ＧＡＭＵＧＡＭＯＮＧ　ＤＡＧＡＴ
（小さな蛾が飛びかう海）
　
99年：リーガル・エンターテインメント
監督：タタ・エステバン
主演：クラウジャ・コロネル
　　　 ガーリー・エストラダ
　　 　トントン・グチェレス
　　　 レアンドロ・バルデモール
　　　 ベンボル・ロコ
　　　 イダ・マンザノ
　　　 リチャード・ジョースン
　　　 ジャッキー・カスティリエホ
　　　 リゴール・ディアス
　　　 ジョー・アン・アバデシオ
　　　 オミー・リヴェラ
　　　 アルドウィン・フヴァリーア
　　　 ロラ・モレナ
　　　 ＣＪ・ラウレル
　アキャット・バルコと呼ばれる港の売春婦たちを扱う作品である。最初にクラウジャ・コロネル演じる主人公のナレーションが入り、売春ならケソン・アヴェニュー、マカティ、パサイ、ボカウエ、オロンガポなどあるだろうに、船員たち相手に船へ乗りこみ、中でセックスする彼女たちのシチュエーションが紹介されていく。
　バンカーで女たちが到着の光景に始まり、船室のいたるところで即席カップルができて、ところせましとピストン運動を繰り広げる。客にはフィリピン人だけでなく、アメリカ人がいたり、中国人がいたりで、もちろんケンカも日常茶飯。こうした風俗描写が実に興味深い。売春婦たちが雑居で暮らす水上部落のようすにもリアリズムが持ちこまれ、半裸でゴロゴロ状態の女たちの姿がなまっぽく、色気を発しない迫力に満ちる。どこか今村昌平の『女衒』に通じる要素がかぎとれるようだ。海岸のほうでは漁師が仕事や、水上家屋の周囲の浅瀬では子供たちが遊びまわり、タタ・エステバン監督にしては、とは失礼ないいかたかもしれないが、現実をしっかりみる目に確かなものをうかがわせ、やればできるじゃないのと賛辞が浮かぶ。覚せい剤の吸引現場や、雨の降る風景も重い空気を無言で表わす。
　こうした背景をおいてこそ人間ドラマが生きるわけだが、ジャッキー・カスティリエホ演じる母の入院費を稼ぐために売春を始めたクラウジャを中心に、プロに徹するイダ・マンザノ演じる先輩や、リゴール・ディアス演じるオカマ、クラウジャの客で本当に彼女を愛するようになるガーリー・エストラダ演じる船員、クラウジャに好意を抱くレアンドロ・バルデモール演じる漁師など、多彩な人物が登場する。過酷な現実に対してほとんど無力なうえ、懸命に生きる彼らの姿を、映画は単純に悲しみだけでなく、喜怒哀楽を通して描くあたりがみごとで、まさに題名通りの“一寸の虫にも五分の魂”といった主張が静かに伝わってくる。たとえばガーリーと部屋を借りたクラウジャが、クリスマスと新年の飾りつけのあとにセックスのシーンなど、ほんのつかの間の喜びを加えることで物語にどれだけふくらみを与えることか。
　またクラウジャの演技が鮮やかなほどに説得力を含み、こんなにいい女優だったのかと納得をくれるに十分なもの。ガーリーと初めて売春でセックスのときの無表情さと、帰りのバンカー中で受けとったドル札をみつめる姿から醸すやるせなさは、観客側のこちらにまでずっしりとのしかかる重圧感にあふれる。うるんだ瞳に哀愁をにじみだす美貌を最大限に活用する。一方でスキン・ヘッドの男を相手にとるときのタバコをくわえてのバックからのセックスや、オマンコをなめる男の頭をポカンとたたくあたりのふてぶてしさに、女性の生命力の強さを匂わせる。単なるセクシー・スターの枠をとっくに越えているといえよう。
　とまあ、ここまで書けば相当な傑作に思われるかもしれないが、残念ながら映画はオイオイとあきれるほどに後半から失速となる。オミー・リヴェラ演じる議員が港の再開発を計画のあたりはよいが、トントン・グチェレス演じるその息子が暴走し、一人敵役を買う展開にかわる。ああ、また議員の息子かよ、とフィリピン映画の悪の設定のワン・パターンさには、まったくうんざり。
　オカマのリゴールやパウラ・エステヴェス演じるママさんなど売春宿にトントンは手下を送りこみ、ロラ・モレナ演じる足抜けを試みた売春婦を全裸にむいて無残に殺害のあたり、ワガママな非人間性を強調の狙いだろうが、著しくフィクション化におちいる。前半のリアリズム演出が可能だった同じタタ監督の仕事とは思えないほど。しかもクラウジャに惚れても無視のため、怒って家へ押し入るや、無理やりレイプ。アイロンで逆襲のクラウジャに殴られて重傷を負うものの、今度は手下を従えて母を退院させようとするクラウジャたちのところへやってくると、ハデな銃撃戦を展開。とムチャムチャに近い内容に映画は転じる。これじゃ、安手のＢ級アクションのレヴェルにもおよんでいないじゃないか。クラウジャの身代わりで母が銃弾を浴びるクライマックスなど、悲劇の盛りあげかたにおいてあまりに安易すぎ、ほとんど駄作に近い。
　結局こうかよ、とむなしさでため息のもれるのは、こんな作品だ。
　他にもイマイチな要素をあげれば、クラウジャのセックス・シーンのたびによみがえる少女時代の記憶、実はベンボル・ロコ演じる父に性的ないたずらをうけたのを、母が父を殺してまで助けてくれたトラウマだって、インパクトを加味の意図だろうが、それほど成功と思えない。リゴールが芝居っぽいのはオカマ役だからよいながら、アルドウィン・フヴァーリア演じるパパさんとのホモ・セックスや暴力描写は、ややくどさを伴う。ハデな見せ場を欠くと娯楽性が乏しいと考えたのかもしれないし、ドラマティックさが足りないと客が不満をおぼえると危惧したのかもしれないが、とにかく後半で映画は優から不可まで落ちたことは確か。
　実に惜しい限り。
　ただしお目当てのクラウジャのヌードは、期待通りにたっぷりと盛りこまれ、ガーリーとの二度目に船内でセックスのときの丸みをおびたお尻や、同棲を始めたあとのセックスでの騎乗位でもだえる全裸と、ゆれるお椀型の乳房。いまさらクラウジャのボディーがいかに素晴らしいかを強調なんて無用だろうけど、何度みてもあきない魅力に興奮。チラリ陰毛がのぞいたり、オマンコに片手を当てただけで股を開くカットにはドキッと目がテンだし、スキン・ヘッド相手や、トントンに犯されるシーンでも露出全開のサーヴィスに神がかりじゃなく、女神がかり的な信仰すらおぼえる。
　先輩の売春婦役のイダ・マンザノも相当に美人で、やはりオッパイをゆらゆらの全裸セックス・シーンや、ノーパンでスカートをまくりあげてオマンコを洗うカットなどが鼻血を誘発ながら、リアリズムの中ではセクシーさを発散しきれなかった印象が残る。そこが内容と関係なくときめきをくれるクラウジャとの差かもしれない。