（火遊びの果て）
00年：リーガル・エンターテインメント
監督：チト・Ｓ・ローニョ
主演：アラ・ミナ
エンジェル・アキノ
カルロス・モラレス
モニク・ウィルソン
マーク・ヒル
チェリー・パイ・ピカチェ
チョロ・エスカーニョ
マルー・バリー
ハイメ・ファブレガス
マリタ・ソベル
マイラ・グミラ
ディック・イズラエル
性欲というものを明るく描くのは難しいかもしれない。それは性欲が“悪”という観念の延長線上にあるからだろうか。フィリピンのようなカトリック国はとくにそうだが、仏教でも邪念とされているように、決して慈善活動といった類の率先して行いなさいといった内容のものではないといえるだろう。当然ながら個人的には“悪”とは思わないのだが、何ごともそうで、過剰になるとバランスを壊すとは感じる。これはセックスへの欲望が過剰になってしまった男の物語である。
それにしても全編を貫くどっと疲れるような暗さはどうだろう。チト・Ｓ・ローニョ監督の力量が確かで、人間描写や雰囲気づくりがすぐれているだけに、余計まいる。実はアラ・ミナのヌード・シーンがあると確信して、前作の『ＡＹＯＳ ＮＡ… ＡＮＧ ＫＡＳＵＮＯＤ』で脱いでなかっただけに、たっぷり裸体に酔いたいと期待してみたのだが、こんなにぐったりするとは予想だにしていなかった。もちろんアラは、１２０％期待に応えてくれるが… 彼女については後述する。
カルロス・モラレス演じる絵の得意な男が主人公で、彼は少年時代に女ばかりに囲まれた環境で育ち、エンジェル・アキノ演じる後見人の女性にシャワーで全身を洗ってもらったりで、いつしかエンジェルにあこがれを抱くようになる。ウィニー・コルデロ演じるおばさんがブラジャー姿になって着がえるところをのぞき見したりするが、反対におばさん連中にチンポを触られたりも。このあたりの幼児体験がトラウマとなって異常性欲者に成長るという解釈は短絡的ながら、映画としてはまあまあの筋立てかもしれない。
マリタ・ソベル演じる母や、マイラ・グミラ演じる叔母からあとでアラが演じることになる少女を紹介され、後見人のエンジェルと幼なじみのアラの二人を追い続けるのがストーリーの骨格をなす。
とはいっても女性遍歴の物語だけに、他に何名もでてくる構成。陰毛をみせて踊るダンサーの描写のあと、そこのバーのウェイトレスと初体験する。一緒にいった友人の相手を演じるのはジェニファー・ゴンザレスだが、カルロスの相手をするほうの女優は不明。いかにも場末の水商売女との雰囲気をよくだしていて、マリファナを吸ったあとに無理やり犯されるあたりの抵抗感をうまく演じている。
アラの処女を奪うシーンのあと、彼女がアメリカ留学の強要で引き裂かれると、今度はギャラリーを開いて似顔絵のデッサンをしているところでスカウトを受けて、金持ちのツバメになる。この金持ちを演じるのはマルー・バリーになり、美人ではないものの、短髪でいかにも好きものの性格を巧みに醸しだしている。『蝶々夫人』をＢＧＭにハデな衣装でセックスするところも面白いが、お尻丸みえでフェラチオのシーンに中年の欲求不満がにじみでてくる。あまりのしつこさにカルロスがうんざりをおぼえて、買ってもらった携帯電話やスポーツ・カーを捨てるあたりにも説得力がある。
チト監督の演出力をなるほどと十分に納得するのは、無理やり結婚させられてからの家庭描写。マーク・ヒル演じるビジネス・パートナーの恋人であるリナ・ロサル演じる女性からルーム・メイトを紹介され、モニク・ウィルソン演じるその娘が処女だったため、つい欲望の任せるがままになったのが運のつき。モニクの一家がディック・イズラエル演じる市長の知り合いであったので、カルロスはレイプ犯にするぞと脅されたうえに、責任を押しつけられる。リナがファニー・フェイスなカワイコちゃんで裸がみたかったと思わせるのに対し、モニクはいかにもブスで、この勘弁してくれよという嫌悪感がみごと。結婚式の重ったるい描写といい、幸薄いムードを全身から漂わせながら、演出の助けもあるだろうが、寒々とした結婚生活を驚くほど抑制のきいた演技で表出している。おさまらない浮気への絶望からカルロスのチンポを切りとろうとするシーンなど、無表情ゆえに嫉妬の恐さと女の悲しさがジーンと伝わってくる。実にうまい女優だ。
エンジェルの元へ駆けこむと傷ついたチンポの手当てを頼み、竿に包帯を巻いてもらっている最中にエンジェルへ余計な想像を抱いから思わず勃起、というシーンが唯一笑いを誘うところではないか。それにしてもチンポを平然と映しているから、Ｒ指定とはいえ、フィリピン映画の規制の寛容さには感心するばかり。
