Ｉ　ＬＯＶＥ　ＹＯＵ，　ＧＯＯＤＢＹＥ
　
09年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：ローリス・ギリエン
主演：アンジェリカ・パンガニバン
　　　 ガビー・コンセプション
　　　 キム・チウ
　　　 デレク・ラムジー
　　　 リザ・ロレナ
　　　 エンジェル・アキノ
　ローリス・ギリエンが描く恋愛ドラマとして、ある種の頂点に近づいた作品に思える。
　アンジェリカ・パンギリナンに主役の格を問いかけ、久々にスクリーン復帰のガビー・コンセプションにくわえ、キム・チウとデレク・ラムジーが共演のスター企画の商業映画で、フィクションとパフォーマンスの融合を極める。
　ヴァネッサ・Ｒ・ヴァルデス、アンナ・カレニナ・Ｌ・ラモス、クリス・Ｇ・グスマン、ジェローム・コーのストーリーにもとづくアンナ・カレニナ・Ｌ・ラモス、ローリス・ギリエン、マーク・メイリーの脚本は奇をてらったり、複雑な進行でユニークなアイディアを盛りこむものでなく、オーソドックスな三角関係による発展形ながら、フィリピンらしく階級差や年齢差の問題をにじませる。
　一流病院で心臓部のトップに就任を控える優秀な外科医のエードリアン（ガビー・コンセプション）は、親子ほど年下のリセル（アンジェリカ・パンガニバン）と結婚を決める。まず人間関係の図式や状況を冠婚葬祭のイヴェントやパーティーで提示が家族劇の典型的な方式だが、エードリアンの母（リザ・ロレナ）の祝いの会から開始がそのパターンを踏む。エードリアンの先妻のヴァレリー（エンジェル・アキノ）がピアノを演奏の知的なタイプで、母が友人（テッシー・ヴィリアラマ）とうっとり耳を傾け、ヴァレリーをまだ気に入ると示す。下層出身のリセルを嫌うも、エードリアンの妹（アーリン・ムーラック）は好意を向ける。パーティーに日本料理がだされ、リセルがいくら巻きとサーモン巻きをわからず、こわくて口に運べないことで上流との違いを風刺。エードリアンの娘のイサ（キム・チウ）があからさまにリセルを拒み、自宅で乳母のメイド（セス・ケサダ）にすべてを頼ってリセルに冷たく接する。いかに貧民が富裕層になじむのが容易でないかを描きつつ、リセルが写真教室の講義で知り合った講師をボーイフレンドと連れてくれば、以前にリセルの恋人だったガーリー（デレク・ラムジー）で対立の構図ができる。
　エードリアンがリセルに新居を建て、イサが現代アートを学んでいるあたりがまた、カネもちっぽい。
　娘の交際に反対のエードリアンがガーリーの二十八歳に比べてイサに「まだ二十歳だ」といえば、イサが「自分はどうなのよ」と返すが、娘にうるさい親父が日本と同じ。男は相手の父親の目を盗んでガールフレンドとセックスも、やがて自分が父親になればどこかの馬の骨に娘を奪われるわけで、まさに因果応報。ここにフィリピンの場合はときどき年齢の壁がからむ。自分のケースだと親子ほどや、親子以上に若い恋人がいるが、とくにトラブルはないものの…　それはそれとして。
　ガーリーはリセルと復活の機会をうかがうためにイサを利用だけに、罪悪感のある側面は、イサが一眼レフのディジタル・カメラを買ってきたのを受けとらないことで表わす。ガーリーが二年の船の仕事を考え、その採用試験でイサが海へのダイヴができずに落ちて、ガーリーが不在の間に別離が訪れ、飛びこみ台の恐怖で体調を壊したあと、診察の医師がエードリアンとの過程が回想で語られる。これもフィリピンに一般的な海外就労がもたらす悲劇の変形といえなくもない。
