しかも｢現地妻を紹介する｣とススメられて
ラオス／ヴィエンチャンの薬草サウナ
ひょっとしてラオス人よりも、欧米人の方が多くないか？
今のヴィエンチャン（現地の発音ではウィエンチャン）の街を歩いた第一印象は、そんな感じだ。容易にヴィザが発給されず、遠い国だったラオスが門戸を開いた。空港で取得する到着ヴィザが可能になって、観光客が押し寄せているわけだ。空港ヴィザがなかった頃は、外国人の姿など珍しかったものだったというが…
もっとも、見るものがほとんどなく。半日も歩けば「これで全部なの？」とあきれてしまう、とても一国の首都とは思えないヴィエンチャンの田舎ぶりは相変わらず。
やはりヴィエンチャンで目ぼしい観光スポットとなれば、やや郊外にある薬草サウナをあげるしかない。『ロンリー・プラネット』にもガイドがあり、もうすっかり有名になっているが…
かつては地元の人たちの間でのみ、利用されていたのではないか。
たまたま地元客がほとんどいなくて、もちろん外国客も皆無のときに、ここへやって来たのは、僕の友人（？）のフェロリン杉浦。彼一人のためにサウナを沸かしてもらう。
木造高床式の建物の下で薬草がたかれると、煙があがるに従って何ともいえないかぐわしい香りが漂ってくる。
「おお、これは貸し切り状態だなあ」
なんて思いながら、パンツ一丁になってサウナ室へ。物置ぐらいの狭い空間で熱気を全身に浴びて汗をポタポタかいていると、入り口の戸がゆっくりと開いて、人影が現れた。「おや、誰が入ってきたのかな」
と視線を送ってみれば、湯気の中から確認できた姿は、一糸まとわぬ女性だった。それも尼さんである。年の頃は70歳も近いだろうか。
早い話が、老婆。期待させて悪かった。
何と予期せぬ、尼さんとの混浴になってしまったわけである。
尼さんは英語が話せて、彼に興味を持ったらしく、いろいろと質問してくる。
「日本人？」
「ハイ」
「ラオスに恋人とかいるの？」
「いません」
「ラオスの女性をどう思いますか？」
「とても素敵ですね」
「結婚してるの？」
「してます」
「ラオスの女性とも、結婚すればいいじゃないですか？」
とてもサウナの中で裸になって交わす会話とは思えない。しかも尼さんと。
「でも、重婚になってしまう」
「現地妻にすればいいんですよ」
「それは二号さんってことですか？」
「あなたさえよければ、現地妻になりたいという女性を紹介しましょうか？」
ちょっと待てよ、ラオスってスゴイところみたいだせ。
このあと僕が、市内でタイ式というか、ラオス式のマッサージを受けたときも、似たような会話があった。マッサージしてくれる女の子とボキボキ痛いマッサージの間に交わした世間話の内容は、彼女の両親が子どもの頃に離婚して、お母さんがある人の二号さんになった。でも、彼女にすれば継父にあたる人がすごく優しくて、私は幸せだというものだった。彼女が愛用しているバッグも、継父が買ってくれたものとか。
あなどれないよなあ。僕はこういうおおらかな国民性が大好きだ。
杉浦は尼さんの申し込みに対して丁重なお断りをすると、いい加減にゆだってサウナ室を出た。その気もないのに紹介されて、期待させてはマズイだろう。
サウナ室の横のオープンスペースでお茶を飲みなら休憩し、あとから出てきた尼さんに挨拶すると、市内へと帰っていった。
そして空港ヴィザが開設された年。僕がこのサウナに来てみたが、もうここは外国人の溜まり場と化していた。ファラン（白人）の何組もの男女に日本人の男性二人組もいる。みんな下着の上にタイルを巻いて、サウナ室の中は芋洗いの混浴状態。
「これじゃもう、尼さんは来れないだろうなあ」
ある種、寂しさを感じてしまった。料金（サウナは寺が経営しているから、本来はお布施なので定価は決まってないのだが）も高くなっていて、一般の現地の人たちだって容易に利用できなくなったのではないか。
99年はラオス政府によれば、ラオスの観光年とか。さらに外国人が押し寄せることは必至である。このサウナは、いったいどうなるのだろう。
いや、そんなことは考えまい。
僕は穴場スポットが、穴場でなくなる現在進行形を体験しているような気がした。
