（あなたに私を踏みにじる力はない）
86年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：マリオ・Ｊ・デロス・レイエス
主演：チャロ・サントス
チャリト・ソリス
リザ・ロレナ
アル・タンタイ
アルベルト・マルティネス
チャンダ・ロメロ
マイケル・デ・メサ
パトリック・デラ・ロサ
ペルラ・バウティスタ
ベボン・オソリオ（リカルド・“ベボン”・オソリオ）
フランシスコ・“ココ”・トリニダッド
ダンテ・リヴェロ
ロベルト・アレヴァロ
ローズマリー・ヒル
ジーナ・アラハル
レイ・‘ＰＪ’・アベリアーナ
アーリン・ムーラック
マリアンネ・デラ・リヴァ
ジョエル・トーレ
ウィリアム・マルティネス
デニス・ロルダン
アンナ・マリー・グチェレス
ナディア・モンテネグロ
リチャード・ゴメス
アンジョー・イリアーナ
オール・スターで描く、戦中から八十年代までの長い期間におよぶ人間ドラマで、女性の一代記でもある。。
泥道の貧民街へベンツが入り、シャレたファッションの女性がおりると、ビキニのダンサーが踊る場末のバーなどを通って、誰かにピストルを向ける冒頭から時間をさかのぼる。
１９４２年５月。父（クリス・ダルス）が亡くなったアナスタシア（チャロ・サントス）は、日本軍の戦闘で家を失い、母のホセフィナ（リザ・ロレナ）とともに女地主のコンスエロ（チャリト・ソリス）を訪ね、メイドに雇ってもらう。そこで先輩のメイドのドロレス（ペルラ・バウティスタ）とそりが合わず、コンスエロの息子のアンヘリト（アルベルト・マルティネス）とフランシスコ（パトリック・デラ・ロサ）に欲望を抱かれ、アンヘリトの愛を受け入れる。でも妊娠すれば、アンヘリトがカネで解決をはかったため、恨みを抱く。住みこみで働く母のもとを訪ねてみれば日本兵相手の娼館で、客の日本兵を部屋へ連れこむところを娘のアナスタシアにみられた母が絶望し、首吊り自殺で亡くなる。
日本軍占領下の設定におもしろさがあり、コンスエロが市長（ココ・トリニダッド）などと日本軍の士官を招き、歓迎のパーティーを開いている。たいがいの映画でフィリピン女性を犯すのは日本兵ながら、ここではフィリピン人の地主なのがユニーク。コンスエロやアンヘリトなどが「どうぞ」「食べましょ」といった日本語を話し、ちゃんとしている点に感心。日本兵はほとんどフィリピン人が演じるも、ひとりイサム・タケワキとの名前がクレジットに読める。メイドの仲間役でアイダ・カルモナ、イヴリン・ヴァルガス、モネット・アロヨ、日本軍に協力するフィリピン女性役でリガヤ・ヘイネン、娼館でとっくみ合いのケンカをくり広げるおばさん役でヴァンジー・ラバランとエストレリア・アントニオが出演。
１９４３年３月。女の子を出産のアナスタシアは、日本兵を暗殺の民間人のナルド（アル・タンタイ）を助け、愛が芽ばえる。娼館のマネージャーだったテルマ（チャンダ・ロメロ）と友情で結ばれる。
１９４５年。日本軍とアメリカ軍の激しい戦火の中、爆撃の恐怖にもひるまず、テルマが産婆をつとめて、アナスタシアがナルドの子を産みおとす。アメリカ軍が日本軍を追いはらうと、コンスエロの一家を日本軍の協力者とアナスタシアが訴え、逮捕にきたアメリカ軍へ抵抗のフランシスコが射殺される。
１９４６年８月。アメリカ士官のトム（マイケル・デ・メサ）と愛し合ったアナスタシアは英語を教わり、仕事の資金をもらう。
１９５２年９月。テルマと靴屋を開いたアナスタシアは上院議員のラモン（ロベルト・アレヴァロ）と知り合い、愛人になる。ラモンの妻のモニカ（ローズマリー・ヒル）が荒れる。
１９６１年１１月。アナスタシアがラモンの子を産む。またオロンガポでケガをおわされたテルマのため、ラモンに弁護士のテディー（ダンテ・リヴェロ）を紹介される。
と、時代のエポックな話題を盛りこむわけでなく、アナスタシアのドラマが早いテンポで語られたあと、物語は家族のメンバーへ対象を広げる。
１９６３年１０月。アナスタシアのナルドともうけた下の娘のルイサ（アーリン・ムーラック）が、あやしい青年のジェス（レイ・“ＰＪ”・アベリアーナ）とつき合っていて、犯罪仲間の分裂でジェスが撃たれたとき、巻きぞえで殺される。妊娠中だったルイサから医者（アウグスト・ヴィクタ）が赤ん坊をとりだす。過去のことを知らずにテディーが、おちぶれたアンヘリトをアナスタシアに会わせる。モニカが自殺し、アナスタシアがラモンと結婚。
１９８４年１月。一気に二十年をとんだ設定はアナスタシアが爆弾テロで負傷したのをきっかけに、息子や娘たち、孫たちのエゴが明らかになる。アナスタシアのアンヘリトともうけた上の娘のホセフィナ（ジーナ・アラハル）は、テディーの息子のネータン（デニス・ロルダン）と娘のアンジェリカ（ナディア・モンテネグロ）をもうけている。ラモンの息子のローラン（ジョエル・トーレ）は政界への野心を示すも、妻のリリベット（マリアンネ・デラ・リヴァ）がいるながら、プライヴェートはホモで、同性のエドワルド（ウィリアム・アロンソ）とできている。アナスタシアがネータンを評価せず、ラモンとの息子のラモン・ジュニア（リチャード・ゴメス）に政界への期待をかけ、ローランともめる。ルイサの子のルイス（アンジョー・イリアーナ）は水商売の女性のカルラ（アナ・マリー・グチェレス）を足げにあつかいつつ、麻薬売買に手をそめる。アンジェリカが未婚の子をはらんだため、闇の堕胎医（ヨランダ・ルナ）によってホセフィナが中絶させようとし、あやういところをアナスタシアがとめる。ルイスが逮捕されるなどのアクシデントが次々と起こり、アナスタシアを憎んだカルラが殺しにくるや、身代わりでテルマが撃たれる。アメリカ合衆国へ逃亡を条件にネータンがエドワルドにローランの殺害を命じ、暗殺に現われたエドワルドを反対にローランが殺し、ショックのローランが自殺。テルマとローランの葬儀のあと、テディーをとおし、アナスタシアが遺産分割を決める。そして冒頭に戻り、アナスタシアは誰にピストルを向けたのか…。
と血生臭い展開の後半は、決してほめられた内容じゃない。マリオ・Ｊ・デロス・レイエスはテンポよく語ったものの、こんな非現実的フィクションをドラマティックだと考えるのは困るかな。
ずらりとそろったキャストはみんな好演というより、いかにも芝居してますって感じで、賞賛をはずれる。ただし、ネータンにパンティーをおろされたスカート姿や、ベッドでスリップの下着姿を披露のジーナ・アラハルは色っぽく、ドキドキと興奮を招く。
娘のほうのホセフィナが、戦後はジョセフィンと呼ばれているのに、英語志向が進むフィリピンをうかがわせる。ホセフィナがタバコを吸うことでスレたのをあらわし、人間のバカぶりを示す格好の小道具だなあと納得。
