ＢＬＯＯＤ　ＲＩＮＧ
　
91年：デーヴィアン・インターナショナル
監督：アーヴィン・ジョンスン（テディー・ページ／テディー・チウ／テディー・ゴメス）
主演：デール・“アポロ”・クック
　　 　アンドレア・ラマック
　　 　ドン・ナカヤ・ニールセン
　　 　スティーヴ・タータリア
　 　　ジェームズ・ゲーンズ
　テディー・チウがアーヴィン・ジョンスンの名義で監督の作品で、ＩＭＤｂによれば香港映画になる。台詞は英語と広東語とあり、おそらく英語版と広東語版が存在するのだろう。英語版がアメリカ合衆国向けで広東語版が香港公開用と容易に想像がつくが、日本では英語版がアメリカ映画としてヴィデオ発売されている。実際はプロデューサーのひとりがアンディー・アンディコなうえ、撮影にアーノルド・アレヴァロ、音楽にウィリアム・ユシ（ウィリー・ユシ）のスタッフから、香港とフィリピンの合作に思える。
　デール・“アポロ”・クックとドン・ナカヤ・ニールセンというキック・ボクシングのチャンピオンが主演に、ふたりのことはよく知らないのだが、本格的な格闘技のアクションを期待できる。
　ストリート・ファイトが人気を集めるとの設定で、ファイターのマックス（デール・“アポロ”・クック）がディンゴ（ノーマン・ハワード）から八百長の試合をもらい、わざと負けて生活費を稼ぐ。友人のフィリップ（スティーヴ・タータリア）が八百長をうけたのに、試合で勝ったためにボスのドン・カルーリオ（ドン・ナカヤ・ニールセン）に殺される。フィリップの妻のスーザン（アンドレア・ラマック）がマックスに捜索を頼むも、スーザンはマックスのあこがれた女性で、ふられたショックからマックスが酒びたりになり、今もまだ失恋を引きずる関係。
　カルーリオの手下のスティーヴン（ジム・ゲーンズ）がスーザンをら致でフィリップの死を隠し、カルーリオがマックスをファイターに使う。スティーヴンがスーザンを襲ったため、火事場のバカ力的な機転でマックスが拘束をうける牢を破ってスーザンを助け、フィリップが亡くなったとわかり、山にこもって酒を断ち、復活のトレーニングに励む。
　マックスの八百長がバレバレのストリート・ファイトをはじめ、フィリップが八百長を破る試合、カルーリオに指示されたマックスの試合、特訓をへて偵察にあらわれたマックスが客の中に潜むのをみつかり、飛び入りの指名で登場の試合とリングの対決を盛りこむ。カルーリオから指示の試合でマックスの闘争心が燃えず、スーザンをリング・サイドへ連れてきてカルーリオが銃をつきつけ、それをみたマックスが奮起は、ちょっと恋人が会場にきたとたんに逆転の“若大将”シリーズを連想させ、ついつい笑ってしまう。
　撃たれて傷をおったスーザンにかわってマックスが情報を調べに忍びこんだ事務所で乱闘や、ディンゴに襲われ、今度はマックスがディンゴをしめあげとストーリーがらみの殴り合いを含み、酒を買った帰りの道でマックスが不良どもにからまれる、まったく流れと無関係のケンカもプラスでハデさをくわえる。
　カルーリオが自らフィリップを制裁のほか、ファイターの候補者を次々と打倒にカルーリオの強さを示す。
　ただしスーザンと逃げたマックスがオンボロのトラックを盗むとき、なぜかスティーヴンが違法な取り引き中との偶然がヘンだし、相手方のプロモーターがカルーリオに「ファイター・オブ・ザ・イヤーを決めよう」「有刺鉄線デス・マッチでどうだ」と提案にカルーリオがうなずくのに、それがでてこない構成が弱く、ロン・デーヴィーズの脚本が練り足りない。マックスが逃亡の際の銃撃戦がチンプで、スティーヴンを退治のあと、再びら致のスーザンをマックスが助けに向かう銃撃戦がバカバカしさの重ね塗りといえる。一対多数で戦うフィクションはしょせんＢ級のご都合主義。格闘技のおもしろさを狙った企画に飛び道具の武器をもちこむ無理がにじむ。
　テディー・チウはパンチやキックのバトルにくらべ、ガンのあつかいが極端にヘタ。
　もっともマックスがファイター・オブ・ザ・イヤーの決選に担がれるクライマックスと予想したのに、観客のいない空間のリングでマックスとカルーリオが有刺鉄線デス・マッチはシチュエーションの緊張感を伴わず、どうしてカルーリオがこれほど危険な対決をあえて自分にしいるのかに説得力が乏しく、サディストかとあきれるも、一応はハラハラの迫力に満ちる。ロープで縛られたスーザンがマックスのピンチにターザンもどきのぶらさがりで勢いをつけて蹴りを入れ、宙吊りになるあたりも十分におもしろい。
　とにかく殴る蹴るにさほどウソの少ない点のアクション描写を買う。
　ヒロイン役のアンドレア・ラマックは白人で個人的に好みをはずれ、ときめきがイマイチだが、とりあえずはスティーヴンの強姦もどきにブラのバストをみせる。山でマックスとセックスは脱ぐも、オッパイが焚き火の炎などで隠れる。ドラム缶に顔をつける拷問で、もっと衣服を乱す危うさがほしかったところ。
　マックスへ八百長を試合中に合図や、スーザンのら致を実行するディンゴとスティーヴンの手下のひとり役にウィリアム・ロメロ、マックスのストリート・ファイトの相手役にルーイー・カタナとフィリピンの俳優陣が顔をだし、フィリップやマックスの対戦相手は覆面で誰かわからないが、体型から判断に、クリス・アギラーだろう。
　ロケはすべてフィリピンで、安ホテルの部屋におけるエアコンのつけかたや、ガードマンが座るプラスティックの椅子の形がフィリピンを思わせ、不良どもがマックスにからむ裏路地にバスケット・ボールのゴールがおかれて、いかにもフィリピン。ディンゴのオフィスがあると設定のビルはマカティのどこかだし、カルーリオの本拠の背景にはタガイタイの風景が広がる。マックスがトレーニングに励む滝の落ちる池は、多くのフィリピン映画に登場の定番の場所。
　マックスがスーザンに「アイル・ビー・バック」といい、このハリウッド映画のわざとらしいマネがまた、フィリピンふうと指摘できる。

※　この作品は『バーニングファイター』の題名でヴィデオ発売されたことがある。