Ｉ　ＷＩＬＬ　ＳＵＲＶＩＶＥ
　
04年：リーガル・エンターテインメント
監督：ジョエル・Ｃ・ラマンガン
主演：マリセル・ソリアノ
　　　 ディーナ・ボネヴィー
　　　 エリック・キゾン
　　　 ジュディー・アン・サントス
　　　 ピリータ・コラレス
　　　 トントン・グチェレス
　　　 ジェー・マナロ
　　　 リチャード・グチェレス
　　　 ＴＪ・トリニダッド
　　　 セレナ・ダルリンプレ
　　　 ジェー・アキタニア
　　　 レジー・カーリー
　　　 カルミ・マルティン
　最近、子どもが二人いる三十代の女性とつき合い始めたのだが、たまたま持っていた雑誌をめくるとノラ・オーノールの写真が載っていて「ファンなの」と聞いたら、あっさり否定して「ディーナ・ボネヴィーが好きだ」という。別の機会には「マリセル・ソリアノがひいきだ」とも聞いた。一方、サマールに住むカノジョの姉は少女時代にジュディー・アン・サントスへあこがれたそうで、そのなごりなのか、今でも部屋にポスターがベタベタと貼ってある。
　マリセル、ディーナ、ジュダイの人気女優三名に、エリック・キゾンが共演した作品。個人的にはディーナがスターなので期待が盛りあがる。
　リッキー・リーの脚本による四人四様の悩みを描く構成をとり、このところジョエル・Ｃ・ラマンガンは『ＭＡＮＯ　ＰＯ』『ＦＩＬＩＰＩＮＡＳ』など、群像劇に関心を示しているよう。
　マリセル、ディーナ、エリック、ジュダイが演じるのは、コーラス・グループを組む友人同士。マリセルは会社の女性重役で、ジェー・マナロ演じる夫とセックスレスに陥っている。ディーナはかつてビューティー・クィーンだったＣＭタレントで、トントン・グチェレス演じるカメラマンの夫から溺愛をうけている。エリックはジムのインストラクターで、レジー・カーリー演じるバイク警官と同性愛なのをシタ隠しにしている。ジュダイは海外就労から帰った妻で、同じく海外労働者のＴＪ・トリニダッド演じる夫が派遣先のオーストラリアで浮気したのではないかと勘ぐっている。これにリチャード・グチェレス演じるファッション・モデルをつとめるマリセルの息子が性病かもしれないとの心配からまともに女の子を口説けず、リリー・アン・チュー演じるガール・フレンドにフラれる。セレナ・ダルリンプレ演じるディーナの娘が、母と違ってブスなことにコンプレックスを抱き、反抗的な態度ばかり。ジェー・アキタニア演じるエリックの長男が父のゲイ疑惑へ探りを入れ、自分もゲイになる可能性を秘めると不安がる。ジェマエ・クストディオ演じるジュダイの娘が不在の間に育ててくれたエドナ・マエ・ランディチョ演じる祖母になつき、自分へ心を開かないのにジュダイが手を焼く、など子どもの世代の葛藤がカラむ。
　コーラスの先輩であるピリータ・コラレス演じる初老の女性が若い白人のツバメと結婚式をあげ、ブディー・プラド演じる牧師とともに四人が歌って踊る冒頭から、まずミュージカル的な要素をうかがわせる。ピリータが投げたブーケを四人が投げ合うショットでコメディー仕立てともわかる。実際、ディーナが目にキュウリをパックしているといったハズレのギャグもあるながら、けっこうクスクスと笑えるシチュエーションを含み、さすがジョエルだけあって、ツボを心得た表現の多いのに感心。ストーリー自体は、この種の内容だと無難におさまるのが相場と決まっていて、リチャードが性病の陰性と判明して喜ぶのに、なんとマリセルが陽性。ジム・ペバンコ演じる友人と一緒に遊びほうけていた夫のジェーが原因で、二人をこらしめる。セレナがいかに母を愛しているかに気がついたディーナがやさしく接し、閉じこもりを脱したセレナがディーナと親子でＣＭ出演する。町で息子のジェーが泥棒に襲われたのを助けに加わったエリックが大暴れで、オカマだって男らしいことを教える。ＴＪにオーストラリアで亡くなった不倫妻との間に娘とおない年くらいの男の子がいると知ったジュダイが、その子を娘の弟として育てる決心をする、とホントきれいにまとまった印象。かえってすっきり感が不満なくらい。
