ＬＡＢ　ＥＮ　ＫＩＳＳＥＳ
（ラブとキセス）
　
96年：オクトアーツ・フィルムズ／シネマックス・スタジオ／Ｍ‐ゼット・フィルムズ
監督：トニー・Ｙ・レイエス
主演：ヴィク・ソット
　　　 ヴィーナ・モラレス
　　　 ラリー・シルヴァ
　　　 ヨヨン・マルティレス
　　　 レス・コルテス
　　　 ハイメ・ファブレガス
　　　 ドン・ペポト
　　　 リチャード・メルク
　　　 ロミー・ディアス
　　　 ベット・タマヨ
　トニー・Ｙ・レイエスとヴィク・ソットのコンビ作で、男装したヴィーナ・モラレスを共演させるユニークさを狙っている。まあ、トニーらしいロマンティック・コメディーだといえる。
　ヴィクは中年のひとりものを演じ、ラリー・シルヴァ演じる相棒とマニラで修理工場を営んでいる。ベット・タマヨ演じる近所でカイデリャを開くかわいこちゃんのアタックをうけながらも、まったく眼中にない女嫌い。ドン・ペポト演じる盲目の老人の孫で、ヤヌス・デル・プラド、アガタ・タパン、アルウィン・ウイティンコ演じる三人の子どもたちの名付け親になっている。一方でセブにヴィーナ演じる娘がいて、ハイメ・ファブレカス演じる伯父が借金のかたにレス・コルテス演じる嫌な相手との結婚を決め、挙式当日にヨヨン・マルティレスとヴァンジー・ラバラン演じる使用人と一緒に逃げだす。ヴァンジーが途中でつかまり、ヨヨンが姻戚のラリーを頼ってヴィーナとともに避難してくる。女を寄せつけないヴィクを納得させるため、口ヒゲをつけてヴィーナが男をよそおうわけである。
　だんだんとヴィクにヴィーナがときめきを抱き、女とバレていったんは去ろうとしたヴィーナだが、ヴィクがとめて恋に陥る。ヴァンジーをしめあげたレスたちがマニラへやってきて、ハイメの殺害未遂をヴィクになすりつけ、ヴィーナをセブへ連れ帰る。たまたま三人の子どもたちが現場を目撃でラリーとヨヨンにヴィクの無実を伝え、助かったハイメともどもヴィクの一行がセブへ乗りこんでくる。
　とのストーリーにおいて、大笑いはできないものの、そこそこにクスクスが起きるギャグが散りばめられている。ロミー・ディアス演じる客のタクシーをヴィクとラリーが吹っ飛ばすありがちなエピソードから始まり、屋台をぶっつぶしたときに「弁償しろ」「いくらだ」「二万ペソ」「まさか」なんてやりとりがいかにも。ベットの店にボーイ・ゴメスなどが演じるタコがむらがると、ヴィクにだけ親切なのにぼやきまくり。いつもヴィクにベットが料理を運んでくるや、ヴィクが食べないからラリーやヨヨンが口をつけようとする寸前にダメと戻すちゃっかりさがニヤニヤを呼ぶ。男装のヴィーナを三人の子どもやベットが「ハンサムね」といい、女性とわかって「かわいいね」で目のみえないドンがはてなとのシチューエーションがどこかユーモラス。ラリーの顔へオイルをたらしたり、バーナーでラリーのハゲ頭を焼いたり、意外とヴィーナもズッコケ演技に頑張っている。女気のないヴィーナにヴィクが「オカマか？」とたずね、自分はかつての恋人が忘れられないから女性アレルギーとなった説明をするのだが、本来ならホモ疑惑を向けられるべきヴィクが同性愛を聞く立場の逆転がおかしい。レス一味とヴィクたちとの格闘では、レスがブタの檻に落ちていて、役者ってのは大変だなあと思わせる。
　ヴィーナの正体がバレるのがシャワーでブラジャーを忘れることによるのは、女装趣味かととまどうなど、もう少し広がりの工夫がほしかったところ。ヴィーナが女だったのでヴィクが個室を与え、男三人で雑魚寝になったとき、左右にいるラリーとヨヨンが指をパチパチ鳴らすのはポール牧じゃなし、後半にもチョクチョクでてくるが、さしてギャグになっていない。バスケット・ボールの広場で野郎どものケンカに変わるバカ騒ぎぶりも同様。ましてヴァンジーがレスの子分から追いつめられて海へ落ちる災難は同情が起きて、ヴィーナがヴァンジーの安否を心配していないせいも加わり、相当なマイナス要素を強める。いくらでも批判したい部分を含むのは事実。
　でもヴィクとヴィーナが歌いながら途中で男装と女装が入れかわるダンスをし、ラリーとヨヨンがヴァイオリンとギターで伴奏のイメージ・シーン（ビートルズの『ＩＦ　Ｉ　ＦＥＬＬ』名曲）が楽しいうえ、うちわの小さなヴィクのバースディー・パーティーがいいムードをつくり、ほのぼの感が漂う。ラストのレスとヴィーナの結婚式で契りの誓いをごまかすヴィーナのもとへ、はたしてヴィクが間に合うのかのクライマックスは適度にジャマが入って『八十日間世界一周』の三分の一くらいは盛りあがるハラハラぶりだから、まずは満足のいく仕上がり。
　水準じゃないか。
　トニーのセンスの片りんを買う。
　ヴィーナの魅力はどうかという点では、水浴びでバス・タオルを巻いているのがチラリと映っているものの、背中の日焼けのあとがブラの紐をうかがわせて妙に色っぽい。一連のドレスをショッピングでオシャレに変身のショットからは、やっぱりさして美人じゃないなあと感じる落胆が、反対に庶民ぽさを表わすかもしれない。
　適役かな。
　なお、ヴィクの役名がラブラドルで、ヴィーナがキセス（男装のときはキコ）。ヴィクが「愛とキスだ」といっているカップルのネーミングのよい相性は、タガログ語にＢとＶの発音の区別がないから可能だといえる。日本人にはなじみやすさをおぼえる。