ＦＩＬＩＰＩＮＡＳ
　
03年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョエル・Ｃ・ラマンガン
主演：マリセル・ソリアノ
　　　 リチャード・ゴメス
　　　 アルミダ・シギオン・レイナ
　　　 ドーン・スルエタ
　　　 アイコ・メレンデス
　　　 ヴィクトル・ネリ
　　　 ウェンデル・ラモス
　　　 レーモンド・バガチング
　　　 アンドレア・デル・ロサリオ
　　　 サンシャイン・ディソン
　　　 タニャ・ガルシア
　　　 アン・カーティス
　　　 ミケル・カンポス
　　　 サラー・ヘロニモ
　オール・スター・キャストで描く、フィリピン人のアイデンティティーを問う群像劇。ジョエル・Ｃ・ラマンガンは『ＭＡＮＯ　ＰＯ』で中国系住民のアイデンティティーを扱ったから、今度は自分たちフィリピン人自身について考えてみよう、との流れになったのだろう。
　それにしても、多彩なシチュエーションを盛りこんだもの。
　まず家族の長がアルミダ・シギオン・レイナ演じる祖母で、女性が中心にいるのがフィリピンっぽい。三男三女の物語において、一家を取り仕切るのがマリセル・ソリアノ演じる長女なのも、またフィリピンの人間構成を思わせる。ドーン・スルエタ演じる次女はイスラエルで家政婦として働き、リチャード・ゴメス演じる長男はアメリカの企業に勤めていて、出稼ぎ社会のフィリピンそのもの。
　ヴィクトル・ネリ演じる次男は反米運動を繰り広げる活動家で、ウェンデル・ラモス演じる三男は軍隊の士官としてミンダナオでムスリム・ゲリラと戦っている。普段はバラバラのメンバーがアイコ・メレンデス演じる三女の結婚式のために集まってくるのだが、ちょうどクリスマスと新年の前後に設定をおき、一年のうちでもっともフィリピン人が大切にするシーズンなのがいかにも。
　マリセルはダニエル・フェルナンド演じるボーイ・フレンドと大恋愛だったのに、両親の反対やリチャードの横槍によって引き裂かれた過去を持っている。リチャードはアン・カーティスとミケル・カンポス演じる娘と息子を連れ帰るも、渡米前にもうけたサラー・ヘロニモ演じる娘がいて、まだ会ったことがない。ドーンはテロで友人を失ってイスラエルを危険と判断し、帰国を決めたのだが、リチャード・クアン演じる夫に生活力がなく、レーシェ・メエ・マナンタン演じる娘はいうことをきかない。それでアメリカ行きを希望し、兄のリチャードに相談する。など各自のかかえる問題が次々と明らかになっていく。
　となりにはジム・ペバンコ演じる従兄弟が住み、デンデン・パトリシオ演じる妻を殴りまくるしょうもないヤツで、サンシャイン・ディソン演じる娘がマリセルなどの家に逃げこみ、怒ったジムがクリスマスに放火するなど、兄弟姉妹だけでなくファミリーにドラマを広げるのが欲張り。ついにはアルミダにまでトニー・マベサ演じる神父との過去を暗示し、ちょっと無理がすぎないかと思わせる。
　ウェンデルがタニャ・ガルシア演じる妻から妊娠の知らせを受け、喜んだ直後に戦死は、あまりにもありきたりな展開。ヴィクトルがテロリストだったとのオチは、反米活動をちゃんと理解してるのか、真剣に怒鳴りたいくらいバカバカしい。
　アイコの花婿がレーモンド・バガチング演じるインド系住民で、インド・スタイルの結婚式の風俗描写は、さすがに興味を呼ぶ。でもアンドレア・デル・ロサリオ演じる両親の反対で結ばれなかったらしいリチャードの昔の恋人が結婚するのをリチャードが訪ねるシーンでフィリピン式の結婚式がうかがえたり、ウェンデルの軍隊による葬儀など、うまく儀式の設定を加えるも、冷静に考えれば短期間に不自然じゃないか。
　とにかくアメリカ帰りのリチャードをアメリカ嫌いのヴィクトルがからかい、軍人のウェンデルとも反目し、全編ケンカばかりの印象。夫婦のいざこざもしばしばで、殴り合い、泣き叫びの応酬にうんざり。ロイ・イグレシアスが一つでも多くフィリピン人の生活例を反映しようと脚本を練りまくったのはよく理解できるながら、こんな家族が実際にいるとはとても思えない。エピローグでたくみにまとめたとはいえ、ジョエルにすれば『ＭＡＮＯ　ＰＯ』のできに対してはるかにおよばないとの評価に落ち着く。
　まあ、ブッシュ大統領の訪比でアロヨ大統領と会見のニュース映像や、マリセルが巻きこまれるのを含む何度も反米デモのようすがでてくるから、アメリカべったりのフィリピンへ批判の目を向けつつもアメリカへの依存を切れない姿勢を風刺したのが、ちょっと面白いかな。サラーが携帯電話をひったくられるなど、軽犯罪への自虐的描きかたにもうなずけるものがある。
　それなりによくできた作品だとは認めよう。
　豪華配役陣に関していえば、みんなうまいはずなのに、わめいてばかりなのがイマイチ。アンドレアなど、ほんのワン・シーンの出演でもったいない。セクシーなのはタニャで、ウェンデルとのベッドが胸の露出はないものの、ムズムズを招く。ダンサーをめざしている設定のサンシャンがホット・パンツでエクササイズに励むのが、もっとも視線を奪う。
　なお、あっという間に歌手として人気を博したサラーが主題歌を担当している。