　もっとも細部の要素におもしろさが広がる。リチャードがインターネットのＴＶ電話で女の子に「一緒にハダカになろうよ」とせかし、画面の中でブラになった相手に「それもとって」と懇願していて、実は個人的にカノジョとこれをやろうかな考えているところで興味がわく。パソコンを買ってあげないといけないし、カネがかかるなあ…　なんてね。エリックへジェーが携帯電話をねだり、フィリピンでも携帯が三種の神器と化した印象を与える（何を今さら！）。エリックがレジーの制服に興奮をおぼえるのは、ゲイの嗜好の反映か。マリセル、ディーナ、ジュダイがエリックのジムでサンドバッグをたたいていて、ボクシング・ダイエットの普及ぶりもけっこうなよう。マダム・アウリン演じる占い師にマリセルが運勢をたずねる、女性の占い好きはいずこも同じ。ちなみにマダムは新聞や雑誌のコーナーをかなり持つ、本物の人気占い師。トントンの写真館にグライデル・メルカドのポートレートが額縁にかかけてある楽屋落ちが楽しいなら、セレナの宝物入れの缶からディーナの写真がいっぱいでてきて、真剣に美人だったころのディーナのブロマイドにうっとり。リチャードがマリセルにオナニーをみつかりそうになるのは、ちょっと同情が起きる。さすがにあれは、親に知られたくないもの。カノジョにはワザとみてもらったりするが…　アンジー・カストレンス演じるエリックの妹が同性愛についての擁護でヴァージニア・ウルフやガルシア・マルケスの小説を持ちだすインテリっぽさは、リッキーの趣味だろうか。マニラ空港でＴＪが愛人の死体到着を受けとる一連のようすからは、なるほどとの好奇心を刺激される。ジュダイが葬式場を訪ねた直後に涙を流し、泣いた理由がＴＪの裏切りではなく、隠し子の少年が「とってもキュートだった」というのが若い母親の心理なら、セレナにボーイ・フレンドができたとディーナとトントンが安堵するのが、年ごろの問題児をかかえる夫婦の親心。さすがにバカバカしかったのはリチャードと息子のジェーにエリックが加勢して強盗との対決で「サムライだ」との幻想を浮かべると、敵が忍者に変わり、ジェーとエリックがチョンマゲを結っているシーンで、まったくの無茶苦茶じゃないか。
　まあ、なんといっても一番の歓喜は、ＣＭの中でディーナがワンピース水着を披露する点に尽きるといえる。白いピタパンもゾクゾクだし、ディーナのセクシーさは熟女になってもまったく衰えないもの。しかも本作では、お色気と無縁のはずのマリセルが挑発をくれるのが、かなり意外なおいしさ。夫の誘惑でネグリジェやスリップからバストの谷間を強調したあと、キャット・ウーマンに扮するとき、全身にぴったりフィットの黒いラバーのボディー・スーツで現われるからたまらない。胸元にのぞく谷間には、思わず生つばゴクり。ジョン・アパシーブレ演じるセールス・マンとセックス未遂に終わるシーンでも乳房のラインがみたかったのは欲張りすぎか。もう一人、エリックが「息子に会ってやってくれ」と頼みにいくところでカルミ・マルティンが別れた妻を演じていて、さすがに容貌の後退は隠せないとはいえ、ドレスからのぞく谷間が魅惑の光線を放つ。映画の公開と前後して発売された雑誌『ＹＥＳ』に海で遊ぶパパラッチ写真が載っていたが、およそ五十歳になろうとは想像できないビキニが大胆だっただけに、カルミおそるべし。
　エリックのジムの更衣室でシャワーを浴びる男たちのお尻はおろか、チンポがのぞく寸前のショットがあるのは、オイオイ、やめてくれー。
　とにかく個人的に燃えたのは、四人がそろって『Ｉ　ＷＩＬＬ　ＳＵＲＶＩＶＥ』を歌うラストのステージにとどめを刺す。マリセル、ディーナ、ジュダイの衣装が赤くキラキラ光るピタパンだから、こりゃあ、たまらない。ピリータまで登場は余計ながら、ディーナのお尻のショットには、ハダカじゃないのに下半身が元気になる。
　演技的には女っぽいしぐさをついだして困惑のエリックを始め、四人の芸達者ぶりにただただ納得。映画そのものが佳作なばかりか、ディーナの魅力もあって、十分に満足のいくできだった。