ＦＩＮＡＬ　ＲＥＰＲＩＳＡＬ
　
88年：ソーラー・フィルムズ
監督：テッド・ヘミングウェー（テディー・チウ／テディー・ページ）
主演：ゲーリー・ダニエルズ
　　　 ジェームズ・ゲーンズ
　　　 デーヴィッド・ライト
　　　 リチャード・キング
　　　 プロタショ・ディー
　テディー・チウがテッド・ヘミングウェーの名義で監督の作品。テディー・ゴメス、テッド・ジョンスン、アーヴィン・ジョンスンなどを名乗るテディー・チウでも、おそらくテッド・ヘミングウェーはこれのみと思われる。
　アメリカ合衆国向けの制作ながら、どうもヴィデオ発売のみに終わったようだ。フィリピンでは88年に公開の記録が読める。資本の合作がなく、ほぼ全面的なフィリピン映画だが、日本ではアメリカ映画としてヴィデオ発売になり、今も資料にアメリカ映画と記される。主要なキャストがアメリカ人だからだろう。
　八十年代中盤以降に山のごとくつくられたフィリピン・ロケによるヴェトナム戦争ものの一本かと予想したものの、ヴェトナムは最初の四分の一ほどで、あとはタイを舞台にとる。
　冒頭で「戦争のゆくえを左右する重要な作戦」と会議でいっているわりに、実践演習を経てのセコい攻撃で主人公のデーヴィッド（ゲーリー・ダニエルズ）、チャーリー（ジェームズ・ゲーンズ）、ダグラス（デーヴィッド・ライト）の三人を残して海兵隊が全滅。ヴェトナムの司令官であるヴァン・プー（プロタショ・ディー）の幼い娘のマイリン（グライサ・ヘラドゥラ）を人質にとって三人が逃げる。マイ・リンが殺され、チャーリーだけがつかまって拷問をうけるまでがヴェトナムの戦場。
　まずヴェトナム語の発音が本来の声調言語と異なるのはまだしも、ヴァン・プーがマイリンと英語で会話に、ちゃんと背景を描く意図の欠如がわかる。ヴェトナムの一般人を海兵隊員が殺害はおまけで、もともとからアメリカ兵に共感など起きないうえ、無抵抗な女の子を盾にとるとは最低の卑怯な奴ら、といきなり主人公に敵意を招く。いくら残酷な拷問とか、ヴェトナムを野蛮に描こうとも、はるかにアメリカ合衆国のほうが野蛮だとわかっている日本の観客には説得力がゼロになる。三人をかこむヴェトナム兵の少なさがＢ級ゆえん。
　五年後のタイで妻子と幸福に暮らすデーヴィッドのもとにチャーリーが現われて本筋に入る。ロッド・デーヴィーズとチャーリー役のジェームズ・ゲーンズの脚本は白人のデーヴィッドと黒人のチャーリーを無二の親友と設定に、タイのアメリカ合衆国領事館勤務のダグラスを怪しいふうに匂わせるわけでなく、デーヴィッドの妻（クリスティン・アーリンスン＝通常はクリスティン・アーランドスンと表記）と息子（ピーター・ライズ）がなぞの暴漢グループに殺され、デーヴィッドとチャーリーが怪我をおう。現地の裏社会の事情に通じるサム（アンディー・ジョセフ）から犯人が共産ゲリラのカメレオン（ハッシム・ハッセン）とわかり、タイ軍のヴィナイ大尉（リチャード・キング）の部隊とともにデーヴィッドとチャーリーがカメレオンの本拠を襲う。タイの兵士たちが英語で会話に、またも背景のないがしろが際だつ。
　あとで単なる盗賊と判明のカメレオンの部下がタイ軍の武道の稽古に侵入や、ヴィナイが「神出鬼没」というわりにカメレオンが簡単にやられるバカっぽさはさておき、つかまったカメレオンをチャーリーが射殺で真相をバラす。ここまでマイリンを殺したのは誰か、チャーリーが釈放されたのはなぜかをあいまいに進める語り口がヘタ。
　もっとも小競り合いの規模でも、カメレオンの本拠と設定の大河べりの水上部落の爆破が視覚的におもしろいし、当然のごとく登場のヴァン・プーと日本刀でデーヴィッドが対決が、意外とまずまずの殺陣になる。テッド・ヘミングウェーが中国系のフィリピン人だからか。
　まあヴィナイがデーヴィッドへ感じる敬意は納得がゆくも、デーヴィッドとチャーリーの友情の破たんがご都合主義なうえ、ヴァン・プーの部下によるデーヴィッドの残虐なあつかいを盛りこんだところで、ヴァン・プーは娘を無残に殺されたわけで、少しもヴァン・プーへの憎しみがもたげない。一方のデーヴィッドも家族を失っていて、さながら二人の決闘は復讐合戦。この個人の恨みを戦争自体の悲劇へ昇華させずにいる演出が二級の娯楽作と印象づける。
　おそらくアメリカ合衆国の観客にすれば、深く考えずにデーヴィッドへ感情移入でヴァン・プーをやっつけてしまえと思うだろうから、まさにアジア蔑視、アメリカの正義が世界の正義のアホな反映がうかがえる。テッド・ヘミングウェーはアメリカ合衆国向けを前提でなく、無意識なうちにアメリカ・サイドに立っていて、そこにフィリピンが精神的にアメリカ合衆国にレイプされた構図がひそむ。
　なんて解釈は飛躍かもしれず、ただ精悍なゲーリー・ダニエルズのアクションを楽しめばいいわけだが。
　個人的にはタイ人っぽさが薄いも、リチャード・キングの脇の存在感を評価する。フィリピンの女優が誰も顔をみせないのが残念。
　サムが経営と設定のトップレスのダンサーがうろつくバーは、どこかのフィリピンの店だろう。サムの手下役のひとりにボンバー・モランがいる。

※　この作品は『ファイナル・ターゲット　血の報復』の題名でヴィデオ発売されたことがある。