ＤＩＴＯ　ＳＡ　ＰＩＴＯＮＧ　ＧＡＴＡＮＧ
（ここがピトン・ガタン＜７乾量＞）
　
92年：ＦＰＪプロダクションズ
監督：パブロ・サンチャゴ
主演：フェルナンド・ポー・ジュニア
　　　 ナネット・メドヴェド
　　　 パキト・ディアス
　　　 ハーリン・バウティスタ
　　　 デンショ・パディーリア
　　　 マックス・アルヴァラド
　　　 ホセ・ロムロ
　　　 ルエル・ヴェルナル
　　　 ラリー・シルヴァ
　　　 ディンド・アロヨ
　　　 チンガイ・リエゴ
　　　 ロベルト・オルテガ・ジュニア
　フェルナンド・ポー・ジュニア（ＦＰＪ）の主演とくれば、アクション作に決まりながら、人情喜劇の要素が強くなっている。
　トンドに舞台をとり、まず貧民街の生活描写がイキイキする。ほとんどの日本のメディアのごとく、ゴミ拾いの子どもをあつかうんじゃなく、カレッサが入り、道の上に紐を張って洗濯物を干す通り沿いに魚を並べて干物をつくったり、下水のマンホールに係官がトタン板でふたをかけ、石でとめるなどの光景が興味をひく。とくにおばさん連中が魚を開いて漬け、バゴオンを生産のようすに目をみはる。小区画ごとのバランガイで人々の暮らしをまとめるマニラの行政をバックにおき、バタンガイ長たちの集会にはじまる物語が、すんなりと導入のここちよさをくれる。
　ピトン・ガタンというバランガイの長であるベルティンがＦＰＪの役どころで、正義感が強く、ギャンブルを禁止し、シャブの販売人をやっつけるのがストーリーのひとつの格をなす。それで悪党のマソン（ルエル・ヴェルナル）にうらまれ、襲撃をうけるも、腕っ節のよさで撃退。かつての仇敵のダンテ（ディンド・アロヨ）が脱獄で復讐にくるが、たくみに退治。娘の同級の女学生がシャブ中毒の症状で自殺し、売人のベルト（レナート・デル・プラド）を追いつめると、販売シンジケートをつぶす。 これらの実行において、鮮やかな早撃ちや、片手で散弾を入れかえてショットガンを連続でぶっぱなすなど、いかにもＦＰＪらしい見せ場がでてくる。監督のパブロ・サンチャゴが、よくＦＰＪの個性をわかっていると評価できる。ダンテの手下がゴムぞうりにやすりを隠していれば、ベルティンがナイフを仕込んだ杖をもつといった小道具も活用する。
　一方でベルティンには、同居のお手伝いのおばさん（ナティー・サンチャゴ）しか知らない過去の犯罪暦があり、地方警察のラモス（ホセ・ロムロ）がマニラ警察の巡査（ヴィク・ヴァリオン）の協力をえて、ベルティンの所在を探している。はたしてベルティンは逮捕されるのかをサブで平行に語りつつ、となりのバランガイ長のランビン（ナネット・メドヴェド）とのロマンスがもうひとつの格になる。女性がバランガイ長なのに驚くも、反対どなりのバランガイ長のゴド（パキト・ディアス）がランビンに欲望をいだき、ベルティンの悪口をふきこむ。ベルティンがゴドともめてランビンのパーティーをぶち壊したため、ランビンがベルティンを誤解する。
　およそ美人のランビンには似つかないハゲ頭の兄のパドン（ラリー・シルヴァ）がいるかと思えば、ベルティンにもコミカルな相棒のフリヤル（デンショ・パディーリア）が周囲で騒ぎ、ゴドの部下たち（マックス・アレヴァロ、レネ・ホーキンス、ノノイ・デ・グスマン）のバカっぽさがコメディーの部分。犯人を追ってベルティンがランビンのバランガイへ入ったので、越権行為だと怒るランビンが頭にカールをかけ、顔にパックのままと、ギャグっぽくふるまう。ゴドの告げ口を真にうけたランビンがベルティンのいるマーケットへ怒鳴りこむとき、住民たちがおもしろそうとゾロゾロついていくユーモア・センスが、ありきたりでも愉快。でもゴドの部下たちの会話調は、笑いを狙っているようで、はずしまくるかな。
　ベルティンの娘のジェシカ（ハーリン・バウティスタ）に同級生のジョーイ（ロベルト・オルテガ・ジュニア）が恋し、バスケット・ボール大会でケンカになって泥だらけに、近所のサリサリ・ストアーのおばさんがあきれ、こちらもドタバタ・タッチなら、ジョーイがジェシカにもってきた花を、ふたりでランビンに届けてベルティンからと思わせ、夜にランビンの家で別れ際にキスを期待のランビンに対してベルティンがモジモジ。ベルティンのシャイぶりにＦＰＪはヘタだなあと思わせるも、アクションでのカッコよさとの対比をなし、ファンには魅力なのかもしれない。
　途中でピンポン・ボールのような球をじょうろみたいなので落とすルーレットのギャンブルや、マーケットの肉売り場でウソがないかベルティンが秤をチェックなど、庶民の日常ぶりがうかがえるのがポイントをあげる。ゴドの仲間が「カンパイ」と飲んでいて、この日本語の浸透がわかる。
　少年の死体がみつかる現実の残酷さに貧困の罪をちょっぴり盛りこむながら、住民たちがラモスからベルティンを守る信頼のパワーや、いったん逮捕のあと、ラモスがベルティンを釈放の人間味まで、まずまずの内容。ナネット・メドヴェドに色っぽいシチュエーションを欠き、セクシーさ不発が大いに不満でも、ＦＰＪの作品としてはこんなもの。
　典型的なフィリピンの娯楽作に思える。
　なお、ランビンのバランガイにいる身重の女性は、クレジットに名前が落ちるが、ジョアンヌ・サラザルに間違いない。