ＤＩＬＩＲＹＯ
（興奮状態）
　
97年：ＭＡＱプロダクションズ
監督：ペケ・ガリアーガ、ロール・レイエス
主演：ジョマリ・イリアーナ
　　 　ジゼル・トエンギ
　　 　ピンキー・デ・レオン
　　 　アマド・コルテス
　　 　ジュネル・ヘルナンド
　　 　ジョン・セノ
　　 　シェリリン・レイエス
　　 　アンドレア・デル・ロサリオ
　若い男女の性欲にもとづくイチャイチャのドラマだが、ファッショナブルに撮っているところに特徴がある。だからどうした、という気がするながら、上流社会のいい気なものよ的な内容に観客がいるわけで、フィリピンにおける大衆のあこがれのような要素が読みとれる。
　ＣＭモデルのオーディションに始まり、カメラ・テストなどがアメリカふうでおもしろい。恋人はいるかなどの質問のうえ、ジョマリ・イリアーナとＧ・トエンギ演じる男女が選ばれ、それぞれ相手と擬似恋愛の体験を仕向けるあたり、ＣＭを一つの作品としてとらえる傾向がうかがえる。いざ撮影がはじまると、予想以上に大がかりなセットとクルー。仕事がら、何度か日本のＣＭ撮影に立ち会ったが、これほどにすごいのはあまりみたことがない。しかも抱き合う二人に水をかけるエロティックな構成で、美人のＧの肌がスケそうなショットに興奮がおきる。ずっと経って完成のＣＭがテレビで流れるシーンがでてくると、ヤム・ララナス監督によるＣＭはアートを強調のイメージ映像で、本作の監督のペケ・ガリアーガやロール・レイエスを含め、こういう表現を狙ったのかとわかる。
　ペケが『Ｓｃｏｒｐｉｏ　Ｎｉｇｈｔｓ』を撮った事実を考慮すれば、なんと表層的で、深みに乏しいことか。
　そんなわけで、ドラマの人間に深みを欠くのは当然。まず個人的にジョマリのみならず、Ｇもタバコを吸う人物なのが気に入らないし、基本的に生活と戦う描写の皆無が説得力をさげる。Ｇなどインテリア関係の仕事につく設定が手伝い、住んでいる部屋が紹介されると、吹き抜けの二階、絵画やツボといった美術品、モダンな家具にデザイン優先の照明ライト、ガラスによるインテリアなど、この手の環境に暮らせるフィリピン人は一体どれくらいいるのか、といった感じがわいてくる。おそらく後半につぶすシーンをおく構成を前提で、凝りに凝りまくったのだろうが、もし物質的な面で映画に高級感がプラスできると考えたのなら困る。ようは生活観を匂わせる視点が大切なのに…
　まあ、フィリピン人のあこがれる空間を視覚化との意図だろう。
　ジョマリのほうはアマド・コルテス演じる父の死や、ジュネル・ヘルナンド演じる弟との関係など、まだ家族なりが推測できる。
　Ｇにはジョン・セノ演じる恋人がいるのだが、撮影の際にえたときめきでジョマリとのつき合いに進み、部屋の鍵を渡して半同棲状態。ちょくちょくケンカをくり広げつつも、別れられない状況におちいる、との展開はパターン通り。この間のセクシーな描きかたはさすがである。
　まず撮影の前に、シェリリン・レイエスとアンドレア・デル・ロサリオ演じる友人とＧが室内プールで会話のシーンがでてきて、シェリリンとアンドレアがそこそこかわいくて気になるものの、やはりえんじのブラに赤い無地のパンティー・ビキニのＧが視線を奪う。上から流れる水の壁にあたって、パンティーがピタッと貼りつく濡れた肌が超そそる。
　ジョマリと初めて結ばれるときは、シャツを脱がされ、ブラの胸元がキュートなうえ、途中で電話がかかり、ジョマリの肌にボールペンでメモをとる行為になまめかしさを伴う。シーツを体に巻いて、二階からジョマリの腕へのジャンプも、美人ならではのハラハラぶり。肉体派のジョマリが腹筋運動するのを支える際のＧのセクシーなスポーツ着も注目だが、白い下着に脱いでベッドでたわむれるボディーには、ほぼパーフェクトなプロポーションにノック・アウトをうける。紐なしブラの胸元は心臓のドキドキを促進し、ジョマリの上に乗ってキスでかがんだかっこうに浮きでるヒップラインなど、ある種、美のきわみ。生身の女性が地球上で一番だ、と教えてくれるよう。
　留守だと勘違いの電話修理が管理人に鍵をあけてもらい、部屋へ入ってくるや、ジョマリが階下で作業の修理の男をわざと挑発するように、Ｇがくるまるシーツをまくってみせるところは、全編のハイライトといって間違いない。シーツがもちあがっていくと、中からのぞくのはＧの全裸。ま、ま、まさかＧが…　とこっちまで平静さを失い、ひょっとして乳首が…　陰毛が…　お尻の割れ目が…　と凝視するも、横からみたボディーのみだが、下着をなにもつけないＧの肌に無条件降伏。
　美人のハダカは、どんな宝石よりも輝きまくるとの実感が盛りあがる。
　こんなアブナイ行為を嫌がったＧが、だんだん自分もスリルを楽しみはじめ、修理人が帰った直後にジョマリに怒りをぶつける心理に納得がおき、ヘンなところだけ人間が描けている。
　ほかにジョマリとケンカの仲直りで服を着たままプールで泳ぐシーンや、乳首は隠れるものの、ハダカのままベッドで寝るシーンなど、Ｇファンにはたまらない作品。
　ジョマリの浮気相手を演じたアンナ・リザ・マテオや、ジュネルのガール・フレンドを演じたジェニファー・カボタヘにもちょっと露出があるが、オマケ程度のもの。
　でも本当にドラマのほうは冴えない。Ｇとジョンの関係に嫉妬のジョマリが、ついにキレて部屋を壊しはじめ、このあたりはみていて嫌気がさす。そのうち開き直ってＧまで破壊行為に走り、えんえんと続くバカさ加減に、なんて甘えているヤツら、と不快感すらおぼえる。しょせん、タバコをプカプカふかす脳ミソ程度なのね、と吐き捨てて終わり。
　現実のフィリピンではみんな生活と格闘なのに、いい気なものよ。
　まったくペケが本気でこんなシチュエーションを考えたのなら、才能の無駄づかい以外の何物でもないし、ＣＭモデルへの抜擢によってジョマリとＧの将来に対する変化や影響が描かれるわけでなく、ウロ・デラ・クルースの脚本も著しく感心しない。
　いったんＧがジョマリをナイフで刺すも、やっぱりよりを戻すラストは、勝手にせー、とあきれるばかり。
　イライラのすえに不愉快までくれる、実にくだらないのきわみ。真剣にこんなドラマを喜んでみるフィリピンの観客がいると思いたくないし、とにかく甘えたヤツなど、あえて映画の主人公においてほしくない。だからこそ二度とごめんのクズ作品。
　Ｇのセクシー・シーンだけは、繰り返し何度でも鑑賞したいが…