　エードリアンの患者が手術で死亡し、遺族のペレス夫人（エムリン・オルフィンド・サントス）が訴えたと院長（チンゴイ・アロンソ）と心臓部の部長（サンディー・ドゥマラオ）が告げる。リセルが相談をもちかけてもエードリアンがひとりで悩み、自分が無学のせいだと頭のよかったヴァレリーにリセルが嫉妬。エードリアンがセミナーでシンガポールへ出張で留守の際にエードリアンの母がごう慢に応対で、しだいにリセルが適応障害を感じる。ガーリーがやり直しを迫るのも手伝い、疎外感に追いつめられる設定が中盤をつくる。
　カフェのウェイトレスだったリセルは店のメーライ（マテット・デ・レオン）が同じ環境で育ったためか、なんでも話せる親友。ともに同僚のジンボ（ケチャップ・ユーセビオ）とコニー（ジャンナ・ドミンゲス）もリセルとガーリーの蜜月時代からの仲間。コニーが恋人のラウル（ジョエム・バスコム）とイロコスの旅行をセッティングでみんながでかけるのに、エードアンの不在もあって、イサの意地悪な言動に耐えかねたリセルが参加で駆けつければ、バスにガーリーがいる。途中で道が封鎖でゆきどめをくらい、マニラへ戻るバスが満席のバッド・タイミングが、たくみな無理のない偶然のいかし。たまたま滞在のビーチ・リゾートでガーリーと一緒なのでリセルが飛びこみ台からジャンプと象徴的な行動をおいて、夜にリセルとガーリーがセックス。恋愛感情がよみがえったとガーリーが喜ぶも、早朝のバスでリセルが出発のあと、なんて緩急のテンポがよく、たるみが少ない。
　ただし、エードリアンが娘とガーリーのことを非難にリセルがよう護をイサが立ち聞きや、ガーリーが愛してくれないと泣きながら嘆くイサを乳母のメイドがなぐさめるようすをリセルが偶然にのぞく、ちょっと盗み見みたいなシチュエーションを複数に使うあたりがイマイチかな。
　最大の見せ場はエードリアンがリセルに気持ちを傷つけたと謝り、指輪を贈ってプロポーズのうえ、財産目当てだと猛反対の母を妹の助けで抑えるや、ガーリーもイサに謝罪のとき、リゾートでガーリーがリセルを撮った幸福そうな写真をこっそりとイサがみつける。リセルに結婚したいとガーリーも指輪を贈り、バス・ステーションで落ち合う約束を提案。自分の住む世界はこちらだとリセルがエードリアンにないしょでバス・ステーションへ向かうところで用意される。待てどもガーリーが現われず、メールを打っても返事がなく、焦ってしょうすいのリセルをアンジェリカ・パンガニバンが内面までスケてうかがえるがごとく演じる。ついにはガーリーがこないと悟ったのか、悲しみに崩れた顔に笑みが浮かび、ヘラヘラとニヤつきながらも涙がボロボロとこぼれる。まさにそうなんだ、自分はエードリアンのもとへ帰る運命なんだと天が自分に与えた人生にさからわず、容認を決めても半分ほど後悔がもたげる相反の思いが交錯の心理を表情の細かなひだで伝える。
　アンジェリカがこんなにも女優として成長をとげるとは、失礼だけど、予想だにしなかった。今、歴史的な役者へのぼる第一歩を踏みだしたアンジェリカの伝説のシーンを目撃、とほめれば大げさな賛辞だが、そこまでいわしめる納得をくれる素晴らしさ。自分の中においては文句なしで２００９年の主演賞にあたいする。
　エードリアンと結婚式の準備を始めたリセルのもとへガーリーの生命保険の連絡が届き、ガーリーが亡くなったと判明の解決部。当然のごとく、多くのフィリピン映画にありがちな愛憎のもつれが殺人に進む、安易で凡ような物語を避ける。イサにガーリーが撮ったリセルの写真をみせられ、エードアンがリセルに「ものすごく嫉妬した」と告白のつらさをひしひしと肌で察するごとき説得力で引きつけ、リセルの携帯電話のメールを盗み読んだエードリアンがバス・ステーションへ出発前のガーリーを訪ねる。エードリアンを振りきったガーリーが交通事故に遭遇とは、確かにひねりが弱いも、ではほかにどう終わるかを考えてみれば、ちょっと思いつかない。ガーリーの死を知りつつ、リセルの「結婚します」の言葉に応えて指輪をはめるエードリアンのうれしさを表面にできない目の演技が絶賛に近く、ガビー・コンセプションがさすがにうまい。
