ＢＥＮＴＥ
（２０）
　
09年：ＡＰＴエンターテインメント／ディレクターズ・ギルド・オブ・ザ・フィリピン
監督：メル・チョングロ
主演：リチャード・ゴメス
　　　 ジンゴイ・エストラダ
　　 　スヌーキー・セルナ
　　　 イサ・カルサド
　　　 エミリオ・ガルシア
　　　 ライアン・アイゲンマン
　　　 グライサ・デ・カストロ
　　　 アルフレッド・ガッチャリアン
　フィリピンで反体制のメディア関係者が謎の死をとげた過去の例をあげながら、そのひとつのケースをフィクションで描こうとの作品。リカルド・リーの脚本がこれに学生運動家と、プライヴェートな浮気劇をからめ、同時進行で三つのシチュエーションを語る。
　ラグーナの架空の町が舞台で、ラジオのパーソナリティーのアーニー（ジンゴイ・エストラダ）は過激に市制を非難し、市長（エミリオ・ガルシア）の怒りをあおっている。近づく選挙への悪影響を苦慮の市長は、ふたりの部下にアーニーの殺害を命じる。この部下のうち、ラモン（リチャード・ゴメス）はアーニーを尾行中に妻のディーナ（イサ・カルサド）の不審な外出に気がつく。一方で学生運動家のメルヴィン（アルフレッド・ガッチャリアン）は、同じく運動家で恋人のリース（グライサ・デ・カストロ）が妊娠。喜びの反面、当局に狙われるのをリースが心配も、メルヴィンがマニラのデモに参加を決める。軍の士官（ジョマル・ロケサ）が二名の殺し屋（ジョン・ラピッド、ジョーイ・タハンランギット）をメルヴィンに差し向ける。
　アーニーと市長を同窓生に設定で、市長の息子（マチュー・ブラザ）が大きな屋敷のモニターでプロレス・ゲームにきょうじ、小さな家でアーニーの息子（マイケル・ペケット）と娘（ニコル・マンガ）が暮らすのと対比をつくる。市長室へ妻（サラー・パドゥア）がきても言葉がない寒々さなら、アーニーは妻のジェニー（スヌーキー・セルナ）と強い絆で結ばれ、教師のジェニーの職場へ市長があらわれる複雑な過去をやや暗示。ラモンたちのラジオ局の襲撃を事前に察知のアーニーがマニラへ向かい、ジェニーがＴＶのレポーター（エルスベット・ロペス）の取材をうけて夫を支持も、市長側の富裕層の女性（ヘレン・アノン）が的外れのヒステリックな抗議で騒ぐ。リースは母（マデリーン・ニコラス）がカナダの留学を考え、メルヴィンとの交際に反対。ラモンの家庭は子どもがなく、やはりほとんど黙ったままの冷たい雰囲気。なんて構図において、盗聴の技師にラモンが頼み、ディーナが不倫相手のエルウィン（ジョエム・バスコム）とかわす会話をキャッチがおもしろい。アーニーの携帯の電波をとらえてマニラへいったと盗聴技師がラモンに伝えて相棒（ライアン・アイゲンマン）とラモンがマニラへ追うも、今度はディーナの密会をつかんだ技師がラモンに連絡で、相棒ともめてラモンだけが引き返す。同じとき、リースも家をでてメルヴィンたちとマニラで落ち合う。
　身の危険を感じたアーニーが銃を購入し、ラモンが銃を磨き、相棒も銃を磨き、アーニーも磨くショットの挿入が、アメリカ合衆国なみに銃社会のバカさを描くのかと思えば、さほどそんな意図はないようだ。
　アーニーがマニラのショッピング・モールへ入り、市長の部下の相棒もアーニーを探して入り、メルヴィンと会うためにリースが入り、メルヴィンを狙う二人の殺し屋も入りと、なぜかショッピング・モールが一緒の偶然がサスペンスを盛りあげる。この手の展開は、まあまあありだろう。メルヴィンが殺し屋から逃げ、アーニーが市長の部下から隠れる。二つのチェイスとともに、ラモンがディーナの浮気現場へ踏みこむようすがダブる。ディーナとエルウィンのふたりを撃ってラモンが自殺。地下の空きスペースでアーニーがメルヴィンを助け、市長の部下と銃撃戦で倒れ、ちょうど居合わせた殺し屋に市長の部下が発砲で、逆に射殺される。アーニーと市長の部下のふたつの死体に殺し屋のふたりが「こいつら誰だ」という皮肉をきかせる。
　もっとも、アーニーがショッピング・モールで子どものためにオモチャを買い、そのレジ袋をもつことでアーニーの所在を視覚的に示し、メルヴィンにおもちゃをあずけるなどの細かいアイディアを含むも、銃撃戦が買いもの客のうろつく売り場のフロアーでない点がスケールをせばめる。ラモンが死体のディーナにキスのあたり、たとえば自殺の前に死姦くらいの狂気をおけば、もっと衝撃度が増したかもしれない。
　メル・チョングロの演出はメルヴィンたちがスローガンを書くプラカードや旗を作成のもようを自然に紹介と、さり気ない配慮を加え、追跡の迫力がまずまずながら、冒頭のラジオ局員の暗殺がパッと引きつけず、ニュース映像の挿入がリアリティーのプラスにつながらない計算違いが印象をさげる。構えのわりにはＢ級のにおいが漂う。市長がアーニーの殺害を指示にラモンの相棒がよっしゃと喜ぶ単純さが、さらに人間のキャラクターづけに説得性を欠く。
　女優ではスヌーキー・セルナの知的な演技に納得も、期待はイサ・カルサドだけに、バツグンのプロポーションをシャツとパンツのファッションでうかがわせてドキドキだが、ラモンと無言の機械的なセックスで乳首がみえず、密会現場もワンピースで、服を脱いでなくて残念。グライサ・デ・カストロはベッドで短パンやタンク・トップのかっこうどまり。ただし下半身にフィットのジーンズがそそる。あとエルスベット・ロペスが普通に美人の範囲なら、ラモンがやけ酒のバーで相棒がイチャつくＧ．Ｒ．Ｏ．役のケイ・アリピオがそこそこにかわいかった。