ＣＡＲＩＮＯ　ＢＲＵＴＡＬ
（残忍な愛情）
　
98年：プレミア・エンターテインメント・プロダクションズ
監督：ロミー・Ｖ・スサラ
主演：ロサンナ・ローセス
　　　 デイジー・レイエス
　　　 リチャード・クアン
　　　 ジョージ・エストレガン（ジュニア）
　　　 リチャード・ボニン
　　　 ロバート・オルテガ
　　　 ロイ・アルヴァレス
　「これは実話である」との冒頭のクレジットにロミー・Ｖ・スサラ監督たちスタッフの意気ごみを感じるが、ラストで「この事件の判決はまだおりていない」と説明が入り、驚いてしまう。現在進行形の裁判を題材にとる映画には今井正の『真昼の暗黒』というすごい傑作があるが、あきらかに冤罪だったあの作品とは異なり、確かに連続殺人を実行している人物を主人公におく点が面白く、はたしてこの殺人に対し、どれくらいの罰を与えるのが適当なのかを観客に問うているような姿勢に共感する。おそらく映画が判決に影響を与えることはなかっただろうが、未決の事件をあつかった意義は十分にあると思う。
　それにレイプをテーマにとる作品としては、ＴＶムーヴィー『私は犯された　エレン夫人の裁判（Ａ　Ｃａｓｅ　Ｏｆ　Ｒａｐｅ）』に匹敵する問題意識の深さ。私刑容認で終わる『リップスティック』や被害者にも原因のいったんをみようとした『告発の行方』など、どこかへ吹っ飛んでいくよう。
　こちとらとしてはスケベだからロサンナ・ローセスとデイジー・レイエスのヌードを期待の作品だが、冒頭に看護婦を演じる二人が出勤の準備のシーンでロサンナの白衣からパンティーがスケていて、まずオッ！　シャワーを浴びてきたデイジーが白衣に着がえるところでは、下着になるとパンティーがお尻に食いこんでいて、オッオッオッ！　とさっそくよだれ。こんな看護婦がいたら、チンポをみられただけで勃起するなと思うも、ロサンナがオフに射撃の練習のシーンが続く。西洋ふうの美人で腕に刺青のあるロサンナは、確かに白衣の天使よりも、こちらのほうが似合っているかもしれない。次にバーのトイレでデイジーが暴行されそうなのを助けるシーンがくるが、ロサンナの怒りの表情は、なるほど強さを秘めていると感じさせる。
　映画は四人組の覆面の暴漢に二人が連れ去られ、廃墟で激しいレイプのシーンが全体を通して最大の見せ場ながら、ここはもっとリアルに描くべきだと不満の残る内容。ロサンナが無残に服を脱がされてハダカにむかれるのは迫力ものなのに、稲妻がピカピカ光って雷を鳴らせたり、『リゴレット』を流して変態性を強調も、セックス自体に実感がない。やはりジーンズのジッパーをおろすだけでなく、男どもも全裸になり、勃起のチンポをうつすのは無理でも、それに近いくらいの描きかたでないことにはレイプのリアルさが伝わってこない。やたら全裸で熱演のロサンナばかりが目立っている。
　スケベな興味でいうと、目はロサンナのポコッとキュートな曲線を描く乳房に小さくついた乳首や、割れかたが理想的に美しいお尻に釘づけ。ということは、犯人どもと一緒に視姦しているも同然かと自問するが、デイジーはブラをはがされるながら、乳首が隠れたままなのが残念、と相変わらずのよだれ。
　ただしロサンナに拳銃を向けてロシアン・ルーレットの描写は、犯人どもの非人間性を表現のうえでかなり効果があり、こんなヤツらは死刑が妥当と通常の感情を持つ人間が思うのは当然で、へたなヒューマニズムなどけちらされる。言葉にださず、表情で命乞いをするロサンナの演技は絶賛に値する。
　さらに映画はレイプというのは肉体的に傷を残すだけでなく、精神的にいかにダメージを与え、周囲の人間関係まで影響するかを描いていく。看護婦の同僚からはうわさ話にさらされ、ボロボロに傷ついた身体をみせられてロイ・アルヴァレス演じるロサンナの恋人は去っていく。もし自分の恋人が同じようなめにあったなら、お前ならどうすると問われているかのようであり、苦しい男の立場にもふれている。あとでロイは戻ってくるも、彼の器量が小さかったことを一概には責められない。
