（あなたと戦う 映画版）
(95)年：スター・シネマ
監督：マリルー・ディアス・アバヤ
主演：シャーメイン・アルナイス
チンチン・グチェレス
ニダ・ブランカ
ジーナ・アラハル
エリザベト・オロペサ
ロナルド・ヴァルデス
リッキー・ダヴァオ
ジョエル・トーレ
ホセ・シソン
実際に弁護士であるホセ・シソンがホストとして登場し、裁判劇を解説する二話構成のオムニバス。“映画版”とのクレジットから、先に“ＴＶ版”があったのかどうかは不勉強でわからない。『ＰＥＯＰＬＥ ＯＦ ＴＨＥ ＰＨＩＬＩＰＰＩＮＥＳ（ＭＡＲＩＡ ＳＡＬＤＡＧＯ） ＶＳ． ＲＯＳＥＮＤＯ ＤＥ ＣＡＳＴＲＯ ＱＵＡＬＩＦＩＥＤ ＳＥＤＵＣＴＩＯＮ ＣＡＳＥ ＮＯ．２３４５０』と『ＰＥＯＰＬＥ ＯＦ ＴＨＥ ＰＨＩＬＩＰＰＩＮＥＳ（ＧＩＬＤＡ ＣＵＥＢＡＳ） ＶＳ． ＡＬＡＮ ＤＥ ＬＯＳ ＳＡＮＴＯＳ ＲＡＰＥ ＣＡＳＥ ＮＯ．５３８８３２』からなり、裁判長を演じるクリス・ダルスが共通しているから、同じ法廷での判例という設定だろう。最初に起訴文が朗読されるとき、両方ともケース番号が題名と違っていて、細部に気づかわない適当さに嫌な予感…
とはいえ、双方がこじんまりとまとまった小品ながら、マリルー・ディアス・アバヤらしい女性の権利を問いかける内容になっている。
第一話はシャーメイン・アルナイス演じる娘がエリザベト・オロペサ演じる母のすすめで、ニダ・ブランカ演じる叔母がロナルド・ヴァルデス演じる地方の有力者と結婚していて、この叔母宅で家政婦として住みこみを始める。突然、若い乙女がやってきてロナルドがフェロモンに抗しきれず、シャーメインを愛人状態にする。懸命に拒んだシャーメインだが、抵抗も及ばずにたびたび抱かれ、ついにニダが現場を発見するや、シャーメインに髪を切るリンチを加える。猛然と怒ったエリザベトが法に訴えるとの展開。
シャーメインがロナルドからこづかいをもらったり、実家へ帰ろうとするのをカネで引きとめられたり、一度ではなく何回も抱かれていた事実を突っこんで、トニー・マベサ演じるロナルドの弁護士が「セックスを楽しんでいたんじゃないか」と攻めるのがポイント。明らかにシャーメインの心が裁判を通してさらに傷ついていく。証拠をとるために医者からオマンコをチェックされたり、裁判の中で抱かれるようすを再現させられもして、セクハラ裁判がいかに女性にとって屈辱かを訴える面も持っている。
市長の仲裁によってロナルドがカネで示談に終わらせようとするのをエリザベトが頑として断り、親子愛の強さが物語の一方の核。それだけにロナルドとニダの夫婦間における対立がぼやけたのは残念だが、シャーメインの軽率さを非難しながらも、ニダがエリザベトに姉妹の仲を戻そうとするアプローチや近所の人たちのいじわるなど多角的な視点を通してエリザベトの娘を守る意志を示していく。
ガマリエル（ガミー）・ヴィライ演じるシャーメイン側の弁護士の機転で、ロナルドが有罪になるラストは、みているこちらまでホッとする結末。抱き合って喜びを表現するシャーメインとエリザベトの姿からは、もう肉体に与えられた傷は取り返しがつかないものの、相手を有罪にするという行為によって、単なる報復ではなく、少なくとも心はある程度まで癒されるんじゃないかと教えてくれるよう。
そんな司法制度の根幹にある概念を考えさせる、ちょっとした佳作だった。
第二話はチンチン・グチェレス演じる教師がジョエル・トーレ演じる恋人と幸せな結婚をするも、チンチンにはリッキー・ダヴァオ演じる片思いの男がいて、あきらめきれずにストーカーのごとくつきまとう。ある日、事故のフリをして近づき、うまく睡眠薬を飲ませると、眠っているチンチンをリッキーが犯す。泣き寝入りしちゃダメだとジョエルの応援もあって、世間体を気にするエルニー・サラテとルシタ・ソリアノ演じる両親を説得し、訴訟に乗りだすとのストーリー。
