドーサとヒロイン女優をふたりもそろえたにもかかわらず、お色気不発は不満の中心と指摘したい。橋からのダイヴでライライはスカートがまくれあがるも、これはスタントのふきかえだろう。ジェニファーはベッド・シーンでシーツをボディーに巻いたまま。ともに美人だけに、水着のシチュエーションくらいはほしかったところ。アンジェラ・モレナは強姦をうけるときにトトイのほうが真っ裸でお尻をだしているのに、服を脱がされなくて期待がはずれる。
　それにしても濡れ場を欠くとなれば、フィリピンのＢ級アクションで核をなす要素のひとつが抜け落ちた印象が強く、ハダカの誘惑があってこそ評価の対象たりえたのに…
　これじゃ、まったく肯定できません。

※　この作品は『レオン・コルデロ〜地獄からの使者』の題名で“アジアフォーカス・福岡映画祭2003”にて上映された。