ＩＮ　ＭＹ　ＬＩＦＥ
　
09年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：オリヴィア・Ｍ・ラマサン
主演：ヴィルマ・サントス
　　　 ジョン・ロイド・クルース
　　　 ルイス・マンザノ
　　　 ディンプレス・ロマナ
　　　 ニッキ・ヴァルデス
　　　 ラファエル・ロセル
　　　 ヴァイス・ガンダ
　　　 ティルソ・クルース・３世
　ニューヨーク市のロケで語る人間ドラマで、ホモのロマンスなのがフィリピンっぽい。と思ったのだが、実際は初老の女性をみつめる内容だった。
　主人公のシャーリー・テンプロ（ヴィルマ・サントス）は、その名前からしてアメリカ合衆国を連想させる。フィリピンの某大学の図書館を仕切り、すべてが自分の思いどおりでないと気がすまない性格。女性職員のミレット（カカイ・バウティスタ）をささいなことでしかり、管理にパソコン導入を拒む。住まいのコンドミニアムを売るのに反対で、シャーリー以外の全住民が賛成なれど、説得の声に耳を貸さない。そんなシャーリーに愛想をつかした夫のベニート（ティルソ・クルース・３世）は末っ子の娘のチェリー（パウ・ディアス）を連れてでていき、とっくに離婚。上の娘のダン（ディンプレス・ロマナ）はオーストラリア就労が決まり、シャーリーが可愛がる孫たちとともに移住を告げる。自分は息子のマーク（ルイス・マンザノ）の暮らすニューヨークを訪ねる。
　マークのホモを承知のシャーリーだが、多忙のマークに代わってリムジンで空港へ迎えにきたノエル（ジョン・ロイド・クルース）が今のマークの恋人と知らない。父がアメリカ人でハワイに生まれ、アメリカ合衆国の市民権をもつシャーリーに対し、ノエルが不法滞在というシチュエーションで、シャーリーがこのままニューヨークにとどまるといいだす。白タクの無許可営業をおこなうノエルが、オフィスを休めないマークの頼みでシャーリーのめんどうをみる。『ニューヨーク・ニューヨーク』のメロディーが流れたあと、最初の到着でノエルがシャーリーにうるさく名所解説が、フィリピンの観客へのサーヴィスだろう。屋根のない観光バスに乗ったり、スタテン島のフェリーで自由の女神をながめたりもお上り気分を加える。以前に船のシェフだったノエルの洗練された料理を食わず嫌いのシャーリーが口にせず、ピザをとるあたりにシャーリーのわがままとフィリピンの安直な食文化をにおわす。マークがシャーリーをベーグル屋へ案内も食にまつわる要素ながら、ベーグル屋の主人で白人のイーライ（ウィリアム・ロトレイン）がシャーリーにひと目ぼれはストーリーにからむ。ちなみにイーライの「ゴッド、シー・イズ・ビューティフル」は『ハンナとその姉妹』を思いだす。
　長期滞在なら仕事が必要とシャーリーがブティックに勤務も、接客ができずにトイレへ駆けこむばかりでクビ。ウェイトレスの練習とパソコンの特訓のうえにレストランで働けば、料理の名前がわからずに暗記で勉強も、誤まって食材庫の冷凍室に閉じこめられる。これらはユーモラスに描かれ、地下鉄の急行と各駅停車を間違えてハーレムに迷いこみ、怖くて逃げた美容院で編みあげのアフロ・ヘヤーにされるのもコメディー・タッチになる。
　ゲイ・バーでマークの前の恋人（アドリアーノ・ガルシア）をみかけるシーンは、風俗的な興味がおかしい。
　同時にノエルとマークのサイドの状況を友人たちの存在から示す。本当はフィリピン大学をのぞんだが、シャーリーの意向でマークはラ・サール大学を卒業で、同窓生のミア（ニッキ・ヴァルデス）が仲間。マークを好きだったものの、マークがホモでふられたという。ミアと親しいヴィンス（ラファエル・ロセル）は二枚目のクールなタイプ。花屋を経営のヒラリー（ヴァイス・ガンダ）はオカマとさまざまなキャラクターながら、全員が親しくまじわる。ヒラリーの花屋で買った花をイーライがシャーリーに贈る。みんなでノエルに市民権を与えるために女性と結婚を仕組むも、カネをもらった相手が式の日にとんずらや、ノエルがフィリピンにいる両親（ノニー・ブエンカミノ、シャーマイン・ブエンカミノ）と、マークがオーストラリアのダンとフィリピンのチェリーと三人でパソコンのＴＶ電話で通信。ノエルの母にガンの疑いがあると知ってノエルが落ちこむ。検査が陰性でお祝いのとき、今度はマークが沈んだようす。ジョギングの途中に腹を押さえたりの伏線がしかれたが、初期のガンと判明。なんて進め方において、シャーリーがヒラリーの花屋の客に応対でアメリカ生活への適応をみせる。