ジーナ・アラハル演じるチンチン側の女性弁護士がいかにも偏見と戦うやり手で、ズバス・ヘレロ演じるリッキー側の弁護士が狡猾なタイプとの対比が明確。薬を入れたことに目撃者がいないため、ズバスが「同意のうえのセックスだ」とついてくるのに、ジーナがいかに反論するか… との中で、話は意外な方向へと転じていく。
チンチンがリッキーの子を妊娠し、ジョエルとの夫婦間に危機が迫る。
まあ、わりとあっさりジョエルが割りきるのは、上映時間による進行上の都合だろうが、エッ、もう、と出産シーンになって、じゃあ裁判は十ヶ月十日以上、いや、フィリピン人の場合は九ヶ月ちょいが多いようだが、続いているんだと首をひねらせる時間経過の曖昧さがイマイチ。リカルド・リーはせっかくイイ脚本を書いたのに、細部がアマいといえる。
でも「世界の終わりじゃない」とチンチンをはげますジーナの人間味や、ジーナと対峙したときタバコをふかしてジーナに煙たがられるリッキーのしょうもなさのさり気ない描出などうまいし、赤ん坊をあやすジョエルの情感や、子どもに会わせろとやってきたリッキーとジョエルの殴り合いといった裁判の外にもドラマを盛りこみ、第一話との違いをだした構成に感心。ズバスの「異議アリ」にも負けず、ジーナの執拗な尋問にリッキーが追いつめられ、泣きながら「愛してたんだ」と叫ぶクライマックスからは、レイプという非人間的な犯罪の陰にも、モテない男の悲哀がにじみでて奥行きをつくる。
まずまずじゃないか。
レイプ大国・アメリカ合衆国では、ことレイプ裁判になると被害者の私生活まで赤裸々に暴きたてるようだが、アメリカ隷属国的な傾向を秘めるフィリピン共和国では、少なくともそこまで下劣な裁判が行われてはいない、とうかがえるあたりも納得。とにかく人権の存在が乏しい国ほど、余計に人権、人権と騒ぎたてるものの、まだフィリピンは人間性が豊かなので、自己中心者しかいないアメリカほどアホの一本調子で人権を主張する必要に迫られていない、ということか。少なくとも、被害者よりも加害者の人権を大切にする国とは一線を画してほしいものだ。
人間性豊かといえば、五年後とのシチュエーションにおけるエピローグ。チンチンがジョエルの承諾を得て、刑務所にいるリッキーに子どもを会わせにくる。いやー、まったく、なんてやさしい人たちであることか。丈夫に育っているわが子をみて喜びの笑みを浮かべるリッキーからは、自分の犯した罪を後悔し、本当の意味で更生しているとの実感がひしひしと伝わってくる。この感情のヒダにふれるようなエモーションの刺激は、名優リッキーの演技も手伝って、人間の本質に迫るもの。
裁判劇の枠を超えたシメを高く評価したい。
なお、シャーメインとチンチンが実に魅力的なのは、今さら指摘するまでもないところ。川で洗濯したり、部屋を掃除する白いシャツのシャーメインは、乳首のポッチが浮かびそうで、ロナルドならずとも悩殺される。ベッドに忍びこんできたロナルドとのセックス・シーンは、オッパイの露出なしでもカッカ興奮を呼ぶ。
かわいいなあ。
チンチンはジョエルとの初夜でハダカになって抱かれ、乳首は隠れたままだが、横チチと背中に視線釘づけ。リッキーに脱がされるときは、チラリとだが小さめのオッパイを包むブラや、お尻に貼りつくパンティーがあらわだから、鼻血ブーッ状態へ。
色っぽいなあ。
二人とも好みゆえにお願いしたいながらも、個人的にお互いがメラメラ燃えるようなエッチじゃないとイケない性格だから愛情が不可欠で、それはカネで買ったり、強引にレイプだと無理ね。
※ この作品は『貴女のためにたたかう』の題名で“アジアフォーカス・福岡映画祭1995”にて上映された。
