ＬＡＧＩＮＧ　ＳＡＲＩＷＡ　ＡＮＧ　ＳＵＧＡＴ
（傷はいつもついたときのままに痛む）
　
99年：ＢＳＵフィルムズ
監督：ポルティア・アルヴィス
主演：アイラ・マリー
　　　 ヴィア・ヴェロソ
　　　 トントン・グチェレス
　　　 ジョン・アパシーブレ
　トラウマを題材にとれば、サイコ・スリラーのようなものを期待するし、実際に二重人格といった要素を盛りこんであるのだが、いささか人間ドラマにかたよりすぎてつまらなくなった印象。最初にこんなことを書くと身も蓋もないかもしれないが、退屈するような内容ではない。
　孤児院で育った二人の女性が主人公で、アイラ・マリーとヴィア・ヴェロソが演じるその二人の少女時代をジェマレーヌ・エストラダとクリスチャン・サンスインが演じていて、ジェマレーヌのほうはかなりアイラに似ている。孤児院の若い尼僧（アイミー・トレスか）が、けっこうかわいい。
　アイラにはエヴァ・ダレン演じる養母がいるが、アイラが孤児の学校を卒業すると同時に亡くなってしまう。そのあと舞台は変わって、いきなりマニラで広告代理店のエリート・ビジネス・ウーマンのアイラが登場。おそらくこの間に何があったかがドラマの中心になるのだろうと予測させ、アイラの回想心理として貧民街の光景や、物売り体験の描写を挿入のあたりが、まずまずの展開。さらにうなされながら、幼い自分の横で近親だったと思われるディック・イズラエル演じる男とジーン・サブリッツ演じる女がセックスするシーンなど、あとでどうストーリーにからんでくるのかとの期待がふくらむ。アイラの秘書役（ジョーイ・マエか）がエキゾチックで魅力的。
　でも金髪カツラをかぶって変装したアイラがナイト・スポットへ男を引っかけに行くエピソードへとつながり、ここは心理サスペンスとしてもっとも重要なあたりだろうに、別人格の部分に緊張感が乏しく、えっ、どうなってくの、とゾクゾクさせてくれない点がつらい。ポルティア・アルヴィス監督の技量不足を感じる。あやしい男がアイラの身辺をかぎまわり、その疑惑を仕事仲間のカメラマンへと仕向ける作劇内容も、どうせ実は…　となるに決まっているわけで、それほど成功しているように思えない。
　ヘンな留守番電話が入っていたり、鏡に落書きの部分も、もっと謎を盛りあげるための効果につかってほしかった。
　火事の回想シーンでは映像センスの片りんをうかがわせるが…
　基本はトントン・グチェレス演じる中流家庭のお坊ちゃんがアイラのことを愛するようになり、リト・レガスピとマリタ・ソベル演じる両親に紹介し、孤児だった過去のことを承知で婚約する愛情ものである。これにアイラの親友のヴィアとジョン・アパシーブレ演じる男との交際が平行して描かれる。ヴィアはアイラとまったく性格的に異なるも、友情で結ばれている設定で、妙に明るい雰囲気をだしている。おそらくアイラのほうが重いムードなので好対照をねらったのだろうが、アイラ側にサスペンスが足りない中では浮いてしまわざるをえない。
　結局、トントンへ変装して男を誘惑するアイラの写真が送りつけられてきて、といった定石パターンに陥り、アイラの裁判の回想があって、私怨で彼女をつけねらっている男が存在し、それはなんと…　というクライマックスへ突入するのだが、途中でバレバレだからあまり意外性のない人物だし、意味深に過去の心理映像を繰り返していたトラウマってこんなことだったの、という失望のほうが大きい結果。だったら精神科医にまで相談した変身願望は、なんだったのか。
　明らかに構成力がアマい、ということだろう。
　まあアイラとヴィアの共演だから、セクシーな部分はけっこう楽しめる。基本的には肝心の部分を映さない方針のようだから、オッパイのポロンはないものの、何度か繰り返すアイラのシャワー・シーンでは、手で乳房を隠していても、チラリ乳首ののぞく瞬間がある。変装してディスコのトイレでのセックスや、トントンとのベッド・シーンでは乳房がみえないままながら、トントンと全裸で抱き合う姿を俯瞰で撮ったカットは興奮もの。ただトントンと入浴でひげをそる光景は、なまめかしすぎていただけない。
　濃い容貌のアイラも色っぽいが、ヴィアのほうがファンで、ジョンとのベッド・シーンでは二回目の、全裸で横たわり、乳首も陰毛もあと少しの寸前あたりで隠れている肢体がみごと。またハイレグのパンティーになったり、黒いビキニの下着で化粧したり、海岸で黒いワンピース水着になったりと、いずれもチャーミングと野性味のほどよい調合で抱きしめたくなる。欲をいえばエプロンをしている姿くらいは、せめて下着を脱いでいてほしかった。ヴィアが全裸にエプロン一枚だったら、歓喜でショック死したかもしれないのに…