　よりが戻ったあとのセックス・シーンは、またもロサンナの吸いつきたいようなオッパイが全開で興奮ものだが…
　デイジーの家族の心情も描かれ、映画はよくふくらみを与えてる。
　犯人たちには妻子がいたり、婚約者がいることがあとで示されるが、拳銃で死ぬほどの恐怖を与えて喜んだ報いと考えると、だからどうなのと思わせるのが恐い点。
　警察があまり頼りにならないのはいうまでもなく、ちゃんと本人の立会いで現場検証をおこない、指輪を落としたために探しにきたリチャード・ボニン演じる犯人の一人を容疑者とにらむも、彼の住所をロサンナに教えるのにはびっくり。フィリピンの警察って、平気で捜査過程の情報を被害者にバラすものなのかと…
　ロサンナはバックルを目撃の記憶から犯人と確信し、復讐を決意でリチャード・ボニンを殺すや、そのとき彼の部屋で仲間の写真をみつけて残りのメンバーを知る。当然、警察はロサンナを疑うが、「レイプ犯をつかまえるほうが先でしょ」みたいに怒りをぶつけられるのに納得。
　リチャード・ボニンが婚約者とセックスのシーンでは、名前がわからないが婚約者を演じる女優のオッパイが丸みえで、けっこうドキドキもの。 復讐のときのロサンナの黒いエナメルのホット・パンツも実にセクシーで、悲劇のドラマにのめりこむようでいて、こんなことが嬉しくてしょうがないのはスケベだからだが、作者たちもエンターテインメントにすべく見世物的な要素を加えているわけで、「映画ってのは、しょせんこの程度のものよ」という感じがしないでもない。
　ジョージ・エストレガン演じる二人目の犯人を殺すのは火炎放射器で火だるまの残酷さだし、ロバート・オルテガ演じる三人目をつき落とすシーンでは、またもセクシーなレザー・パンツのロサンナがおがめて、これじゃ『黒衣の花嫁』といった復讐ものと違いがなく、フィクションをムンムンと感じさせる。しかもジョージが妻子を大事に守っていたシーンが前におかれただけに、殺されたあとの家族の反応がでてこないのは、印象として不完全なものが残る。ホセ・Ｎ・カレオンがストーリーと共同脚本を担当なので、どこまでが実話なのか聞いてみたいところ。
　映画はロサンナが復讐との形で自分に決着をつけるのと平行し、ひたすら現実から逃避のデイジーも描いている。しかもレイプのときの彼女を忘れられず、リチャード・クアン演じる犯人が求婚してくるという展開。デイジーがやさしい彼に救いを求める過程に説得力があり、いつ実は犯人だったと気がつくかのサスペンスも生まれる。
　海岸で愛を育むシーンのデイジーの黒いハイレグ・ワンピースの水着がキュート。容貌はロサンナよりも落ちるが、デイジーもそそる女だなあ、なんてどうしても下世話な興味に引かれてしょうがない。
　ロサンナが夫の秘密を告げにくるものの、信じられないデイジーの気持ちは理解できるが、『リゴレット』を聞くことでハッと目覚めるとは『時計じかけのオレンジ』の『雨に唄えば』のよう。ロサンナが殺しに現われて格闘になり、反対にリチャード・クアンがロサンナに銃を向けてあわやという瞬間にデイジーが夫のリチャードに対して発砲は、レイプという犯罪がいかに許されないものかをあらためて強調する感じ。
　映画はロサンナがデイジーの夫殺しも引きうけて法廷に立ったことを告げて終るのだが、ドライな描きかたにもかからわず、ちょっと涙がでてきそう。それはロサンナの行動が異性であっても十分に共感できるからで、はたして女性はどう感じるかと知りたくなる。極端ないいかたをすれば「繁華街でたむろっている日本のバカ女なんかみんな犯しちまえ」と平気で口にする者にしても、レイプの非人間性を再認識させてくれる内容であったということで、まあ被害者二人をチャラチャラした女として描いていたら、また違った感想を持ったかもしれないが…
　この作品のような女性なら、寛大な判決を望む。
　多少ともセクシーな面をセールス・ポイントにおく低俗な要素はプラスの嬉しさだし、かなりの力作といえよう。