12年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：チト・Ｓ・ローニョ
主演：ヴィルマ・サントス
キム・チウ
ジャニス・デ・ベレン
マルティン・デル・ロサリオ
ポクワン
ロベルト・アレヴァロ
ジョエル・トーレ
ジョング・ヒラリオ
イナ・フェレオ
メルセデス・カブラル
アナ・カプリ
チト・Ｓ・ローニョの得意のホラーで、おなじみチト本人とロイ・Ｃ・イグレシアスのストーリーによるロイ・Ｃ・イグレシアスの脚本にヴィルマ・サントスの主演。しかもキム・チウの共演に、実力派、個性派など、豪華な脇役陣がキャストをかためる。となれば、いやがおうでも期待せざるをえない。実際、フィリピンではレーティングがＲにもかかわらず、一億ペソをこえる興行収入をあげている。しばしばフィリピンで話題になる超自然現象の医療行為を題材に呪いの要素をくわえ、ドッペルゲンガーを盛りこむ内容。
保険会社の幹部のかたわら、寄宿舎をいとなむ中年女性のセット（ヴィルマ・サントス）が主人公。奇跡の手かざし治療をおこなうエルサ（ダリア・ラミレス）に下半身不随の父のオドン（ロベルト・アレヴァロ）をみせるや、元気になって歩きはじめ、若い恋人のケル（メルセデス・カブラル）までつくってはじける。寄宿舎には口のきけない中年女性のチョナ（セス・ケサダ）、乳房にシコリのできた若妻のグレタ（イネス・ヴェネラション）、家族を支えたいけれど、足の皮膚病でドゥバイへ海外就労にいけない中年女性のアルマ（ポクワン）、背中の皮膚病が恋人と結婚に障害の警察官のディン（クリス・ヴィリアヌエヴァ）、目のみえない少女のカカイ（アビー・バウティスタ）が住む。またセットは夫のヴァル（マーク・ヒル）と別れ、息子のジェド（マルティン・デル・ロサリオ）がヴァルのもとで暮らす。ヴァルは後妻のブレス（カルミ・マルティン）と娘のクッキー（キム・チウ）をもうけ、そのクッキーが全身のただれる皮膚病に感染で両親に相談できず、ジェドがセットに連絡してくる。オドンの驚異の回復をみてエルサの治療をうけたいと寄宿舎の住民たちがセットに頼み、切実さに負けてセットが友人のピート（アレックス・カリーリア）の車で連れていく。クッキーもヴァルと向かう。エルサの家に着くや、ゲイの愛人の病気を治してほしいゲイの男（モン・コンフィアド）が玄関で待っていて、エルサは病気だと弟のメルチョル（ジョエル・トーレ）が治療を断るも、エルサ本人が招きいれる。帰り道にチョナがしゃべりだし、ほかのものも吐き気をもよおしたり、発熱の症状のあと、しこりやただれが消え、カカイが視力をとり戻す。おかげでディンは恋人（ニッキ・ヴァルデス）と婚約の儀式をおこなう。チョナはカラオケで熱唱のはしゃぎようだったが、突然に殺人事件をおこし、自らはのどをかき切って自殺。夫のレックス（シモン・イバラ）がチョナはカラスの悪夢をみたという。前にセットの部屋の窓にカラスが夜に襲う伏線をおき、グレタとディンとアルマが夢にカラスがでたと不安がり、カカイの母のシタ（ジャニス・デ・ベレン）がカカイは睡眠中にうなされていたとおびえる。オドンはカラスの夢など知らないみたいだが、セットの部屋にカラスが飛んでくる。ボクシング・ジムでゲイの中年男（チンゴイ・アロンソ）が愛人を人質に騒いでスワットが出動の事件のＴＶ中継をセットたちがながめ、ゲイの男の片目が不気味に肥大化し、愛人を殺してナイフで自殺。グレタがタバコを吸いはじめたのを夫のルーベン（アラン・パウレ）が責めると、夜空にカラスがまい、セットがろくろ首のごとく首の伸びたグレタの分身を目撃の直後、グレタがルーベンの首を斧で斬り落とし、自らは首つり自殺。スーパーマーケットで買いもの中にセットがディンの分身をみかけ、確認で電話をいれた先のディンは、違法ホモ売春現場の強制捜査でピストルの乱射におよび、大量殺人のあとに射殺される。家族の生計をせおうアルマが次は自分と恐怖におののき、カカイをともなってシタが仏教僧の別れた夫を訪ねて相談に、心配がふくらむ。セットとシタがエルサの家にきてみれば、全焼で跡かたもなく、周辺住民が呪われているとうわさし、メルチョルの妻（アナ・カプリ）とアルマがすでに死亡。メルチョルがふたりはダリオ（ジョング・ヒラリオ）にやられたという。
オドンはまったく影響がゼロなのに、ほかの連中が続々と自殺の理由づけをここにおき、エルサが死者をよみがえらせたため、その生き返ったダリオの存在を原因に示す。ダリオの蘇生をおこなう前に治癒のオドンは大丈夫だが、実行後にアルマは治療をやめてメルチョルが断わっていたものの、セットの仲間とゲイの男が無理に頼んだので、生命を吸いとるダリオの呪いをうけた。これを断ちきるには収監中のダリオを殺すしかない。またセットがダリオへいけにえを導いた鍵の人物だから分身をみるとの説明をのべる。
