ＩＭＰＡＫＴＯ
（悪霊）
　
95年：リーガル・フィルムズ
監督：ドン・エスクデロ
主演：ジェリー・デ・ベレン
　　　 アントニオ・アキタニア
　　　 ダリア・ラミレス
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　　　 ロシェル・バラメダ
　　　 キャンディー・パンギリナン
　　　 エルニー・サラテ
　　　 モン・コンフィアド
　セコい印象のホラー映画。ストーリーはまったく違うものの、ラリー・コーエンの『悪魔の赤ちゃん』を思いだしたが、二十年もたってほぼ同じ程度の仕上がり。
　ジェリー・デ・ベレン演じる女性が子守りに雇われた医者宅に、エルニー・サラテとダリア・ラミレス演じる老夫婦がいて、生後数ヶ月の赤ん坊を「孫ですか」と聞けば「息子だ」と答える。どこかエルニーの態度がヘンで、赤ん坊が悪霊とわかって、良心の呵責にかられたダリアが真実を打ちあける。チェリー・パイ・ピカチェ演じる本当の母を訪ね、チェリー・パイの協力でジェリーたちが退治するだけの話。
　エルニーが闇の商売で堕胎をおこない、たまたまマイク・オーストリア演じる息子の嫁であったチェリー・パイの子をおろす。聖職者だったマイクが後悔から自殺し、息の残った胎児がダリアのお腹に宿って生まれる。この堕胎への罰として悪霊が出現しているあたりがカトリック国らしい印象。
　エルニー宅にはアントニオ・アキタニア演じる若者の使用人がつとめ、ジェリーとアントニオが恋に落ちる。アマ・キンバオ演じるアントニオの母が赤ん坊を悪霊とみぬき、聖水を準備する。ジェリーが赤ん坊に首をかまれて悪化する傷口をアマが聖水で直し、巫女っぽいながら、正体がわからずじまい。赤ん坊にジェリーが聖水をかけようとしてジャマが入り、クライマックスで瓶を割ってしまうサスペンスを含むとはいえ、太陽光で悪霊がドロドロに溶けていく解決法に意外性が乏しく、イマイチと指摘せざるをえない。
　またエルニーが悪霊の餌にした死体を捨てにいくとき、ビニールのゴミ袋からワザとらしく腕がでていたり、モン・コンフィアドとロシェル・バラメダ演じる夫婦が堕胎にきて、偶然にモンが赤ん坊をみつけて食われ、首が転がり落ちるのは、不気味さ以前に失笑を買うばかり。ジェリーがベッドの横に血だらけの子が眠る幻想をみるといった無意味なこけおどしや、ミルクのかわりにトマト・ジュースのような血が入っている哺乳ビンなど、つかいかたのヘタな小道具もマイナスを呼ぶ。
　とにかくダリアが赤ん坊をナイフで刺そうと決心した瞬間のとめかたが半端なうえ、肝心の対決で悪霊が同情を誘うように赤ん坊の姿に変わり、ジェリーが抱きあげたあとに元へ戻ればいいのに、抱く前に悪霊の顔になってキャーッ、なんてタイミングのヘタっぴなつなぎもあって、ドン・エスクデロの演出がサスペンスを理解していないよう。
　まあ、まん丸に太ったレン・ＡＧ・サントス演じる患者と、キャンディー・パンギリナン演じるやはりアントニオに気があり、ジェリーに対してうるさい先輩子守りの犠牲者二人がコメディー・ロールなのは、妙にズッコケたギャグでふざけないだけ、それほどダメな印象ではない。ロシェルが堕胎する理由が日本へ働きにいくためなのと、手術中に部屋をうろついたモンが、小銭をちゃっかりポケットに入れるのがいかにもフィリピン人気質を表わす。
　ジェリーが傷口からウジのでる錯覚をみたり、悪霊を出産する夢オチのエピローグは、それぞれ『ポルターガイスト』と『キャリー』の影響を読むも、まあまあハッとさせる。キャンディーの死体を処分直後の森でエルニーが小さな複数の鬼に襲われるのも一応は意外性を含んで、楽しめる要素がゼロではない。
　結局、エルニーが悪霊へ父親ふうに話しかけると噛みつかれ、チェリー・パイが母親として接するのにはどうか、といったドラマの部分より、悪霊が液体へグチャグチャッと形を崩す特殊撮影にスプラッターをやりたかったのか、と制作者サイドの狙いをうかがう。
　いずれにしても低レヴェル。
　女優陣ではダリアとチェリー・パイが心の苦悩をともなう役だけに好演で、キャンディーが騒がしさにまずまずの個性を発揮している。アマはいかにも異端の宗教的な風貌で適役。ロシェルはこわがるのみのためか、いささか単調に終わる。ヒロインのジェリーがパッとしないのは、明るいキャラクターがホラー向きとは異なるせいだろう。