　リセルがガーリーの墓にエードリアンと参って「さよなら」をのべ、イサが呆然と立ちすくラスト。
　大人のドラマとの印象がわきあがる。
　特殊な題材を選んでなにを描くかと異なり、日常の延長でどう描くかに手腕を発揮のローリス・ギリエンに拍手が起きる。
　また、リセルのための新居に家具がなく、寒々しい空気にリセルの曖昧な立場を反映や、年老いた祖母もいるメーライの雑然とした家庭にエードリアンの上品な屋敷やエードリアンの母の豪邸を対比し、貧民街にあるガーリーの船で仕事前の下宿と、カメラマンっぽいアール・デコ調のインテリアの部屋など、大道具や小道具の使いかたがたくみ。エードリアンの電気ショックで心臓の鼓動を蘇生の手術のもようは、リアルな雰囲気がみなぎる。
　もっとも容貌的にアンジェリカはタイプをはずれ、今回も例外でないも、セクシーさを前面にかかげたあとでは十分に魅力が輝く。バス・ステーションでガーリーが捨てたと勘違いに続くシャワーで全裸のボディーをみせる。オッパイは腕で隠れるし、お尻のあたりが刷りガラスでぼんやりとぼかされるながら、ひょっとして肌色の小さなパンティーを着用かもしれないが、薄っすらとお尻があらわ。ここは過去をふっきり、すべてを洗い流す意味を含む記号論的なシーンなのでヌードに必然性があり、アンジェリカはよく脱いだと感嘆。ビーチ・リゾートでガーリーと戯れは海が紺碧で美しく、アンジェリカは水着の上にシャツとスカートで、ダイヴも着衣のままだが、浅瀬の愛撫でシャツが濡れてブラが浮かび、波がスカートをまくりあげて太腿がそそる。でも冒頭のパーティーに出席のために白いワンピースから太腿をだし、ハイヒールをはくのに始まり、ベッドでエードリアンとハシャいでバストの谷間をチラチラや、イサに皮肉をいわれるときにバストの谷間が目だつピンクのロング・シャツ、手術に失敗のエードアンが帰宅で食事のときにバストの谷間が目だつ白いシャツ、トライシクルで貧民街のガーリーの部屋へいくときに下半身へフィットのジーンズなどがイマイチは好みの影響だろう。回想のガーリーとセックスはボディーの間にシーツをはさんで不自然になる。ただし、イサと気まずい食事の席へエードリアンがきて奥へ歩くとき、下半身へフィットのジーンズにくるまれたお尻をエードリアンがさわってリセルが怒るのは、自分もたびたび恋人と経験のおふざけでほほえましい。
　キム・チウはリセルに皮肉をぶつけるときに白いハーツのパンツや、エードリアンの母が来訪のときに赤いシャツと白パン、ガーリーにディジタル・カメラをもっていくときに薄い色のジーンズ、父にガーリーの撮ったリセルの写真をみせるときに下半身へフィットの赤いジーンズが色気を離れ、こちらもキュートだけどもタイプの外。
　スリムで貧乳がチャーミングなエンジェル・アキノの黒い肩紐なしのワンピースにときめく。
　ほかに年配のリザ・ロレナ、中年のアーリン・ムーラックとマテット・デ・レオンはデブで、どうしてフィリピン女性は太るのかといぶかるが、エンジェルはやせているか。
　大胆なグラビアを発表のジャンナ・ドミンゲスがビーチで水着のブラなのに、ボトムが短パンなうえ、みんなとぶらつくショットのみに不満が残る。メーライの娘役のパトリシア・ロレンサナはほんの少しの出番だった。