ＩＫＡＷ
（あなた）
　
93年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョエル・Ｃ・ラマンガン
主演：シャーロン・コネータ
　　　 アリエル・リヴェラ
　　　 モニク・ウィルソン
　　　 ルストム・パディーリア
　　　 リザ・ロレナ
　　　 アナ・ローセス
　　　 パトリック・グスマン
　　　 トニー・マベサ
　　　 ローランド・ティニオ
　シャーロン・コネータ主演のロマンス劇で、どことなく『ロミオとジュリエット』に難病ものを足したような内容。
　地方都市を舞台に、病院を営む医師のダ・グラ（トニー・マベサ）と楽団を営むベロン（ローランド・ティニオ）は犬猿の仲。お互いの娘のアンナ（シャーロン・コネータ）と息子のエリック（アリエル・リヴェラ）が恋に陥ったため、猛反対でジャマをする。
　父の職業をついだアンナは女医で、友人の医師のデール（ルストム・パディーリア）と優秀な医学賞にノミネートをうけ、デールがアンナのことを好き。ＣＤも発売のミュージシャンのエリックはマネージャーのノルマ（モニク・ウィルソン）に恩があるも、嫉妬深いノルマがエリックにほれ、いつも行動を縛る。とそれぞれに恋のライヴァルがいる。
　両家族の反目の原因が治療費のことでダ・グラの病院がベロンの妻を見殺しにしたらしいとの暗示でフィリピンの医療制度の問題をにおわせつつ、それにはふれず、アンナがエリックを屋敷へ招待に、母親（リサ・ロレナ）もくわわって父のダ・グラがエリックを追いだし、エリックがアンナを父親に紹介に、怒ったベロンが興奮で倒れる。緊急病棟へ担ぎこみ、宿敵を前に手術を躊躇の父親をアンナが「医者じゃないの」と説得。回復のベロンがダ・グラのところへ礼にきて『ロミオとジュリエット』的なシチュエーションが解決する。
　今度はエリックが不治のやまいとわかり、アンナのために書いた歌を残して息を引きとるお涙ちょうだいパターンへ。
　途中、デールのボランティア医療に共鳴でアンナが山の村へ診察へでかけるのはよいも、突然に銃撃戦が起きて、少女のアネット（プリンセス・ヴィリアヌエヴァ）が撃たれる。手当てのかいもなくアネットが亡くなり、アンナが荒れて父の屋敷へ帰るきっかけとなるのだが、恋愛のドラマに流血騒ぎを持ちこむのはどんなものか。
　またアンナがデールとエリックのディナー・ショーへいけば、エリックのポケベルが鳴って緊急呼びだしに医者の立場がわかるが、エリックのアンナへの愛を告白が傷ついた少女のアネットを治療の病院で、ちょうど看護婦がアンナに緊急の連絡にきて、アネットの病室をでるアンナをエリックがとめてのタイミング。今そこで看護婦がせかしているにもかかわらず、エリックが引きとめをのばし、冷静さが求められるアンナは動揺するし、いったい人命をどう考えるのか、こいつはクズ野郎と思えてくる。
　エリックが咳でアンナが喉をみて「タバコを吸うか」と聞き、専門医のデールを紹介のときも、ミュージシャンなのにタバコを吸うとはアホかと思わせるうえ、ごう慢なノルマがデールの処置に不満を述べるあともノルマがタバコを吸っていて、やっぱりアホ女だと納得を呼ぶのは、タバコという人間の軽薄さがにじみでる小道具の効果だが、アンナと結婚で新居をかまえたエリックのもとにノルマが押しかけるやりとりで、相変わらずピアノの前でエリックがタバコを吸うので、こいつはノータリンだと確信。こんなヤツは死んで当然なわけだし、まったく同情のかけらも呼ばないのが最大のマイナス・ポイント。なんで主人公のキャラクターをドアホにしたのかは、これがアホと気がついていない脚本のホセ・ダリサイ・ジュニアとジョエル・ラマンガンがアホなせいだろう。
　一方のアンナも、無理やりにノルマがキスを強制にエリックが反発の真っ最中に現われるワザとらしい作劇において、とにかくショックをうけ、エリックの言い訳にいっさい耳をかさない単純ぶり。酒に逃避で酔っぱらう、薄っぺらい性格になる。
　最後は不治を宣告のエリックとアンナが抱き合う現場をこっそり目撃で、黙って去るノルマもシンプルな女性像といえる。
　まあ、エリックがギターを片手にアンナの屋敷の外で歌い、ノルマと切れていないと勘違いでアンナがひがめば、今度はベロンが指揮の楽団が屋敷の外で演奏でエリックが花をもってくるフィリピン・スタイルの愛の告白など、生活風習の盛りこみが興味をかきたてる。飾りつけたバンカーに乗るフィエスタに始まり、アリエルが友人だちとホステスのいるバーで乾杯に「カンパイ」とグラスを合わせる。ノルマに嫌気のさしたエリックに対してノルマがもし私がマネージャーをやめたら「ティモグのカラオケ・バーでもいけ」と脅すのがショー・ビズの構図なら、海外派遣を想定でアンナがフランス語の単語を勉強のあたり、医師の海外志向がうかがえる。フィリピンでは土葬が一般的ながら、ラストでアンナがバンカーからエリックの遺灰を川にまくのは、遺言との設定によるもの。
　アンナとエリックがバンカーでデートし、エリックが亡くなるのもバンカーの上で、川を重要なモティーフに使っている。
　とにかく主題歌の流れる結婚式の幻想を含め、ロマンティックなムードを意識しつつ、アンナとエリックが主題歌を口ずさんでエリックが絶命し、ベロンの楽団が主題歌を演奏をバックにアンナが遺灰をまき、シャーロン・コネータの歌う主題歌につながる演出があまりに意図的で泣けないのが狙いはずれ。ジョエル・ラマンガンにすれば監督に進出後の初期の作品にあたり、一応はテンポよくあきさせない語り口にテクニックが感じられる。
　シャーロン・コネータ、アリエル・リヴェラ、ルストム・パディーリアは無難に役柄をこなし、嫌な女を表現のモニク・ウィルソンがうまい。エリックの兄役のジム・ペバンコも、地道に脇を引きしめる。ダ・グラ医師の助手役のパトリック・グスマンは、さほど本筋にからまないまま。アンナの妹役のアナ・ローセスは美人だけに、多少ともセクシーさがほしかったところ。
　ほかにノルマの友人の女性役、アネットの母親役、アンナの秘書の看護婦役などがかわいかったり、気になるタイプで、出演者にローラ・ルナやジョイ・オルテガの名前が読めるが、どの役か不明。エリックのディナー・ショーにトニー・ダヤがゲスト出演も、歌うシーンはほんの少しになる。エリックとアンナが表彰されるフィエスタの司会役は、クレジットにないが、ジョジ・イスラだと思う。