ダリオの殺人事件を調べた婦人警官（デクスター・ドリア）やダリオの妻（イナ・フェレオ）にセットが会うも、ラチのあかないうちにアルマの分身をながめ、あわてて連絡も間にあわず、住民たちを二階から突き落としたうえに焼身自殺。今度はカカイの分身がでて、仏教寺院で僧たちを刀で斬りつける乱闘のすえに屋根から投身自殺。セットの眼前に亡くなったものたちの霊が現われる。なんとかクッキーだけは助けたいとすべてをジェドに話し、いやがるクッキーを閉じこめてヴィデオ・カメラで監視。ダリオのいる刑務所の上空をカラスがまい、クッキーの分身がセットを襲うが、とっさに感電させる。分身が消えて、これで安心とクッキーの両親とセットが和解のとき、もうひとり、エルサの治療をうけていたハゲの男（フォンス・デサ）がバスの爆破事件をおこしたニュースが流れる。ふたたびクッキーの分身がセットの家に出現でセットの下の息子のボニ（クリス・パストゥラン）を殺し、セットを刺す。監視カメラをパソコンでチェックのジェドが駆けつけ、ピンチのセットを救うも、クッキーと格闘で顔面に傷のついた直後にジェドの分身がみえる。
チト・Ｓ・ローニョの演出は息もつかせぬテンポのよさで語り、グイグイと先へ引っぱっていく。エルサが与えた薬草といった小道具が間接的に不気味さをプラスし、関連づけの弱いカラスの活用も視覚的な効果をあげる。カカイが切った仏教僧の父のはらわたが露出はイマイチだが、少女のカカイが刀を振りまわして仏教寺院で僧たちを惨殺の迫力がなかなかなうえ、屋根から落ちてポールに串刺しの残酷描写が衝撃度をます。キリストがはりつけの罪をきる一因となった死者のよみがえらせをテーマにとり、いかにもキリスト教のホラーのようでいて、ルーベンにイスラム教徒はこんな超自然現象の治癒なんかを信じない。ダマされるのはキリスト教徒ばかりだの台詞をいわせたり、仏教僧を被害者にくわえるなど、他宗教を巻きこむ構成がたくみ。ディンを少数民族の出身に設定で、両親（アマンテ・プリド、ジジ・エスカランテ）や立会人（マリコル・カンラス）のもと、花婿と花嫁がお互いの肩を足でける婚約の儀式や、木の丸太を棒でコツコツとつつく葬式の挿入が興味をよぶ。
一方で全体のレヴェルの高さに反し、メルチョルがダリオを射殺のオチがあまりにひどい。フィリピンの刑務所がいくら外部のものの出入りが自由とはいえ、自分が面会にいったときもそうだったが、ちゃんと所持品の検査くらいは当然になされ、ピストルをもちこめるわけがない。クッキーにメイド（ジジ・コルムナ）が運んだケーキがセットの部屋にあり、分身のクッキーがケーキ・カッターのナイフを隠すサスペンスもハラハラ度が低い。ダリオの死亡でジェドの分身が消えたあと、刑務所の上のカラスをうつし、クッキーを人工呼吸で蘇生のラストがワザとらしく、ショッキングの狙いがミエミエ。オドンの回復がもとの泡とか、エルサの超自然現象の治療にも疑問符がほしいなどの幕引き方法で評価を著しくさげる。ボクシング・ジムで自殺のゲイが冒頭に治療をうけているようすは、オドンより前じゃないのとのチグハグさを感じる。
ヴィルマ・サントスの適度な存在感が、ちょっと間違えば荒唐無稽な話に現実味を与えるのが事実で、さすがに大女優とすんなり納得。ジャニス・デ・ベレンは太ったおばさん化し、小さな娘の母親にしては年齢が上かな。同じ肥満の中年でもセス・ケサダは役のキャラクターにあう。ファニー・フェイスのポクワンは、いかにも家族を支える海外就労希望者の雰囲気。カルミ・マルティンとダリア・ラミレスはヴィルマ・サントスと同年代のはずながら、カルミにもう往年の容貌がなく、ダリアはあやしい奇跡をおこなう老女のカリスマ的なイメージがにじむ。ニッキ・ヴァルデスは少しの出番で目だち、イナ・フェレオはサングラスをかけた顔に色気がただよう。アナ・カプリは気がつかないほどのチョイ役。ちなみにセットの秘書を演じるメイアイ・ファブロスが、じゃっかんアナ・カプリに似ている。ニュース・キャスターで登場のジョンヌ・モンサントが、そこそこのかわいさでときめきをくれる。一番のインパクトは子役のアビー・バウティスタで、刀を振るっての大立ちまわりが圧巻。メルセデス・カブラルはオドンの要請でアニメっぽいコスプレがおかしいが、ヌードをみせずじまいに終わる。キム・チウは好みのタイプの外ながらもキュートだけに、ピッタリのジーンズの下半身がそそり、階段をあがるショットに視線を奪われる。ジェドと格闘でシャツがまくれて背中の露出はスタントの別人だろう。大ファンのイネス・ヴェネラションがひさびさのオッパイをポロリは個人的にうれしく、シコリが消えた乳房をセットがさわってチェックで乳首をモロにさらす。三十代にはいってもプロポーションの変わらないボディーのジーンズにうっとりで、全盛期の素っ裸をタレ唾で思いだす。
