ＴＨＥ　ＧＲＥＰＯＲ　ＢＵＴＣＨ　ＢＥＬＧＩＣＡ　ＳＴＯＲＹ
　
95年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：トト・ナティヴィダッド
主演：ジョコ・ディアス
　　　　ロナルド・ヴァルデス
　　　　ブーツ・アンソン・ロア
　　　　アルベルト・マルティネス
　　　　ヴィーナ・モラレス
　　　　クリスティナ・ゴンサレス
　　　　ガーリー・エストラダ
　　　　イザベル・グラナダ
　　　　キエール・レガスピ
　　　　ベンボル・ロコ
　　　　ダニエル・フェルナンド
　　　　リチャード・ボニン
　題材となる主人公が自らストーリーと脚本を執筆だから、実録ものの典型かもしれない。刑務所生活で更正との内容は、フィクションであれ、犯罪ものの一つのパターンとも考えられる。
　神を信じることで正しく生きる道を学ぶとは、いかにもフィリピンらしいが、そこが『塀の中の懲りない面々』と違ってコメディーになれないところで、まあこれも国民性として面白いのではないか。
　前半のジョコ・ディアス演じる主人公が、たとえ家庭問題があるにせよ、どちらかというと恵まれた環境にいながらも悪の世界へはまっていく展開は、あまり共感できるキャラづけではない。時代的にはマルコス政権下のはずだが、映画には描かれないものの、貧困がすぐ近くにもあったはずで、ちょっと甘えてるぞと思える。
　刑務所内の描写に変わってから、いかにも実録ふうの面白さがでてくる。冒頭の回想に入る前に挿入の受刑者たちの農作業ぶりが興味深く、フィリピンも田植えをするのかなんて妙な納得が起きる。受刑者同士の対立と暴力事件も当然ながらでてくるし、ムンティンルパ刑務所の暴動の描写がなかなかリアルな迫力で、トト・ナティヴィダッド監督の力量をうかがわせる。電気椅子による死刑の風景や、それに対する抗議の表現など、ある種の社会性のようなものまで感じさせる。
　アクションもまずまずになり、脱獄を阻止のシーンでの馬ごと滝から落ちるスタントなど、馬が崖にゴツンとぶつかり、アメリカ映画にはないパワーが伝わる。
　もっともドラマとしては、主人公の更正の過程がおざなりなため、ちょっと中途半端な印象を残す。『終身犯』のバート・ランカスターは無理にしても、ジョコにもう少し前半に殺気だつムードを漂わせ、後半に穏やかさを醸しだすだけの演技力があればなあ、とないものねだりが生じる。これは監督の責任でもあるだろう。
　実在の主人公のブッチは釈放後にビジネスの世界で成功し、現在は聖職者だというが、それもうなずけるぞ、との構成でない点がややつらい。
　十分に楽しめる作品ではあるが…
　個人的には、まだ ダラ・ミナと名乗っていた頃のアラの出演がお目当て。ほんの二つのシーンに、合計で一分にも満たない出番ながら、ブレイク前のアラの存在だけでドキドキ。まあ、アラがいなければこの作品はみなかったわけで、ファンとはそういうもの。
　クリスティナ・ゴンサレス、イザベル・グラナダといったのちのセクシー・スターも出演するが、とくに見せ場はない。主人公の恋人役でもっとも多く時間をさくのはヴィーナ・モラレスだが、どうも彼女は好みじゃない。
　それにまったくクレジットには名前がないも、無名時代と思われるルーファ・メエ・キントがワン・シーンだけ顔をみせる。