ＩＮＩＴ　ＮＧ　ＬＡＭＡＮ
（肉体の熱）
　
98年：グッド・ハーヴェスト・プロダクションズ
監督：タタ・エステバン
主演：サンシャイン・クルース
　　　 トフィー・カルマ
　　　 ジョン・アパシーブレ
　　　 ヘーゼル・エスピノサ
　　　 メリッサ・メンデス
　　　 アーチー・ヴェントサ
　　　 メアリー・マグダレーヌ
　　　 エヴァンジェリン・スネロ
　　　 カティー・スアレス
　サスペンスにトラウマを素材につかうケースはままあるが、潜在的な記憶の内容と、実際の行動があまりにもストレートに結びつきすぎるのが映画の短絡的なところ。現実の精神病はもっと複雑だと想像するのだが、作劇上ではしかたないのかもしれない。ようはどこまで興味をかきたててくれるかである。
　映画はまずカティー・スアレズ演じる少女が、アーチー・ヴェントサ演じる父によってメリッサ・メンデス演じる母が殺される瞬間を目撃するシーンから始まって、そのあとサンシャイン・クルースが登場し、少女の成長後の人物であるとわかる。
　一眼レフでバギオの風景をパシャパシャ撮影していくジーンズのサンシャインはいかにもカッコよく、正直なところ好みのタイプの女優ではないのだが、ハッと引きつける要素を持っている。スパッツで体操したり、ジョギングしたり、柔道着で空手を習ったり、ゴーグルをつけて射撃をする様子がつながってきて、サンシャインはアクションが似合うだけに、彼女を衝動的なヴァイオレンスを秘めている主人公に配役した設定は、かなり成功しているように思う。
　優秀な鉱山技師で、高級住宅に住み、経済的にめぐまれていることもわかる。サンシャインの夫を演じるのはトフィー・カルマで、家事や洗濯をこまめにする、いかにもヒモという感じが、トフィーの頼りなさそうな雰囲気からうまく伝わってくる。これも配役がよかったのだろう。
　サンシャインは以前にトフィーがヘーゼル・エスピノサ演じる女性と浮気したことがあるのをずっと許さず、少しでもトフィーが他の女性と接近するようなふしがあると、異常に嫉妬する。それで言い訳など一切無視で暴力行為におよび、病院へ担ぎこんだり…　ほとんど精神病による人格障害からくる虐待とも思える仕打ちを受けながらも、両親や妹にカネを渡すために別れられないのだから、トフィーの情けなさは半端じゃない。
　女性にくっついて食わせてもらう男性というのは、フィリピン社会そのもののようにも思えるが…
　サンシャインの狂気は鉱山でフロレス演じる男を誘惑し、濃厚なキスの最中にナイフで殺すあたりから、いよいよ本格的に表へでてくる。ただパンツ一枚で血だらけになったフロレスの死体が発見されて、あとにこの事件がストーリーにからんでこないのは、構成が甘いように感じる。ナイフで刺す瞬間に、父が三人を殺害したときの記憶がダブるのは、この時点でそれほど違和感のない構成だが…
　トフィーの家族が無理やり訪ねてきたときに威嚇射撃で追いかえす迫力や、トフィーが他の女性と会っている写真をみて逆上し、乗馬のときに地面へつき落とすと、自分もおりてまわし蹴りをくらわせるシーンに、ますます凶暴性が露呈してくる。サンシャインの醸すムードが思わず「おお、こわ」と震えさせるに十分な威圧的存在感を持っているだけに、けっこう見ごたえがある。
　すごい女優だと納得。
　もっとも頭のおかしくなった父が老人ホームで暮らしているのだが、いよいよ亡くなって、死体を家へ運び、ついに別れる決心をしたトフィーがその死体を発見するあたりから、ちょっと工夫が乏しくなってしまう。サンシャインは父の死体に火をつけ、そのとき父が母を虐待した際に、軍人だった父の命令で敬礼させられた記憶が蘇ってくる。それで軍服を取りだしてきて着こむと、両手に拳銃と自動小銃をもち、敬礼をしてトフィー殺害へ向かう決意を誓うのが、あまりにも単細胞な展開ではないか。
　映画はサブ・エピソードも加わって、そろそろ退屈していたときに、この直線的な内容で、いささかうんざりといった印象なのは否定できない。残念ながらタタ・エステバン監督の力量ではテンションを維持できなかったようだ。というか、もう少しうまく緩急をつければよかったのだが、テンポの取りかたがヘタだなあ、といわざるをえない。
　トフィーの乗る車にロケット弾を発砲して、ハデにバンバンとトフィーも応戦する中、二人ともわざとはずしているんじゃないかと首をかしげたくなるような、驚くほど当たらない描写は何とかしてほしい。
　結局、トフィーを捕らえると、まだ愛があるからディープ・キスにおよび、拳銃を取りだして真っ最中に引きがねを引くや、あまりに至近距離だったから自分にも当たってしまう皮肉な最後は、それなりに意外性がでている。
　中だるみが多いものの、まずまずといったところだろうか。トラウマからくるドラマの興奮性のようなものは、残念ながらうかがえなかったけれど…
　一方で注目のセクシー描写だが、映画のポスターが半裸のサンシャインのうしろ姿だったわりには、控えめになっているのが残念。ネグリジェで家の中をうろつき、トフィーを暴行して救急病院へ行くシーンが血のついたネグリジェのままで期待させるも、それ以上脱がないのはサンシャインにすれば肩透かし。トフィーとのラヴ・シーンでは、トフィーがパンツ一枚になるのに、なぜかネグリジェを着っぱなし。フロレスを誘惑するところでも、酔って胸元のボタンをはずしていくのに、フロレスをパンツ一枚にしたあと、自分は脱がないうちに刺し殺してしまう。
　いつもの大胆なヌードはどうしたの。
　サンシャインがケチっているぶん、サーヴィスたっぷりなのはヘーゼルで、ジョン・アパシーブレとのエピソードはストーリー的には不要な気もするのだが、二人のラヴ・シーンでまずパンティー一枚になって抱きあげられる。ジョンが白いパンティーの上からヘーゼルのお尻の割れ目に指をちょこっと入れたりするしぐさにそそるものがある。ソファに横たわって乳房をバッチリ堪能させたあと、立ちあがってキタキタ全裸になるぞとワクワクさせると、嬉しいことに正面を向いてパンティーをスルスルッと脱いでいく。当然、陰毛が丸みえになり、オマンコまでチラリのぞくんじゃないかと目は一点を集中状態。さらにテラスのサッシに寄りかかってのセックスになって、乳房がガラスにムギュッと押しつけられ、乳首が貼りつき、下では陰毛が動く。このあとも全裸で部屋をうろうろして、個人的にはサンシャインよりもヘーゼルのほうが好みだから、このシーンだけでみたかいあったと満足。
　過激すぎる。
　トフィーの女友だちであるメアリー・マグダレーヌ演じるジョンとヘーゼルの雇い主のところへペドロ・サクロ演じる旧友が訪ねてきて、自殺するエピソードもストーリーにうまく生かされたとはいいがたいが、ペドロにはエヴェンジェリン・スネロ（と思う）演じる恋人がいて、エヴァンジェリンはメガネをかけてブス風を強調しているものの、そこそこかわいい。ペドロとのセックス・シーンで黒いビキニの下着にオッと注目させたのに、浴室での立位となってカメラはペドロのお尻ばかりを撮っていて、エヴァンジェリンのヌードがみえないのは「やめてくれー」という感じだった。
　バギオのパレードが登場したり、観光要素はうまく盛りこんであるように思う。