ＬＡＭＡＮ
（食肉）
　
02年：リーガル・エンターテインメント
監督：マリオ・Ｊ・デロス・レイエス
主演：ロリータ・デ・レオン
　　　 アルベルト・マルティネス
　　　 エリザベト・オロペサ
　　　 ユル・セルヴォ
　マリオ・Ｊ・デロス・レイエスがねちっこい映像で描く愛憎劇。
　マニラへ向かう船の三等船室から始まり、いかにも下層の雰囲気が漂ってくる。ユル・セルヴォとロリータ・デ・レオン演じる夫婦がいて、夜の甲板でセックスする男女をロリータが目撃する光景に息づまる欲望のドラマへの入り口をうかがわせる。
　マニラへ着いたユルとロリータがジプニーからリサール公園やモニュメントなどを眺めるおのぼりさん気分は、自分の初上京時と同じかな。ロリータが念願のマニラだと喜びをあらわにするから、都会願望の強さも暗示。
　ユルはアルベルト・マルティネス演じる友人を頼ってきたのだが、再会のときにロリータをみるや、アルベルトが「奥さんか、美人じゃないか」とからかっていて、先の展開を示唆する。エリザベト・オロペサ演じる中年の女性オーナーにアルベルトがユルの就職をお願いし、これがレチョン工場。ブタを洗うところから、モップのようなもので表面に油を塗りながら一列に並べて焼くなど、その作業風景が好奇心をそそる。
　ロリータが男やもめだったアルベルトの家を大掃除し、尿の垢がこびりついたトイレを磨くリアルさは、臭いまで伝わってくるよう。ベッドに女性用下着が落ちていたり、マットレスの下にエロ本が隠してあって、思わずロリータがニコッと笑みを浮かべるあたり、すごく生活感がにじみでる。アルベルトがきれいになった部屋に驚くも、ちょっと恥ずかしそうにする気持ちに納得。
　近所に住むギルリー・ヒメネスやロールデス・シンチオコ演じる奥さん連中と洗濯しながらの井戸端会議や、ケネット・オカンポ演じるオカマがいるなど、貧民街の自然な雰囲気描写がまずまず。ケネットが女装してクラブ勤めにでかけるおかしさなど、でも現実にいるよ、との思いがわいてくる。
　エリザベトの夫が日本人で、ときたま来比して顔をだす設定で「エモトさん、こにちわ」「コージ、こにちわ」とフィリピン人の日本語がヘンなのは、確かに実態と合致。「時間です」といった日本人のほうの日本語まで妙なのは、ちょっと注意してほしい点。でもエリザベトが日本人のパパをつかんで工場を経営しているとは、ありがちな話じゃないか。実際に近い例を、いくつか本当に知っている。
　ロリータが得意の料理を披露し、イエロー・カレーのようなもので、アルベルトがフーフー汗をかき、水をガブガブ飲みながら食べて、辛味に弱いフィリピン人そのもの。ラストへの伏線でもある。
　夜に夫婦ゲンカが起きて周囲が仲裁に入るなど、マリオは本当によく人間模様をとらえていて、イキイキした場面の連続に、鮮やかな民衆観察の視点をうかがう。
　みごとだ、とブラヴォーを送りたい。
　でも、手放しで賞賛できるのは、前半四分の一ほどのここまで。物語自体は四角関係のもつれから殺人へと発展する従来のパターンをあまり逸脱せず、とくに感心するほどではない。
　アルベルトがエリザベトのヒモ同然で、セックスするたびにカネをせびっているのがいかにも。ユルとロリータがセックスを始め、ロマンティックとセンティメンタルの中間ふう音楽が、突然ガッーンとサスペンス・タッチに変わり、となりであえぎ声を聞いてほてるアルベルトをとらえるとき、真上のアングルから壁一枚で隔たれた二つの部屋を同一構図に収めた手法が、なるほどうまいなあ、とうならせる。エリザベトがやってきてアルベルトとセックスし、激しくもだえる様子からロリータがフフッと共感を覚える心理もたくみに表わしている。アルベルトが洗髪中に誤ってロリータがトイレ兼浴室へ入り、アルベルトのチンポをみてしまう偶然など、フィリピンの共同住居らしい構造を利用することで、きっかけに説得力を持たせている、などの細部の配慮に冴えるも、全体が予定調和の展開だからつまらない。
