ＦＥＮＧ　ＳＨＵＩ
（風水）
　
04年：ＡＢＳ−ＣＢＮフィルム・プロダクションズ／スター・シネマ・プロダクション
監督：チト・Ｓ・ローニョ
主演：クリス・アキノ
　　　 ジェー・マナロ
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　　　 ロトロト・デ・レオン
　　　 イロナー・ジーン
　　　 ジェニー・ミレル
　　　 ジェラルド・ピサラス
　　　 ジュニー・ガンボア
　　　 ノニ・ブエンカミノ
　チト・Ｓ・ローニョが力を入れているフィリピノ・ホラーの一編。
　風水を題材に選び、冒頭のタイトル・バックにマニラの雑踏を点描しながら、中国の置き物や装飾品をキリストやマリア像とともにとらえる。バリバリのカトリック国のフィリピンにあって、中国文化が生活に入りこんでいるモザイク社会から超自然のネタを探っているように思われる。
　モティーフをなすのは風水の八方位を表わす八卦鏡で、これが主人公にツキと災いをもたらすことになる。十年近く前、マスコミで有名な風水の建築家の某雑誌連載を二年ほど担当したものにすれば、お申し訳程度に風水をかじったので、死を招くなんてあるわけないだろう、とバカにしたくなる。不幸を避けたり、吉への転換を探るために凶をだしているのであって、八卦鏡が呪いの原因だなんてただのこじつけ。いかにも西洋の宗教を信じた東洋人が東洋の伝統を理解できない実例といえ、まず大元のアイディアにシラける。フィリピンではけっこう高い評価を得た作品ながら、恐怖の前に笑いすら起きたほど。犠牲になるものたちの誕生日をたくみにつかい、数字のマジックを練ったロイ・イグレシアスとチトの脚本が頑張っていても、努力が買える残念賞といったレヴェルか。
　でもサスペンスとしては、いかにもチトらしいバランスよく衝撃を散りばめた構成のかっちり感と、悪趣味に走らない範囲でのＣＧを加えた映像のしっかり感でみせる。
　クリス・アキノ演じる主人公がバスの中で、エミール・サンドヴァル演じる男が置いていった八卦鏡を偶然に拾うところから始まる。ルズ・フェルナンデス演じるパン屋のおばあちゃんが「ウチにも同じものがある」といい、家にかけると、ラッキーなことが舞いこんでくる。勤め先でトップ・セールスを記録し、二百五十万ペソの賞与を受ける。ジェー・マナロ演じる夫も商談をまとめ、百五十万ペソのマージンをもらう。スーパーで買い物中にクジを引くと、一等が当たる。友人が亡くなって、バタンガスにあるビーチ・リゾートの遺産が入る。一方でジョン・ウラディミル・マナロ演じる息子が飼っていたトカゲが変死し、ヒューズが飛んで停電なんて出来事も起こる。エミールが殺された新聞記事を読んだクリスが驚き、ルズが突然に逝った事実を知り、車内に八卦鏡を忘れたのを届けてくれたレオ・ガンボア演じるトライシクル・ドライヴァーや、停電をチェックしたモン・コンフィアド演じる守衛が次々と命を落とす。
　いくつか興味深い要素が登場し、ジョンにエルネスト・サント・トマス演じる近所に住む友人ができて、クリスの一家と一緒に食事していくのがフィリピンっぽい。あとでジョンが不在のときも、クリスと二人で食べるシーンがでてくる。エルネストの母は韓国の工場へ働きにいって不在で、ジェラルド・ピサラス演じる父とヘーゼル・エスピノサ演じる叔母との三人暮らし。ジェラルドが警官、へーゼルが海賊版ＶＣＤ販売だから、なんじゃ、その組み合わせは、といったあたりもフィリピンの構図。ロトロト・デ・レオン演じるクリスの友人が八卦鏡は「ドアの上にかけるのよ」と教えて、風水の知識があるようで、イロナー・ジーン演じるもう一人の友人はタロット・カードをつかうから、東西のごっちゃな占い趣味が日本と同じか。老女の幻覚をみてクリスがミルクと肉を捧げ、去るように祈る儀式や、ジョンとエルネスト、ジュリアン・ゴメス演じるジョンの妹の子どもたち三人による「精霊よ、精霊よ」と呼びかける遊びは、土着の信仰をにおわせる。まねき猫のショットのアップが意味深なのは、中国だっけ、日本だっけの区別がついていない。