マークの元気のなさに気がつかずにシャーリーがマークと踊り、かつて親子でダンス・コンテストをめざしたと判明からソーシャル・センターでシニアにダンスを教える職をもらって充実感を味わう。ノエルはニュー・ジャージーに住む伯父に市民権取得をせかされ、自分に片思いのパメラ（ジャニス・Ｙ・ペレス）と結婚を強いられる。いかにもブスのパメラにノエルが「キミは素敵だけど、ボクには好きな人がいる」といい、直後にパメラがシャーリーをみて誤解。との図式のうえに、タイミングの悪さでマークがシャーリーにガンを告白できず、ノエルの看病で手術に成功。シャーリーがノエルに嫉妬で同居に限界が生じる。しかもガンを克服のマークが、あっさり交通事故で亡くなる。
　レーモンド・リー、セネディー・ケ、オリヴィア・Ｍ・ラマサンの脚本は、たくみに微妙な人間関係のゆがみと意外な展開を生み、ちょっと驚くかな。ただしマークが携帯電話中に道路で車にひかれる構図は、どの国においてもそうだが、歩きながらの携帯電話を使う連中は死んでも自業自得なため、まったく同情が起きない。
　息子を失った母と、最愛のパートナーを失ったホモの恋人の感情の対立がクライマックスをつくる。過去にホモとわかって息子にわだかまりをおぼえたシャーリーに対し、ノエルがニューヨークへきた直後、悩むマークに自殺未遂があったなど、シャーリーの知らない事実をのべる。そして「あなたはマークの母親だから、当然に私はあなたが好きだ。でもあなたは、とっても自己中心的だ」と涙を浮かべて訴える。多額の費用がかかる遺体の輸送でもめたあと、シャーリーが帰国し、フィリピンでの葬式を開く。泣き崩れるベニートに親子の絆をにおわせ、久しぶりにダンとチェリーがそろう。オーストラリアでダンが看護婦でなく医者の勉強中と聞き、かつて医者をめざすダンにシャーリーが「あなたは頭が悪いから、無理だ」とバカにした発言を、当時はショックでも、今は余裕のダンに代わり、チェリーが笑って話す。
　コンドミニアムを売却に同意のシャーリーがニューヨークへ戻り、パメラと結婚を考えるノエルと二年間の仮面入籍を決める。
　周囲への理解と寛容さと思いやりをもてば、いくつになっても女性はやり直せるし、前向きの気持ちで歩む大切さが感性に響く心地よさ。オリヴィア・Ｍ・ラマサンのたいていは緩急のつけかたがヘタな演出が、ここでは起伏よくリズムを刻み、なかなかの好印象を残す。
　フィリピンの自宅でシャーリーが下着をたらいで洗って干し、タンスにしまう寒々しさや、ノエルの伯父宅の立派な屋敷に比べ、空気の重いムード描写もまずまず。
　ルイ・ヴィトンのバッグをシャーリーが大事に愛用は、いずこの女性も変わらぬ趣味で、ヒラリーがシャーリーにウェイトレスで色気を放つ訓練でチェリー・ヒルとシャーロン・コネータをまねる愉快さを含む。
　ジョン・ロイド・クルースとルイス・マンザノにホモのにおいが薄いも、ヴィルマ・サントスのうまさが幅と奥行きを与える。「違ったかも。グランド・キャニオンが希望だった気がする」とノエルが軽く騒ぐ明るさでマークの遺灰をナイヤガラに撒いたあと、ブルックリン橋の上でシャーリーとイーライが偶然に再会のラストが余韻を盛りあげる。「私、結婚したのよ。でも二年後に離婚。だから二年後ね」というときの微笑む表情の魅力は、まさに悲劇と試練を乗り越えたゆえに達した心の反省と成長をうかがわせる。「ゴッド、シー・イズ・ビューティフル」が違和感なくはまり、これほどチャーミングな五十代後半のフィリピン女性のおばあちゃんは、そうそういない。
　もっとも実子のルイス・マンザノとの共演は、さほど効果が少なく、バタンガス州の知事のはずだし、政治を疎かにニューヨークで映画を撮っていてもいいのと感じる。
　女優ではディンプレス・ロマナが適度に美しく、ジャージーのお尻が視線をとらえる。凛々しさにあふれるパウ・ディアスはジーンズが色っぽい。ややコミカルなニッキ・ヴァルデスもキュートかな。チョイ役で注目はシャーリーが登校の朝に校庭で卒業ダンスを若い女生徒やオカマの生徒に指導の先生役のカルラ・ゲヴァラで、ジャージーのお尻をセクシーにふる。アイドルふうのかわいい容貌がストライク・ゾーンなので、オッと息をのむ。ちなみにパウとカルラは雑誌グラビアの水着にも萌える。ダンス・ホールの女性司会者役は、カティー・ガルシア・モリナの特別出演のようだ。
　あとシャーリーが飼う猫の名前のキキは、まずいんじゃないかと苦笑い。タガログ語でキキの意味が“あれ”だけに。