ＫＩＳＬＡＰ　ＳＡ　ＤＩＬＩＭ
（闇の中の火花）
　
91年：ボナンサ・フィルムズ／リフレクション・フィルムズ・プロダクション
監督：リノ・ブロッカ
主演：ロルナ・トレンティノ
　　　 クリストファー・デ・レオン
　　　 ガビー・コンセプション
　　　 チャリト・ソリス
　　　 グロリア・ロメロ
　　　 レス・コルテス
　　　 マルー・バリー
　レイプ事件がもたらす新婚カップルの危機を描く作品。エレナ・パトロンのエスペシャル・コミクスによる原作をジーナ・マリッサ・タガサが脚色し、深い心理表現にまではいたらないながら、リノ・ブロッカのたくみな演出でみせる内容といえる。
　クリストファー・デ・レオンとロルナ・トレンティノが新婚を演じ、父親のいないロルナはチャリト・ソリス演じる母の同僚で、クリストファーの親友でもあるガビー・コンセプション演じる青年が結婚式につきそう。田舎のガビーの別荘へ旅行したとき、レス・コルテス演じる現地の男がロルナに目をつけ、クリストファーとガビーをのしたうえ、ロルナをレイプするわけである。エルニー・サラテとグロリア・ロメロ演じるクリストファーの両親が世間体を気にして事実をした隠し、ロルナは暴行の悪夢にさいなまれる。しかも事情を知らないテス・ドゥンピットとミレット・アドヴィンクラ演じる友人が、レイプ犠牲者をあつかう映画をすすめたりもする。唯一、支えになってくれるガビーを頼ると、クリストファーが嫉妬をおぼえ始める。また、同じく精神的に傷をおったクリストファーはバーでマルー・バリー演じる歌手と出会い、肉体関係を結ぶ。姿をくらましていたレスが戻った情報をつかむや、ピストルを買って殺しにいくが、なんとかガビーがとめて、レスのチンポに熱湯をかける拷問で復讐をはたすも、まったく癒されない。マルーがクリストファーの職場を訪ねたり、ロルナに会ったりで、さすがにクリストファーがキレてマルーと別れる。ガビーとの仲を疑うクリストファーがロルナに強引なセックスをすると、このままの現状に嫌気のさしたロルナが事件の刑事告発を決め、ＴＶのニュースにでる。それをみたテスとミレットがロルナを苦しめたことを謝りにくる反面、新聞記事を読んだグロリアがスキャンダルになると非難に現われる。ロルナの妊娠がわかって、堕胎を求めるエルニーとグロリアに対し、ついにチャリトが堪忍の限界に達し、グロリアたちを追いはらう。クリストファーまで「おろせ」といったため、ガビーの愛の告白をうけて、父親がわりに出産。しばらく一緒に暮らすも、気まずい思いが残るとき、改心したクリストファーがすべての許しをこいにやってくる。
　結婚式におけるクリストファーとガビーの表情やそぶり、ガビーの車が故障の田舎で、たまたま居合わせたエルニー・フォルテ演じる知人が押すのを手伝い、仲間のレスがチラりロルナの手をとる行為、レイプの直後の治療で医者にエルニーとグロリアが口どめを頼むのをみるチャリトの軽蔑をひめる視線など、ささいな部分に内面をうかがわせるあたりがリノのうまさ。でも後半はクリストファーがガビーを殴り、しばらくさとしていたガビーもあきれてこぶしを返すようになって、クリストファーがロルナをぶち、マルーに平手をくらわし、チャリトがグロリアにビンタする以外、暴力によるストレートな感情描出の安易さが目立つ。マルーの薄っぺらなキャラが現実味をさげるのも惜しい。
　もっともテスとミレットの存在はなかなか説得力があり、それぞれクリス・ミチェレナとメンゲー・コバルビアス演じる夫ともども、飾らない庶民のやさしさが伝わってくる。
　構成の核をなすのは、荒れたクリストファーがロルナを犯すがごとくセックスにおよぶシーンで、これもレイプじゃないか、との主張が聞こえてきそうなところ。相手が無頼漢であろうが、れっきとした夫であろうが、性をもてあそび、強要するなら強姦に違いなく、嫌がるロルナの苦痛の顔に結婚写真をかぶせるつなぎが、いっそうテーマを際だたせる。あとでクリストファーがこの結婚写真をながめておのれの非を認めるわけで、きっかけの小道具としての活用もなれたもの。結局は元の鞘へおさまる厳しさの足りないドラマといえばそれまでかもしれないが、愛を欠いた肉欲の不毛をとく意図と、まとまりのよさを評価したい。
　細かい点だと、クリストファーが設計技師、ガビーがトヨタの販売員で、いつもフィリピン映画において中流の職業が建築家かカー・セールスなのが興味深い。マリーがデッサンをおこなう画家でもあり、いきなり事務所へもってきてローズマリー・フェレル演じる秘書などを驚かせるクリストファーの大きなヌードの素描が、チンポまでリアルで奇妙な迫力に満ちる。
　なんといってもウハウハはセクシーな要素にとどめをさす。レスによるレイプでロルナはスリップからパンティーをはぎとられるも、肝心のパーツが隠れ、アザだらけの裸身もオッパイがみえないままで、レスの半ケツのほうが目立つくらいだし、クリストファーの無理矢理セックスではスリップのブラまでの露出だが、クリストファーとガビーの三人で遊ぶ海が素晴らしい。バルサ（屋根つきいかだ）に仰向け、うつ伏せに寝転ぶロルナはワンピース水着が誘惑光線を放ち、小さめの胸の谷間がのぞき、ふざけてバルサから水中へ落とされる際にヒップラインがくっきり浮かぶ。マルーはさらに悩殺をくれて、クリストファーとシャワーで抱き合い、ベッドでかさなるとき、今にも乳首がポロリとこぼれそう。しかも全裸でシャワーを浴びて愛撫をかわす立位をすりガラス越しにとらえるショットでは、マルーのお尻の割れかたを正面に映しだす。お尻がガラスにムギュッと押しつけられるや、思わず興奮が頂点に。
　ハスキー・ヴォイスの歌声のマルーが、大人の色気を満開にしたといえる。ほかにもう一人、クイーンテ・ロペス演じる歌手が登場するが、容貌イマイチだった。