91年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョエル・ラマンガン
主演：ナネット・メドヴェド
ニダ・ブランカ
エドゥ・マンザノ
ピラル・ピラピル
トントン・グチェレス
ビン・ロイサガ
デニス・パディーリア
アトン・レディーリアス
ドンナ・クルース
トニー・ランビノ
初めてダルナを演じた女優は、1951＆52年のロサ・デル・ロサリオだという。その後、63年にリザ･モレノとニダ・ブランカ、69年にジーナ・パレニョ、73＆75＆80年にヴィルマ・サントスが演じるから、けっこう大物女優がやっているじゃないかとの印象（シャーロン・コネータの情報を得るが、確認していない）。ヴィルマの作品は四本もある。だと、ナネット・メドヴェドはダルナ役として六代目か。
このダルナはマルス・ラヴェロ作によるフィリピノ・コミックのヒロインで、50年に連載開始。さすがというか、やっぱりというか、アメリカン・コミックの絶大な影響下で書かれたもの。スーパーマンの女性版なのは一目瞭然で、個人的にコミックはアメリカンもフィリピノもくわしくないが、映画になったスーパーガールというのは、ダルナと似たヒロインに思え、元がコミックだろうか。ＴＶシリーズでみたワンダーウーマンはコミックの原作のはずだが、やっぱりダルナにヒントを与えたのだろうか。
なんてことはさっぱりわからないが、前に赤フンのごとき布がたれるかっこうは笑いを誘うものの、ほとんどビキニに近い、露出部分の多い衣装を着たキャラクターが好みなのはいうまでもない。
つい期待が高まる。
まずエドゥ・マンザノ演じる敵役が悪のメダルを求めて南米を探検との出だしは、どうみても『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』をマネたイメージ。主人公のナルダ（ダルナとはこの名前をひっくり返しただけ）がダルナに変身の石を授けられるシーンは、ヴィーナ・モラレス演じる天使か妖精のような女性が現われて『青い鳥』のエリザベス・テーラーを意識においたか、なんて推測がもたげる。
ちなみにヴィーナのほか、この作品にはレーチェル・アレハンドロ、アーミー・ペレス、チェリー・パイ・ピカチェ、ダリア・ラミレス、シルヴィア・サンチェス、メリー・ワルテル、ジョコ・ディアス、ジミー・サントスなどがゲスト出演する。
ナネット演じるナルダがメガネをかけ、新聞社に勤めるあたりは、スーパーマンにそっくりすぎるぞ、とあきれ感が先行。トントン・グチェレス演じる同僚の記者が、ダルナに恋する人間関係も、模倣が明らかじゃないか。
ナルダの家族である祖母にニダ・ブランカを配役は、ダルナ役の経験者だけに、ファンへのサーヴィスだろう。ドラマに深くかかわってくる弟は新人のトニー・ランビノが演じ、ダルナがこのニダやトニーたちを空中散歩させるシーンは、原作に描かれるのか、リチャード・ドナーの『スーパーマン』のいただきなのか。
トニーのガールフレンド役で、やはり新人当時のドンナ・クルースが顔をみせる。
エドゥによって悪の化身に変ぼうの二人の女性はピラル・ピラピルとビン・ロイサガが演じ、前者は髪の毛がヘビに変わるあたり、メデューサそのもの。後者は羽根をつけた悪魔、つまりデヴィルの姿を彷彿とさせる。原作のキャラなのだろうが、もっとオリジナリティーがほしかったところ。エドゥがクライマックスのダルナとの対決で、よくバイキンが持っているような先の三本にとがった鍬をだしてきて、そこから火を放ち、マンガっぽい面白さとの狙いはわかるも、幼稚だなあと苦笑い。
ようは、アイディア不足。
ピラルなどカリスマ的なファッション・モデルとの役柄だけに、ちょっと年齢をとりすぎているぞ、との不満が残る。ボディー・スーツのような衣装で熟女の色気を放つピラルだが、適役とはいいかねる。
いったんダルナが魔の水を飲まされ、邪悪に変身の儀式が描かれるのに、あっさり解決にいたっては、どっちらけのけ。結局、あやつり人形となったダルナが暴れる展開は登場せず、なんて安易なストーリーなの。
ジョエル・ラマンガンの監督作品なれど、注目すべき要素は皆無に近い。
コメディー・リリーフとしてツチノコの中型版みたいな動物がでてきて、これが声優として台詞をアテるルビー・ドミンゲスの節まわしが軽快で、けっこう笑えるくらいか。ダルナと悪魔の空中戦のシーンなど、合成がバレバレなのはしょうがないにしても、手に汗握る興奮など、いくらでも演出で盛りあげられただろうに…
もっとも最大の不満は、ナネットの魅力不足につきる。最初の紹介のしかたが水浴びの沼からザバッと顔をあげるもので、オオッと、セミ・ヌードだぞ、と鼻息が荒くなるも、白いスリップの下に厚めのブラをつけているのか、乳首がスケずに肩透かし。水からあがってもさほど全身に貼りつかず、ややお尻からパンティーが浮かぶどまり。
そんなことはさておき、ダルナの衣装が決まっていれば文句はないのだが、スリムすぎてムンムンとそそるフェロモンがうかがえない。たいして美人じゃないあたりは許せるも、もう少しオッパイが揺れてほしかった、というのが本音。
諸先輩がたのダルナをスティール写真でみるに、もっともセクシーなデザインには違いないが…
スケベ心を満たしてくれないナネットのダルナだった。
なお、アイク・ハルレゴ・ジュニアが編集を担当。クレジットなしでロルリ・ヴィリアヌエヴァがダルナの母親役で出演し、子どものナルダ役はアンナ・マリー・ファルコンの芸名だったフランシン・プリエトのようだ。
※ その後、調べた結果、映画でダルナを演じたのはロサが51年に二本、リザが63年に二本で、リザの二作目のほうはニダが共演でダルナの格好になるシーンがあるものの、ダルナ役ではない。64年にエヴァ・モンテスがいて、69年にジーナ、73、74、75、80年にヴィルマ、79年にリオ・ロクシンとなる。シャーロンは86年に同じ原作者であるマルスが創造したキャラクターのキャプテン・バルベルを主人公の作品でダルナとして登場。79年には人気コメディアンのドルフィーによるパロディー作品も制作され、ブレンダ・デル・リオ演じる妊娠のダルナに変わって活躍。この中ではロティス・ケイにもダルナの衣装のシーンがある。77にはロルナ・トレンティノのＴＶシリーズがつくられる、ということが判明。したがってナネットはダルナ役として十代目か。ほかにトヨタのＣＭでリサ・マクハ、アンジャネット・アバヤリ（ナネットの次のダルナ女優）、デイジー・レイエスがダルナに扮している。
