ＩＳＡＮＧ　ＴＡＮＯＮＧ，　ＩＳＡＮＧ　ＳＡＧＯＴ
（ひとつの問い、ひとつの答え）
　
97年：ネオ・フィルムズ
監督：マック・Ｃ・Ｕ・アレハンドレ
主演：ドンナ・クルース
　　　 ジェーソン・エヴァリー
　　　 ジーナ・パレニョ
　　　 マルー・デ・グスマン
　　　 アルネル・イグナシオ
　　　 ノエル・トリニダッド
　　　 アイアイ・デラス・アラス
　桑田佳祐が自らの監督作である『稲村ジェーン』のために書いた主題歌“真夏の果実”のタガログ語ヴァージョンを主題歌にするラヴ・ロマンスで、それを歌うドンナ・クルースが主人公を演じる。曲のできはさすがだが、映画としては箸にも棒にもかからなかった『稲村ジェーン』に比べ、マック・Ｃ・アレハンドレが手堅くまとめた亜流の本作のほうが数段上の仕上がり。というか平均レヴェルの青春ものといえる。
　アメリカ人の青年との恋愛をあつかい、多少とも文化の違いを背景におく。
　女学生のドンナは、ジーナ・パレニョ演じる家政婦の母の支えで都会の学校へ通っている。ジーナが病に倒れて田舎へ帰ることになり、退学を決めると、マルー・デ・グスマン演じる伯母と一緒に自分が家政婦を始める。アメリカ合衆国からやってきたジェーソン・エヴァリー演じるお坊ちゃんの屋敷で、ハンサムなジェーソンにひと目ぼれ。どんどん恋心をつのらせるも、ジェーソンはまったくドンナなど眼中にない。外で遊びにきょうじ、グラシア・コルテス（サマンタ・ロペスの前の芸名）演じるディスコで知り合った女性を連れこむ。
　前半はジェーソンのごう慢さを軸に描き、まさにアホバカ・アメリカンそのもの。考えや行動を一方的に周囲へ押しつけ、ケンカで留置されると「俺はアメリカ人だぞ」と騒ぐ。アルネル・イグナシオ演じるお守り役の友人すら、しばしばあきれ気味。脚本のメル・メンドーサ・デル・ロサリオやマックは、よくアメリカン体質をつかんでいるじゃないかと感じる。いくらハンサムであっても、こんなノータリンは相手にするな、とドンナに忠告したいほど。後半のジェーソンの変貌ぶりを強めるため、わざとしょうもない性格に設定の面はあるだろうが…
　いったんドンナの存在に気がついて、美容院で洗練したり、服を買ったりのあと、再びジェーソンが命令口調のご主人さまに戻ったので、ついにドンナがさめて、啖呵とともに辞めてからが後半。マルーの抗議にショックのジェーソンが思いやりのなかった態度を反省し、アルネルのすすめでドンナの田舎を訪ねてくる。しばらくはドンナのほうが「何しにきたの」とつっけんどんだったものの、ジーナやマルー、ノエル・トリニダッド演じるドンナの父、シャンタル・ウマリ演じる妹などがあたたかく迎えてジョーソンがフィリピンの環境になじもうと努力し、ドンナが愛情を復活させる。竿を担いでの水汲みに始まり、斧で薪わり、たらいで手もみの洗濯、雑巾で床のふき掃除などをおこなう。個人的には地方の民家に何度か泊まっているが、いまだ掃除や洗濯を手伝った経験はない。というか、そんなことはさせてくれない。お客だからだろう。農作業や漁はこちらが関心を示して望めば、マネごとくらいに教わって表面的な経験ができる。せいぜいジャマしない程度の状況が普通に思え、まして自己中心的アメリカンが現地の習慣に理解を向けるか非常に疑問であり、映画ゆえのフィクションをかぎとる。ただしパパイヤやバナナなどを栽培する農村の光景が映像ならではの興味を引きつける。フィエスタのようすも余興やパレードがフィリピンの土地柄を伝えてくる。
　いよいよドンナと将来を誓い合ったはずが、「アメリカへ帰らないといけない」とジェーソンが切りだす…
　けっこうコメディー要素を盛りこむため、アイ・アイ・デラス・アラス演じるうるさい家政婦がズッコけるのはよいながら、ドンナのおふざけが低脳キャラにみえて、演出の計算ミスっぽいのが残念。ウィリアム・ティオ演じるドンナの男友だちにジョーソンがケンカを売るのも、ストレートすぎて一途な気持ちよりも思慮の足りなさが目立つ。でも若い二人の感情的対立をへて、あたたかいふれ合いにホロリとさせる手腕はまずまず買える印象があり、マックの表現力を再確認する。ずっと英語のジェーソンが最後に「マハール・キタ」という構成にもうなずく。
　さてドンナの魅力はどうかだが、歌手としての人気はさておき、かなり好みのタイプじゃないのでときめかないのが本音なものの、今回ばかりは注目だった。田舎の紺碧の海でジェーソンとデートのときの水着姿が素晴らしい。ウィリアムなどみんなからこれどう？　みたいにわたされ、えーっ、これっ！　といった恥ずかしそうな表情をつくっているのがムズムズとそそる雰囲気をかもし、実際に身につけてビーチを歩けば、光沢素材のハイレグ・ワンピースで、個人的にタイプの形なので萌えまくるうえ、切れあがった股間が視線を奪ってやまない。ホント、もっともっとたっぷりと、いつまでもいつまでもみつめていたいくらい。
　まさかドンナに悩殺をうけるとは想像だにしなかった。
　サマンタは赤い皮のホット・パンツで踊るのがセクシーで、確かに美人だと感じるが、胸に刺青を彫っていてシラけが起きる。アイ・アイがタイツをはいたワンピースのスカート形水着になるのは余計。ジェーソンの自宅のプールで泳ぐ女性二人は水につかったままでプロポーションはおろか、顔すらわからずじまい。ドンナとウィリアムの同級生のカップルをチョロ・エスカーニョとシェリリン・レイエスが演じていて、いつもながらにシェリリンがキュートなのにうっとり。ドンナの失望を招くジェーソンにナンパされる女性を演じるのはクレジットに名前がないも、ジョアンヌ・サラザールだと思う。