ＣＡＧＥＤ　ＦＵＲＹ
　
83年：レア・プロダクションズ
監督：シリオ・Ｈ・サンチャゴ
主演：バーナデット・ウィリアムズ
　　　 ジェニファー・レーン
　　　 ターフィー・オコネル
　　　 キャサリン・マーチ
　　　 マーガレット・マギック
　シリオ・Ｈ・サンチャゴのＢ級アクションで、女囚ものの形をとるながら、さほどエロスを前面にだしていない。アメリカ合衆国とフィリピンの合作にあたるが、実際はアメリカ向けにつくられたフィリピン映画と考えられる。
　ヴェトナム戦争を舞台にとり、まずはマニラ・ホテルをバックにハワイとのクレジットが入ると、人間爆弾が破裂のプロローグがおかれる。自爆テロとは、今ならイスラム原理主義者がイメージに浮かぶも、本作の制作当時はジョン・フランケンハイマーの『影なき狙撃者』かドン・シーゲルの『テレフォン』にアイディアの元がうかがえ、とくに後者をマネたのだろう。キャストのクレジットにはレイ・ダニングと書かれているのに、劇中ではケイ・ダニングと呼ばれる女性が人間爆弾で、ボビー・グリーンウッドが演じていて、オイオイ、オカマかよとあきれる。アメリカ合衆国公開版の現存ブリントではオープニングのタイトル・クレジットが欠落なため、主要スタッフが誰かわからないのだが、資料によればボビーは本作の脚本を担当している。
　ヴェトナムのどこかの設定にかわって本筋に入る。
　とはいってもフィリピン・ロケなため、ヴェトナム語のセリフの発音がヘン。ヴェトナム語を話せたとのキャラづけのアメリカ人女囚役であるマーガレット・マギックはともかく、ヴェトナム人の女囚役のジーナ・アラハルや、収容所の洗脳担当士官役のレオ・マルティネスなど、フィリピンの人気俳優のヴェトナム語は、どう聞いても違和感が残る。おそらくヴェトナム人にすれば、ちょうどアメリカ映画などで日本人でない役者が日本人の役ででてきて、日本語らしきものをしゃべるとき、なんといっているのかさっぱり意味不明状態になるのと同じかもしれない。またアメリカ側の外交官（ケン・メトカーフ）に女囚たちと、アメリカ側へ逃げたヴェトナム軍の将軍（エルニー・サラテ）の交換をもちかけるヴェトナムの女性エージェント（エリザベット・オロペッザ）が上司（ネロ・ナヨ）と話す際に、ヴェトナム語じゃなく英語なのが不自然になる。
　言葉の問題はさておき、そもそも野蛮なヴェトナム軍の描きかたからして、シリオ・Ｈ・サンチャゴが確信犯的にアメリカ白人のプライドをくすぐり、アジア蔑視を盛りこむ狙いがよくわかる。だからこそ収容所をとりしきるヴェトナム側の大佐（ホセ・マリ・アヴェリアーナ）のサディスティックな性格への説得力の欠如など、当然といえる。
　一方で拷問をうけたカナダ人の女囚のデニス（バーナデット・ウィリアムズ）と恋に落ち、一緒に脱走するも、住民の密告で殺されるヴェトナム兵がでてきて、純情なこの兵隊を演じるのが、ふだんはイジメるほうの役柄の多いフィリピンの性格俳優のエフレン・レイエス・ジュニアなので、ちょっとおかしさがある。
　物語は収容所のひとつの監房を中心に、そこの収容者六名の群像になる。アメリカ人と結婚したためにつかまったヴェトナム人のヌエット（ジーナ）がいつもおびえ、ヴェトナム兵に蹴りを入れるタフな女囚のジャッキー（キャサリン・マーチ）が守ってあげる。食糧をえるためにヴェトナム兵に身体を提供するものがいて、収容所長にも誘惑をかける。ターフィー・オコネル演じるこの女囚は一度も役名が呼ばれないが、エンド・クレジットにはハニーと書かれている。同室のリンダ（ジェニファー・レーン）がＣＩＡのエージェントとバレて拷問をうけ、デニスの脱走が事前に察知される。中にスパイがひそむのではとの疑惑がわきあがり、証拠がなくてもハニーに疑いの目が向く。との展開は、あきらかにビリー・ワイルダーの『第十七捕虜収容所』のパクりになる。さすがにワイルダーの緻密な構成と比べるのは酷ながら、ヌエットが悲しげな表情で白人の女囚たちのようすをながめるショットを数箇所挿入の手法は、ジーナ・アラハルの演技がたくみなこともあって、それなりに評価できる。
　もっとも女囚ものに定番のシャワー・シーンがあるとはいえ、全裸で格闘のお色気パワーを含まず、かなり中途半端。クライマックスの列車で輸送中の集団レイプですら、撮りかたのヘタさで肉体のマジックがそそらない。女囚たちが蒸気機関車を乗っ取り、装甲車やヘリコプターがでてきてのアクションはＢ級なりの頑張りでも、しょせんは水準におよばず、本当にすべてが中途半端に思える。
　入所の際にダニ駆除でのシャワーや乳首に電流を流される拷問、一緒に逃げたヴェトナム兵とのセックスでバーナデット・ウィリアムズがオッパイをみせ、洗脳の拷問でジェニファー・レーンやキャサリン・マーチも乳首を責められ、食糧をもってきた兵士に抱かれるときにターフィー・オコネルが乳首をポロリながら、個人的な好みもあって、どれもさっぱり興奮の外。本来はファンのジーナ・アラハルのヌードを期待したわけで、十六歳との設定はハテなだが、二度のシャワーで乳首を隠している。どうでもいい白人女優の乳首はバッチリなのに、肝心のジーナの乳首がおがめないんじゃ、たこ焼きを買ったのにタコが入ってなかったみたいなもの。
　不満、不満、不満。
　もうひとりのフィリピン女優のエリザベット・オロペッザにはアオザイを着るシーンがあるが、あの衣装の魅力を理解していないうえ、ブーツをはいたパンツ・ルックも下半身にフィットのタイプじゃなく、こちらもイマイチに終わる。
　もしジーナの乳首がみえていれば、拍手喝さいにあたいしたのに。

※　この作品は『美女１０人大脱走』の題名でＤＶＤ発売されたことがある。