ＣＵＲＡＣＨＡ　　ＡＮＧ　ＢＡＢＡＥＮＧ　ＷＡＬＡＮＧ　ＰＡＨＩＮＧＡ
（クラチャ　やすまることのない女）
　
98年：リーガル・エンターテインメント
監督：チト・Ｓ・ローニョ
主演：ロサンナ・ローセス
　　　　ジャクリン・ホセ
　　　　アラ・ミナ
　　　　ルビー・モレノ
　　　　マイク・マガット
　　　　リト・レガスピ
　　　　リチャード・ボニン
　　　　ルシタ・ソリアノ
　　　　モーリン・マウリショ
　走るＬＲＴがみえる部屋に裸のロサンナが横たわるファースト・シーンから、オッと思わせるものを感じとる。すぐれた作品というのは、冒頭から違いを伝えてくるものだ。
　これは闘牛にたとえて男をトレロ、女をトレラと呼ぶライヴ・セックス・ショーの演技者で、ロサンナ・ローセス扮するトレラを主人公におくエロティック・ドラマだが、セクシーさをセールス・ポイントにすえる見世物的要素を表面にかがげながらも、奥にははるかに深い一つの人間の生きざまを描きだしている。それにマルコスを退陣に追いこんだコリー・アキノ政権直後の選挙を時代背景にとることが興味深く、風俗的な面白さにも満ちる。
　とにかくマニラの街の雰囲気をひしひしと肌で伝わるごとく映像化の点がみごと。夜のシーンが多いせいもあり、全体的にくすんだ暗さのようなトーンで表現され、撮影監督のチャーリー・ペラルタの手腕に感心が起きる。窓に街灯の光を照らしこませたり、街のいたるところに煙がもやもやに、どこか『タクシー・ドライバー』を思いだす。青を基調にすえるあたりは、工藤栄一の演出スタイルを連想だが、ステージ・シーンでは赤を幻想的に使用で、センスのよさがにじみでる。これで十分な予算があり、パナヴィジョンのような機材を使い、現像の技術も十分なら、ヴィットリオ・ストラーロにも負けていないのではないか。
　チト・Ｓ・ローニョ監督のリアリズムに基く視線も確か。物乞い、ゴミ拾い、身体障害者、宗教献金を説く者、サンパギータ売り、犬を焼いて食べる人々などを物語の随所に登場させ、説得力に満ちる環境の設定をおく。ライヴ・セックス・ショー自体が興味をそそるが、他にもスパイダー・マンのようなゲイのライヴ・バーや、老人病院の内部、フェリーの船室など、好奇心をそそるスポットを舞台に散りばめる。中でも選挙がらみのシーンは特筆もので、アジ演説、デモ、軍隊の発砲など、コリーの政権交代初期を、個人的にはこの目でみたわけではないが、なるほどとの再現ぶり。しかも軍隊を単純に悪とせず、トレラたちが乗せてもらった輸送車の中で「何があるの」との質問に「秘密だ」と困ったように答えるシーンなど、彼らの上からの命令に従わざるをえないシチュエーションをさりげなく伝える。ロサンナのセックスの客の一人にリト・レガスピ演じる、体制のどちらにつくか迷っている大佐がいたり、チェック・ポイントでリチャード・ボニン演じる兵士にセックスさせて切りぬけるあたり、彼らもただのスケベな男にすぎないことによって、とかく非人間的に描かれがちな集団としての軍隊を個に焦点をあてることで生身の人間っぽさを持たせ、あざやかのひと言につきる。軍隊が発砲のシーンでルビー・モレノ演じるトレロが顧客だった兵士と出会い、銃をかまえる彼を呼び寄せてキスの展開は、いささか現実的に浮いているかもしれないが、いざ発砲が始まって子どもまで撃たれる中、それでもキスを続ける二人に、ある種の狂気のようなものまで感じさせる。まさにフィリピンが狂っていた時代をチト監督は振り返っているかのよう。
　こうした確かなバック・グラウンドを置いてこそロサンナの人間ドラマが輝くわけで、骨格となすのはビジネスとしてのセックスに疑問を抱き始めた主人公が、いかに変わっていくか。マイク・マガット演じるショーのパートナーは彼女に愛情を抱く設定だが、まずそこへ救いを求める構成にしない厳しさがよい。後半、ジャクリン・ホセ演じる元トレラだった親友と再会し、彼女もまた精神のよりどころを失っていて、それを取り戻す手助けをすることで自らも癒されていく流れとなり、ここでの二人の軌跡は単純な交流でなくエゴイズムを爆発のシーンを含み、けっこう共感ものである。ロサンナが船長を誘惑のシーンなど、オッパイ丸だしに迫る彼女の服のチャックをしめてあげる船長から、ときに人間は誘惑に勝って、尊厳さを示すものだとのメッセージが読みとれるふうにもうかがえる。
　映画はコリーが大統領に当選でフィリピンがターニング・ポイントを迎えたことと、ロサンナ個人が人生の曲がり角にきたことをダブらせ、何が変わるべきだといって、国家も国民も、一人の個人も尊厳を持つべきだとの立場をとっているからこそ、こうも納得を呼ぶわけである。
　もっとも薬物におぼれていく部分は定石だが、それでロサンナが死を選ぶ結末はどんなものだろうか。ひょっとしてコリーによってもフィリピンがよくならなかったことへの皮肉かとも感じるが、死を崇高に描くより、あくまで戦う彼女の人生選択をみたかったのだが…　国旗掲揚と国家斉唱のあとに倒れるラストのシチュエーションに、けっこう暗示をこめた要素が読みとれる。
　正直いうとアラ・ミナの大ファンで、彼女がトレラを演じるから、これは大胆なセックス・シーンが期待できるぞと思ってみた映画。なのだがアラの出演シーンは少なく、チェリー・セルヴァンテス演じる同僚が死んで、エヴァ・ダレン演じるその母親の前で号泣のシーンくらいしか見せ場がなく、セックス・シーンはお申し訳程度にほんの十数秒あるだけ。それでも全裸でオッパイ丸みえ、瞬間、陰毛ものぞくから興奮たっぷりなのだが、いくらなんでも不満が残る。ゲスト出演だと割り切り、あきらめるしかないかもしれない。
　まあヒロインはロサンナだし、彼女は十分に裸をみせまくる。お椀型の美乳かつ巨乳を冒頭から全開にし、大佐とのセックス・シーンや、タクシー運転手、兵士、船長を相手に全編でオッパイを露出三昧。ライヴ・セックス・ショーのシーンは意外にも一回のみながら、ここは全裸で一瞬、陰毛までチラつかせる。ショーが終ってヒシャクでオマンコを洗うシーンも全裸のままで、陰毛を手で隠しただけで立ちあがる姿にドキッ！。
　とはいってもロサンナはスター性十分だし、おそらくフィリピン人は彼女のような西洋風の容貌を美人と考えるだろうが、個人的にはあまり好みではない。刺青があると興奮できないという嗜好面の性癖も影響し、肩の刺青が気になってしょうがない。
　終ってみれば当初の目的であったスケベ根性を満たしてほしいとの要素は半分くらい不発だったが、まさか胸にジーンと迫る感動体験をもらうとは予想だにしなかった。
　佳作である。