ＢＲＩＤＡＬ　ＳＨＯＷＥＲ
　
03年：セイコ・フィルムズ
監督：ジェフリー・ヘトゥリアン
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 チェリー・パイ・ピカチェ
　　　 フランシン・プリエト
　　　 ロデル・ヴェラヨ
　　　 クリスチャン・ヴァスケス
　　　 アルフレッド・ヴァルガス
　　　 ドーグラス・ロビンソン
　　　フアンチョ・ヴァレンティノ
　三名の女性のロマンスをコメディー・タッチで描き、まずまず快調なできといえるだろう。
　ディーナ・ボネヴィー、チェリー・パイ・ピカチェ、フランシン・プリエトが仲よし三人組を演じ、広告代理店勤務。ピンキー・マルケス演じる上司にややキャリアふうの雰囲気があるも、仕事に関してはバカっぽいイメージなのは、広告代理店との職種によるもの。失礼ながら、実際にしょーもない連中が多いだけに、ついつい納得。
　まずは一番若いフランシンを中心に進行し、フアンチョ・ヴァレンティノ演じる高級車に乗るカネ持ちのボンボンと、ドーグラス・ロビンソン演じる貧乏画家の二股をかける。妊娠するもどちらが父親かはっきりせず、やっぱりというか、当然ながらカネ持ちのほうを選ぶ。
　フランシンがクレジット・カードを取得したので、ジーナ・アラハル演じる母親がスーパーで買いこみ、娘に「払って、払って」とせかすのが愉快。まあ、自分だって似たような経験をカノジョの家族で味わっているだけに苦笑い。ブーツ・アンソン・ロア演じるフアンチョの母親が典型的なお高いおばさんで、フランシン宅へくるや、食べものなどへ抵抗を示し、中流以下をさげすむのがいかにも。フラれたと知ったドーグラスが「自殺する」と大騒ぎし、まったくフィリピンっぽい男の情けなさ、などの興味深い要素を含む。
　全体をサブ的に占めるディーナの存在は恋愛経験が豊富だが、中年にいたるもひとり身で、結婚へのあこがれが強い女性とのキャラクターになる。クリスチャン・ヴァスケス演じる年下の恋人ができてみれば、既に一児の父で離婚経験者。しかもクリスティン・カルロス演じるガール・フレンドがいるようで、気が気じゃない。突然クリスチャンが消えるや、大騒ぎにすえに自殺未遂…　なんて滑稽なドタバタの中で、睡眠薬を大量に飲む際に床へ何粒も落とし、それを愛犬が食べたので昇天のあたりが、冷静に考えればかわいそうなはずなのに、けっこうおかしさがこみあげる。
　ボン・ヴィバル演じる教父が写真を持ってきて相手を紹介したがり、フィリピンにもお見合いの存在をうかがう。ポチョロ・モンテス演じる父が娘のカネをアテにするも、若い女の子を囲っていて、困った依存体質よ。クリスチャンの住所を捜しだせば、住んでいたのがムスリム一家。自殺未遂でチェリー・パイがディーナを病院へ運びこむと、診察より先に事務が「社会保険の番号は？」と問いかける、といったこちらも興味深い要素が満ちているといえる。
　中盤以降のメインをなすチェリー・パイは太った体型が障害で、まったくモテない女との設定。ロデル・ヴェラヨ演じる同僚のオカマのデザイナーにマッチョ・ダンスのライヴ・バーへ連れていってもらい、そこでアルフレッド・ヴァルガス演じる若いダンサーと出会う。密かに交際をはじめ、アルフレッドを保険の外交員に転職させ、フアンチョとフランシン夫婦に勧誘も、すぐにうまくいくはずがなくて失敗。アルフレッドにカネが必要になり、借金によって貸すも「しまった、詐欺」と気がつくあたりが、もっとも語り口のうまい部分。アルフレッドの態度があまりに誠実だったから、みているこちらまで、やられたな、との思いがこみあげてくる。それだけに警察と実家をつきとめるや、父の葬式中で、イルマ・アドラワン演じる母が「息子をなんで逮捕するの」と騒ぎ、チェリー・パイが「本気だったんだ」と悔やむ逆転が効果をあげる。
　このチェリー・パイのエピソードが全体の核をつくるようだ。
　自宅でインターネット中に男性のヌードをみつけ、オナニーしようとしたらフローラ・ガセル演じる家政婦が入ってきて、フローラが感づいているあたりニタニタを誘う。携帯のメールで連絡をとって見知らぬ男と外で待ち合わせ、フィリピンでも出会い系サイトの利用をにおわせる。食事療法の相談所へ行くと、ジョイ・バリオス演じる女医がもっと太っているのが、妙にインチキっぽい。ディーナが失恋の悩みを打ち明けるときにケーキを食べて「おいしい」ともらすシーンがあったのだが、チェリー・パイも恋が破れたときにケーキを注文に、ホント甘いもの好きの人たちよ。アルフレッドがヴィデオケで「チェリー・パイに捧げる」と歌うのが『乾杯』のタガログ語ヴァージョンだから、日本のポピュラー・ソングの浸透ぶりは相変わらず。フランシンとケンカを勃発で罵倒し合うとき、カネ持ちと結婚のフランシンを「守銭奴」とののしると、フランシンが「ブタ」と返して、やっぱり太った女性はこの形容なのね。チェリー・パイがカネを借りるのがインド人なのは、フィリピン経済の実態を暗示、などの興味深い要素はここにもあふれる。