他にも覚醒剤をやってセックスするシーンの娼婦役（デイジー・エストラダ？）など、化粧の仕方からしていかにもいそうなタイプ。オッパイを大胆に揺らせて数種の体位でもだえるあたりに動物的な気だるさがあり、脇の女優の存在に手を抜いてない点を高く評価したい。それにフィリピン社会がかかえる麻薬の問題にも踏みこんでいるが、簡単に入手できるから簡単に中毒になってしまうわけで、この危機意識の提示もまずまずである。ことフィリピン映画では小道具として中途半端に麻薬を扱うパターンが多いだけに、真剣さを伴う視線にはウンとうなずける。
物語はついにカルロスが妄想の果てにエンジェルを犯すシーンでクライマックスを迎え、ここはモノクロームで撮られていて、チト監督のセンスのよさを感じさせる。ついに一線を超えてしまったあとの二人のどうしていいかわからないやりとりなど、これほど性欲のむなしさを映像化した例は、あまりないのではないか。
カレッジを卒業する年ごろから、白髪まじりの中年までを演じたエンジェルの変身ぶりにもうなる。
ただ映画全体を通してみてみればテンポが緩慢であり、上映時間が二時間を超えることも影響し、途中であきるのは事実。とくにアラの見せ場が終ってからは、いささかうんざりといった感じなのは否定できない。じゃあ、どこをどう編集すればよいのかと問われると困るのだが、もう少し狩りこめば相当な佳作になったような気がして残念。
ところで肝心のアラについて述べると、処女を奪われるシーンは少しおとなしめ。全寮制の学校へ入学していた設定のアラは、清楚な制服姿で登場し、今さらアラに女学生でもないだろうに、ちゃんと似合っているあたりがさすが。ファンのひいき目かもしれないけど… ホテルに連れこまれると、困惑するアラの表情にまた説得力があるが、脱がされてもカルロスに抱かれて乳首が隠れたままなのがイライラさせる。バギオの公園の木陰でセックスで、土産物を売りにきた少数民族の少女にみられるシーンでも、背面座位でカルロスの上に乗ったアラは、まったく肌を露出しないまま。楽しみはあとで、ということか。
アメリカから一時帰国のアラが再登場すると、今度は娼婦のようになっていて、びっくりさせられる。ベタ塗りの厚化粧はうんざりものだが、これによって純粋さをまったく失ったことをよく暗示している。ホテルの部屋へ入るとアラはコカインを吸っていて、パンティーがスケてみえる白いパンツ姿を背後から撮っているのがゾクゾクさせる。そのあといよいよ脱ぐぞ脱ぐぞと興奮が盛りあがってくると、アラはタンク・トップのシャツを自らはぎとり、下はノー・ブラ。こっちを向け、こっちを向けと願うまでもなく振り返ると、あの豊満な乳房が目の前に広がる。さすがのアラも少しタレてきたなあ、と生つばを飲んでいると、今度はカメラが背後へまわり、パンツをスルスルと脱いで、下にスケていたパンティー一枚になる。まさか、それも脱ぎ捨てるのと燃えるまでもなく、パンティーもさっさととって全裸に。脱ぐ姿は前面からのショットもあり、かがんだアラの、まさに手を伸ばしてもみたくなるような乳房の奥に、ほんのまたたく間だが陰毛ものぞく。そして世界一キュートと断言してもよいお尻を丸みえにしながら、パンティーを片手に持ってカルロスのほうへ歩いていく。うわー、これはもうみているほうが我慢できない。脱いだパンティーでカルロスの顔をパチパチたたくと、カルロスが全裸のアラを抱きあげてベッドへと運ぶ。このときアラのお尻がアップになり、もしアナルがみえたらどうしようと目をこらせる。ベッドの上では、相変わらず仰向けに寝ても崩れないアラの乳房がおがめ、乳首もバッチリで、やっぱりアラ以外に女神はいないことを再確認。さらには次に会うシーンで、アラはベッドへ横になると、服をめくりあげてオナニーを始める。まさかアラが自分でもだえるなんて… ここは全裸でないのが不満だが、それでもアラのオナニー・シーンをみられて、感謝感激。
カルロスが描いたことになっているアラのヌード・デッサンが何回も登場するのも嬉しいサーヴィス。
この作品のあとアラは非ヌード宣言したと『Ａｂａｎｔｅ』で読んだので、これは彼女の最後の素っ裸かもしれず、こころしてみよう。アラの絶品のボディーさえあれば、作品のできがうんぬんなんて、どうでもよくなってしまう。
