（一、二の、散で走れ！）
95/96年：スター・シネマ・プロダクションズ
監督：エドガー・モルティス
主演：アンジョー・イリアーナ
スモーキー・マナロト
シャーメイン・アルナイス
ジュン・アリストレナス
ティルソ・クルース・３世
アーミー・オーストリア
アル・タンタイ
レス・コルテス
ダリウス・ラゾン
コメディーの快作と評価していいだろう。
探偵事務所の社長役で出演しているエドガー・モルティスが監督し、ストーリーも考案。ルドルフ・ハミロムが脚本で、悪徳警官役のアル・タンタイが協力監督。なかなかセンスがよくて、いい仕事してます。
アンジョー・イリアーナとスモーキー・マナロト演じる私立探偵が主人公で、冒頭の当たり屋をするエピソードが、本来なら不快なはず。友人の中に日本で当たり屋の被害にあった者がいて、実に悪質な犯罪行為。こんな詐欺まがいのヤツらには共感が起きないものだが、カネを巻きあげられる運転手のほうが携帯電話で通話しながらの走行だったから、ちょっと話は別。携帯電話を平気で運転の最中に使うような安全意識の欠如野郎からは、いくらでもぶんどっちまえ、といっていいわけだから。日本の当たり屋も、ターゲットを通話中の運転手に限定するなら、かえって応援するぞ。
といった話題は置いといて、アンジョーとスモーキーはストリート・チルドレンたちに食事を持ち帰ってあげたり、やさしい面の持ち主にもなっている。
二人の探偵事務所はボロいビルの中にあり、扉を閉めるといつもガチャンとガラスの割れるのがギャグ。最初はこんなレヴェルで笑わせようというのか、とバカにしたくなるが、何度も繰り返すうちにパワーがでてくる。あとでティルソ・クルース・３世演じるダンス・ホールの悪徳経営者が、シタ・アスタルス演じる女の客を誘惑している現場を二人が調査し、ポチョロ・モンテス演じるシタの夫がティルソを襲ったために、怒ったティルソが探偵事務所を攻撃するシーンで、無理やりドアを破ろうとガラスをぶったたくも、びくともせず、なんとか蹴り開けたあとに閉まるときガチャン、なんて確かにクスクスを呼ぶ。
ジュン・アリストレナス演じるのがビルのオーナーで、家賃をとりたてていると、アリ・ソット演じるおばさん占い師の住人がごまかそうとする。アリの息子がボーイ・Ⅱ・キゾン演じるストリート・チルドレンのリーダーで、パトリック・ガルシア演じるジュンの息子がエレベーターの故障で閉じこめられると、たくみに助けて親友に。ボーイの姉がシャーメイン・アルナイス演じるＴＶレポーターで、アンジョーがひと目ぼれ。レス・コルテス演じるろうあ者の自殺騒動をうまくアンジョーがとめる現場をみて、シャーメインも心引かれる。逆恨みからシャーメインが犯罪者に狙われて、アンジョーとスモーキーがボディー・ガードに。一方、ティルソのダンス・ホールへジュンが通っていて、アーミー・オーストリア演じるインストラクターがお目当て。ティルソが誘惑指令を発してアーミーが迫り、ジュンが再婚を決意。シャーメインとパトリックがアーミーを嫌って猛反対、との人間関係。
ティルソとアーミーがパトリックの誘拐を計画してメイン・ストーリーへと進む。
パトリックの誕生日会へボーイたちがやってきて、ジュンの「コスチューム・パーティーだよ」の問いかけに対し「浮浪者の衣装だ」と答えているユーモアがなかなか。パトリックとボーイがバットマンのかっこうを入れかわったために、誘拐のターゲットを間違える。子どもが別人でも脅迫できるとは、黒澤明の『天国と地獄』じゃないか。またはアイディアの元になったエド・マクベインの『キングの身代金』か、と先を予想するも、さすがにフィリピンのコメディーはやってくれる。再びアーミーがパトリックをさらおうとしたところをアンジョーとスモーキーが横どりし、驚くパトリックに協力を頼んで、本人承諾の狂言誘拐。ジュンからカネをださせると、そのカネでボーイを助けだそうとの作戦。なんという強引さというか、ユニークさというか、巣晴らしすぎる発想じゃないか。
しかもボーイが自力で脱出してくるのだが、たまたま隠れ家から滑りおりたときに強盗現場の犯人にぶつかり、助かった被害者がバットマンの登場だと勘違いしているのが、またあきれるような笑いを誘う。
いやはや、バカバカしさのエネルギーよ。
結局なんだかだでカー・チェイスなどのドタバタを繰り広げるも、ストリート・チルドレンの助太刀を得て一件落着。アンジョーが犯人だと誤解したシャーメインとよりを戻す当たり屋狂言もシャレていて、けっこう楽しめるでき。何回かビンタする暴力性が気になるものの、まあよしとしよう。
はずしているギャグも多いが、先のドアのガラスなど、笑える部分も十分に含んでいる構成がイケる。繰り返しが生むパワーでは、キャンディー・パンギリナン演じる、いつも車が水たまりを通ったときにビシャッとはねをかけられ、ずぶ濡れになっている女性。ついには傘を用意し、居合い抜きのようにバサッと差すと、はねをバシャッとシャット・アウトする。バサッ、バシャッ… バサッ、バシャッ… でズトンと水たまりの転ぶオチまで、台詞がひと言もないキャンディーのコミカルな演技が拍手もの。
また主題歌の『Ａ ＴＩＮ－Ａ ＴＩＮ』が耳ざわりのよいバラードなのもポイントをプラスで、タガイタイでのアンジョーとシャーメインのデートのシーンで流れるのだが、下に歌詞の字幕が入り、今ここですよ、との位置をカーソルが示すカラオケ状態。さあ、一緒に歌ってね、ということだろうが、ほんわかしたムードを醸していて気分上々。エンド・クレジットで再び流れると、余韻をつくってくれる。
あと個人的な趣味である女優の魅力だが、さすがにシャーメインがかわいくて、こりゃあ、アンジョーじゃなくてもイカれるよ、との誘惑。思わず抱きしめてキスしたくなる。アーミーは身代金受け渡しのシーンでの黒いシャツから胸の谷間が視線を奪う。とくにウハウハだったのはジーン・サブリッツ演じる愛犬の捜索を探偵事務所に依頼する女性で、アンジョーとスモーキーが問題の犬を追いかけていると、勝手に主人の家へ帰ってしまうときに、プール・サイドで寝そべっていて水着姿。グレーのワンピースがけっこうボディーに貼りつき、そろそろおばさんなのに色気がムンムン。ティルソとシタの不倫現場撮影の際に、アンジョーとスモーキーがダンス・ホールの女子更衣室のクローゼットに隠れると、やってきたダンサーが着がえ始めて、手前にいる女性の白いパンティー姿も嬉しいオマケ。
期待していなかっただけに、ちょっとセクシーさもどきまで加わり、正直、満足しました。
エドガー、エライ。