　ツワリでフランシンから、悪酔いでディーナから、詐欺とわかったショックでチェリー・パイから、と三度ゲロをかけられるロデルなど脇の人物も生かされ、アルマンド・ラオの脚本監修によるクリス・マルティネスのシナリオがよく練ったと感心することしきり。ちなみにゲロは「プラダの靴に」という最初のがくだらなくてよい。
　ただし、ディーナが過去のセックス・フレンドにバッタリ三人もまずいシチュエーションで再会のギャグで、マイタ・ベルトラン演じる中性的な女性がいるのは、さすがに作為的すぎてイマイチ。フランシンが双子を出産し、双子のベビー・シッターを雇うのも、もう一つアイディアがほしいところ。
　また、個人的に怒り心頭なのは、意図的にフランシンの乳首を隠しまくったこと。映画の制作発表の記事を読んだ記憶では「ディーナとチェリー・パイがセクシー女優フランシンとの共演を承諾」とあったので、けっこう大胆な露出に期待が盛りあがったのだが…　胸の谷間で迫ってフランシンがクライアントを圧倒の冒頭のあと、フアンチョとのセックスではボディーにシーツを巻いて騎乗位でもだえるのが不自然すぎる。ドーグラスとのセックスも、ほぼ九割はオッパイ丸だしなのに、もうあとほんの少しで乳首をみせず、上体を起こす動きでは、さすがにポロッとはみでないのがヘンだから、ひょっとして肌色のニプレスかなあ、とも思えてくる。Ｒにしない狙いとはわかるも、なぜか男のハダカは満載で、チェリー・パイの前まできてパンツをおろすダンサーたちの二回あるステージや、プライヴェート・パーティーへ呼んでディーナへ迫るダンサー二人など、Ｔバックでチンポのあたりを覆っただけのほぼ全裸にゲーッ。フラれたドーグラスがハンモックにフランシンを押し倒してレイプっぽくセックスのシーンでも、フランシンのシャツがズレて片乳があらわになり、オッと視線を奪ったのに、アレレ、乳首はどこ？　手前に立つドーグラスは、みたくもないお尻をアップにさらすから、やめてくれー。
　とくりゃ、いくらなんでも意地悪というものよ。
　ディーナはおそらく脱がないだろうと予想をいだいたぶんだけ印象アップで、クリスチャンとのセックスが挑発不足なのは当然にしても、横でクリスチャンが熟睡のベッドでの赤いスリップや、自殺未遂での白いスリップなど、下着姿から熟女の色気を醸しだす。ウィンストン・エリサルデ演じる過去の男とエレベーターの中でセックスの回想で、待っていた乗客にみつかってしまう際のカッター・シャツから伸びる生脚や、クリスティンを目撃のときのピタパンもみごと。
　チェリー・パイは若い頃と違い、まさか肌をだすまいと完全に決めつけていたのだが、ダイエット研究所で黒い下着姿の披露にびっくり。よくよく目をこらせばこのブヨブヨの身体はチェリー・パイ本人じゃなく、エメルダ・オネサ演じるふきかえとわかるも、アルフレッドとベッド・インになるシーンでネグリジェの誘惑をくれる。ディーナやフランシンといった美人と違い、かわいい容貌のチェリー・パイは、もしもスタイルがバツグンだったなら、めちゃくちゃキュートで好みのタイプ。
　ああ、やせてくれれば恋人に立候補だなあ、と確認する。
　ほかにジョギングで出くわすチェリー・パイの旧友を演じるジャヌアリー・シマダのファニーな顔だちや、ドーグラスの新しいガール・フレンドを演じるクリスタル・コンセプション、ＣＭでフラメンコを踊るモデルや、ラストのパーティーで社交ダンスする赤い全身にピタピタのボディー・スーツの女性など、チョイ役女優にも気を配っている点がよろしい。
　ホント、フランシンの乳首をのぞけば、そう文句ばかりもでもない。
　ところで、最後にどうしても評価を与えておかないといけないのは、エピローグの素晴らしさ。ピンキーが社交ダンスに凝っている設定で、これも興味深い要素の一つだったが、ディーナとクリスチャンが復縁し、唯一ハッピー・エンドを逃したチェリー・パイが二年後にピンキー主催のダンス・パーティーに出席する。ここでインストラクターの一人から「お相手しましょうか」と声をかけられ、アルフレッドと再会。「一曲、おいくらで」で、いつかチェリー・パイに用立ててもらった金額である「五万ペソ」と答え、二人が情熱的なラテン・ダンスを繰り広げる。画面に金額カウンターが入るシャレた演出のもと、曲の長さに応じてタクシー・メーターの減額版のごとく五万、四万九千、四万八千と数字が落ちていき、ゼロになった時点でホットなキス。
　イヤー、なんとほのぼのムードがただようことか。
　安易な終わりかたと批判は簡単だが、あえてエピローグでジェフリー・ヘトゥリアン監督が意図したものはといえば、ありきたりながらも、ありきたりなゆえにうまく伝えることが難しい愛の賛歌であり、甘口赤ワインのごときあと味のよさは、まさに人間の根底に流れるやさしさに触れた心の動きに違いない。
　ブラヴォー！　拍手！
　ありきたりであることの大切さ表現の作品として、マジで「感動」という凡庸な単語を恥ずかしげもなく使う勇気を持ちたいと思う。