　ただセクシーな要素がバラまかれている部分は、グイグイ興味を引きつけてくる。最初のセックスで脱がされたロリータは、オッパイや股間がアップすぎてパーツにしかみえず、かえって興奮しない。エリザベトが二度のセックスでオッパイをチラチラと、短いショットながらもモロだしにするのは、熟女のパワー。ムズムズを抑えきれないとき、仕事で疲れてユルが熟睡状態で、一人もだえるロリータが服を脱いだのに、照明の暗さでオッパイが隠れていてイライラ。なんて焦らしのあと、エリザベトがカラオケ・バーも経営していて、Ｇ．Ｒ．Ｏ．たちを怒っている図はさもありなん。この店へでかけるとき、ケネットにつくってもらったイヴニング・ドレスをロリータが着て、さすがにハッと注目を集めるだけの魅力を放つ。どちらかといえば泥臭い容貌だし、役柄からボロい衣装だったロリータだが、バストの切れこみや、大胆にあいた背中、太めのプロポーションにおける腰のしまりなど、実においしそう。酔っぱらったユルを連れ帰り、介抱したあとにスリップのまま水浴びするシーンは、間違いなく全編のハイライト。突然アルベルトが入ってきて、ジョロジョロジョロと便器にオシッコをする。それを不安げにみつめるロリータは、濡れてボディーに貼りついたスリップの乳首と陰毛のあたりに手を置くポーズがそそる。アルベルトが迫ってきて立位でセックスを始めると、黒めの乳首がむきだしに。ロリータの驚くほどの巨乳がガバッと眼前だから、思わずスゲーッ。しかも部屋へ戻り、スリップを脱ぐロリータを正面から撮るショットにいたっては、もはや我慢できない。パンティー一枚になって、揺れるオッパイはまさしく肉のかたまり。ホルスタイン級だと圧倒のうえ、すぐにロリータがパンティーに手をかけ、まさかそれもと心臓がドキドキ。スルスルッとおろす前かがみの姿勢でオッパイがプラプラ動くエロスにイク寸前まで追いこまる。ついに陰毛バッチリの素っ裸になるや、あー、どうしましょ。完全ノック・アウトで立ち上がれない。
　ロリータにブラヴォーを送りたい。
　映画も途中で燃えつきてしまうが、はっきりいって楽しめるのは、ほぼ半分のここまで。後半はセックス・シーンがけっこうあるのに、ロリータのヌードがほとんどでてこず、なぜかユルがハダカになったりで、適当に流れていく印象に転じる。
　エリザベトがユルを誘惑して、いつの間にかアルベルトとユルのパートナーがチェンジ。アルベルトに対するロリータの呼びかたが「お兄さん」から名前に変わったことで、愛を表現するあたりはうまい。ユルが先に殺意を感じるも、あと一歩で実行せず、ロリータが手をそめるまでの運びにサスペンスを伴うテクニックは、マリオの実力発揮に足るもの。欲ボケのようでいて、結果的にエリザベトがイイ人だったとのキャラクターづけも、よく練ったあとがうかがえる。
　完成度としては上質と評価して十分なところ。
　ただ、この作品に限らず、似たようなストーリーをあきもせずに何度も繰り返すフィリピン映画というのは、ちょうど浮気劇ばかりが目立つフランス映画同様、単純ね、という言葉が脳裏をよぎってくる。色恋沙汰は男女関係の基本だから、当然か。
　新味の薄いぶん、マイナスだった。
　余談ながら、ロリータがカレーに毒薬を混ぜるのは、和歌山の林真須美事件の影響？　なわけないな。