ＫＡＭＡＹ　ＮＩ　ＥＶＡ
（エヴァの手）
　
99年：グッド・ハーヴェスト・プロダクション
監督：セザール・エヴァンゲリスタ
主演：アルマ・コンセプション
　　　 ヘーゼル・エスピノサ
　　　 レオ・ラバゴ
　　　 フアン・カルロス・カストロ
　　　 チャーリー・ダヴァオ
　　　 リア・アロンソ
　　　 カルロス・モラレス
　マッサージ嬢を主人公にした作品である。ご存知のように、売春の要素が半分以上なわけで、そのあたりの現実をどうとらえるかが焦点になってくる。
　舞台にとるのはバギオだが、店のシステム的にはメトロ・マニラのロドリゲスやウェスト・アヴェニューあたりにあるものとさして変わりない。「パウダー、アルコホリック、ローション？」と選ばせたあと、結局はスペシャル・サーヴィスに。
　アルマ・コンセプション演じる主人公は、フアン・カルロス・カストロ演じる学生のボーイフレンドとイヴリン・ゲセル演じる母など家族を支えるためにマッサージ嬢を始め、仕事内容についてはナイショ。最初のあたりで恋人と会話するシーンで「ありがと」「食べなさい」「ごめんなさい」「いいよ」といった日本語をつかうシチュエーションがあるので、あとで日本人がからんでくるエピソードがでてくるかと思ったが、ただのお遊び程度だった。
　アルマがチャーリー・ダヴァオ演じる中年の判事をマッサージしてあげるシーンに、ヘーゼル・エスピノサ演じる新人が面接されるとき、オーナーの前で全裸にむかれ、味見で無理やりセックスとなるシーンがダブる。おなじみヘーゼルのエクボのあるお尻がキュートで、ペロペロなめてあげたい。このあとアルマからマッサージを教わるときの上半身ハダカで乳首がチラリのぞくカットが興奮をかきたてるし、客をとるようになって、中庸の盛りあがりで乳首をチュッチュしたい乳房も全開にしてくれる。セクシー要素ではヘーゼルがもっとも輝いているといえよう。他にはリア・アロンソ演じるマッサージ嬢が、カルロス・モラレス演じる客を手コキでイカせるとき、黒いパンティー一枚のセミ・ヌードとなり、ヒップラインの魅力と、隠しきれていない乳首の誘惑でビンビンにしてくれる。それに反してアルマは期待を裏切っていて、フアンとのベッド・シーンでは事前のシャワーでフアンがみたくもないお尻をみせるのに、まったく露出がなく、チャーリーとのベッド・シーンでも上半身ハダカだが、背中だけで乳房の谷間ですらみせないから、完全にお色気不発。確かに美人なものの、ボディーの挑発がないことにはイマイチ不満。容姿的にやや劣るながら、そこそこかわいいヘーゼルとリアの二人に拍手を送りたい。
　と話がそれたが、面接のときまだ純情だったヘーゼルがプロとしてスレていく過程をサブ・ストーリー的に平行して描くのかと思えば、それはあっさりと小さなエピソードの扱いに処理されている。まあ、こうした単純化が映画から奥行きを奪っていて、セザール・エヴァンゲリスタ監督の力量不足でもある。
　映画はドミニク・レア演じるオカマを中心にコメディー要素を盛りこむも、普通のドラマとして進行する。フアンが店にきてひな壇にいるアルマがあわてて顔を隠すや、やっぱりカネじゃ買えない的に帰って助かるシチュエーションなど、フアンの性格づけをきれいにしすぎて現実感を薄めている。アルマの父は重病人なのだが、レオ・ラバゴ演じる近所の男が介護を手伝ってくれていて、好青年的に登場。実際はとんでもないヤツだというのが覚せい剤を吸うシーンあたりから明らかになる。レオはアルマにホレているものの、仕事のことを知ってあこがれが失望に変わり、強引に交際を脅迫してくる展開に。なんてありがちな設定、といささかあきれを招く。
　父が入院して、その費用のためにチャーリーと売春したり、店が警察の手入れを受けて、留置所にいるときに父が亡くなるあたりも、ドラマティックにしようとの意図がミエミエで、安手だなあと苦笑い。
　レオがフアンに仕事のことをバラしてケンカになり、フアンはナイフで刺されてしまう。幸い軽傷ですんだものの、身体よりも心に深いダメージを受ける。ジョルジア・オルテガ演じるアルマの親友の話を聞いてすべてを許す決心をするまで、なんというか、悩みかたが中途半端で、あっさりしたドラマだからこんなものか、と納得するしかない。
　今度はアルマがレオに拉致のうえ、レイプされそうになってとっさにナイフで刺殺。そのあとにフアンが店に客となってきて、アルマと和解するシーンがあるのだが、殺人の容疑者なのにいつも通りに働いているのは、いくらなんでもヘンじゃないか。
　最後は裁判が開かれ、マッサージ嬢がみんなでアルマのための証言をし、フアンが弁護士で、チャーリーが裁判長だったこともあって、正当防衛が認められ無罪に。チャーリーが判決を下したあと「新しい人生を歩んでほしい」と書いた手紙をアルマにこっそり渡すなど、確かに無罪のケースだとは思うが、公平な裁判からほど遠いことを実行しているといえて、バカバカしいドラマだなあと再び苦笑い。
　結果的にマッサージ嬢の現実を正面から描こうという意図もなく、あきれた、というのが正直なところである。
　なお全体のナレーター的なポジションにいるジョルジア・オルテガがクレジットにないのは、どうしてだろうか。カメオにしては役が大きすぎるし、カルロス・モラレスが特別出演となっているから、同じ扱いでもよいはず。プロデューサーと何かもめたのかなあ、と気になってしまった。