　クリスが亡くなったものたちの幽霊を目撃してからあとは、どうしてこんな気持ち悪い屋敷にいつまでもとどまっているんだ、といった多くの家つきホラーと同様のシラける疑問が持ちあがってきて、もう一つ評価できない。クリスがチェリー・パイ・ピカチェ演じるエミールの未亡人を訪ねて警告をうけたり、ジュニー・ガンボア演じる風水師に八卦鏡の神秘ついてうかがい、捨てられないとの伏線を張るのはわかるながら、それって違うだろう、との意見をいいたくなる。このあたり風水に無知なほとんどのフィリピンの観客とは異なり、さっぱり楽しめないポイント。
　まあ、アーチー・アダモス演じる叔父ともめてロトロトがケンカになり、切れてナイフをとりだすと、霊の横にいる自分の死体の幻影をみた直後、二階からアーチーにつき落とされて死亡。ジョンたちの交霊の遊びに現れるショック演出はまあまあだし、モンが盗撮していたヴィデオ・カメラに霊がうつっている不気味さや、纏足の靴をはく霊がコツコツと歩くイメージが異様な空間をつくり、チトがうまさをうかがわせる。
　ジェニー・ミレル演じる女性とジェーが浮気しているのをクリスが目撃。ジェニーのコンドミニアムへジェーがしけこみ、クリスたちがジェラルド宅へいったん避難すると、ジョンとエルネストが交通事故にあい、エルネストがひかれる。クリスが同じＡＢ型の血液を提供したあと、ジェニーのところへ駆けつけて、エレベーターが故障で非常階段を逃げる二人を追いかける。ノニ・ブエンカミノ演じるジェニーの夫が駐車場で待ちかまえ、ジェニーとジェーを射殺とのクライマックスは、たたみかけるようなテンポがグイグイとテンションを高める。イロナーがジョンとジュリアンを乗せて車を走らせ、ふとジュリアンに誕生日をたずねる不安の表現が、まさに秀逸。
　クリスがイロナーたちと再会する白昼の逆転劇もハッと驚きを招き、さすがに語り口のテクニックが冴える。アーチー・ヴェントサ演じる弁護士からチェリー・パイの遺産として五百万ペソが入るとの連絡をクリスが拒むなど、筋の展開には納得が少なくても、ホント、サスペンスとしては一級との評価に足りそう。
　チトは題材を変えて、今後もどんどんホラーを追求してほしいと思う。
　ところで女優陣の魅力はどうかだが、さして美人でもないクリスだから、ときめき度が低いのはしょうがないか。二タイプある白いピタパンを下半身にキュッとフィットさせているものの、かえってスタイルがイマイチとわかってしまうのがつらい。それでもツメで家をでて以後は、ジェラルドの家、病院、ジェニーのコンドミニアムと動く中、ずっとピタパンのままでお尻のドアップのショットも含むから、一度むいて中身をあらわにし、なめてみたい誘惑にはかられる。ロトロトもキツキツの白いピタパンをはき、アーチーに殺されるシーンなど、これでもかとお尻に食いこんでいるのがそそる。イロナーはクリスやロトロトより容貌は上だろうが、かなりボディーが太め。美貌という点ではチェリー・パイに違いなく、顔をみている限りではうっとりながら、やはり肥満が目立ちすぎる。ジェニーは好みとかなりはずれるタイプとはいえ、セクシー・スターだけに、エッチなシチュエーションがほしかった。ヘーゼルがただいるだけみたいな役なのはもったいなく、あの誘惑的なハダカをおがみたかったのも同様。一応、相変わらずの光る愛らしさが視線を引きつけてくれるが…　あとジェーの母をダリア・ラミレスが演じ、色気を残すおばあちゃんぶりが存在感を放つ。クリスの会社の同僚役でデニス・ホアキン、クリスのあとに呪われた家へフロイラン・サレス演じる夫、ビアンカ・ティオとブランカ・アテ演じる双子の娘とともに引っ越してくる妻役でジェニン・デシデリオが出演のキャストは、注意していないと気がつかないくらいのあつかいなので、ぜい沢な配役と思わせる。クリスにスーパーで抽選をうながすキャンペーン・ガールを演じる二人がけっこうかわいく、名前を知りたくなる。
　なお、レオが当てた商品だとクリス宅に送られてくる電化製品にＰＲＯＭＡＣとの企業名がはっきり読め、ジェニンが運びこむ電化製品はＫＹＯＷＡだと明らかで、エンド・クレジットによると、両社とも当然タイアップだった。