ＤＹＥＳＥＢＥＬ
（Ａ　ＭＡＲＳ　ＲＡＶＥＬＯ　ＣＲＥＡＴＩＯＮ）
　
(73)年：タガログ・イラン・イラン・プロダクションズ
監督：エマヌエル・Ｈ・ボルラサ
主演：ヴィルマ・サントス
　　　 ロメオ・ミランダ
　　　 ディヴィーナ・ヴァレンシア
　　　 ミナ・アラゴン
　　　 ロッサナ・マルケス
　　　 アイク・ロサダ
　　　 ヘルマン・モレノ
　　　 クリスティナ・レイエス
　　　 エヴァ・リンダ
　　　 ジャネット・クレメンテ
　　　 ミルドレッド・オルテガ
　　　 デシリー・デストレサ
　　　 チャンダ・ロメロ
　　　 ジョセフ・シタンコ
　　　 ジーナ・サブラン
　　　 パトリシア・プラタ
　フィリピン人ならおそらく知らないものがいない『ＤＡＲＮＡ』で有名なマルス・ラヴェロのコミック『ＤＹＥＳＥＢＥＬ』を映画化した作品。ようは人魚姫からアイディアを得た模倣であって、マルスのオリジナリティーの欠如は相変わらず。まともな評価の対象からはずれるといわざるをえないものの、若き日のヴィルマ・サントス主演だからみてみよう。
　人間に恋した人魚が二本脚を得るまでの物語。ヴィルマ演じる主人公のジェセベルのほか、約十名の人魚にはアイク・ロサダ演じる二本尾のオスがいたり、セキュリティー・ガードのような三名の半魚人ふうもみられ、適度に歌をはさむ構成がミュージカルっぽい。なるほど、どこか楽しい内容かなと思えば、決してそうではなかった。人魚たちにはディヴィーナ・ヴァレンシア演じるジェセベルにコンプレックスを抱くネクラものを中心に、反対グループが存在し、とっ組み合いのケンカを繰り広げる。魔法の貝を無断で使おうと掟を破った人魚は大ダコの住む海の一角へ投げこまれ、タコの攻撃で血がでて、一面がバーッと赤く染まる。人魚たちが海岸にいると、人魚狩りの人間たちにみつかって乱闘になり、けっこう暴力的な描写を展開する。ジェセベルをはじめ、人魚たちが海岸や人間の家など、水のない場所の移動で地面や床をズルズルはっていて、寒々とした痛々しさが漂う。ロメオ・ミランダ演じるプールつき別荘に暮す中流のボンボンとジェセベルは恋に落ちるのだが、ロメオの母がジェセベルを発見し、妖怪のように蹴るあたり、偏見ギンギン。ロメオに片想いする女性がこれでもかとジェセベルに意地悪をぶつけ、自分にほれる男を利用でジェセベルを誘拐のうえ、遊園地の見世物に。客たちがやじるジェセベルへの態度が陰湿さをあおる。ロメオにいいよる女性は、その利用した男をアイス・ピックで殺害。海底洞窟の崩壊でジェセベル以外の人魚たちが全滅、とすごく悲惨な話。魔法の貝によってジェセベルが人間になり、意地悪女が人魚に入れかわるラストも、あまりハッピー・エンドとは思えない。ジェセベルが知らずにピストルを撃つ設定にいたっては、何をかいわんや。
　ヘルマン・モレノ演じるロメオの使用人がコメディー・キャラで適度にずっこけギャグを盛りこみ、大ダコや、ジェセベルが呼びだしてロメオと海上デートするタツノオトシゴの人形がチャッちくてあきれるなど、笑える要素を含むながら、ホント、マイナス思考を誘うばかり。
　そもそもアンデルセンの童話だって明るさに遠いとはいえ、およそ子どもがみる作品と無縁じゃないか。
　まあ、大人のファンタジーと解釈すれば、人魚たちのオッパイ丸だしが嬉しいところ。普通は貝殻のニプレスとかで隠すのだが、ヴィルマとディヴィーナをのぞき、ほかはチャンダ・ロメロくらいしか名前がわからないものの、一人かわいい子がいて、その女優陣のほとんどが乳首をみせている。とくにロメオと半魚人が格闘するとき、浅瀬でみまもる人魚の水面すれすれからのぞく乳首は興奮を呼ぶ。さすがにヴィルマは髪の毛でオッパイをおおうというありがちな上半身でオッパイを包みっぱなしが当然にしても、プールで泳ぐ際に人魚の下半身をつくる尾の小道具がややズレてお尻の割れ目がチョロっと顔をだし、半ケツっぽいショットがあるからウハウハ。マジでヴィルマ、これいいの、って感じ。
　もっとも目のこえた年齢層が対象だからこそ、ロメオが遊園地から助けだしてジェセベルを海へ返し、双方が思い出に浸る感傷的な後半が薄っぺらで退屈を招き、エマヌエル・Ｈ・ボルラサの演出が冴えないから、凡作との評価はしかたないだろう。