（まだ子どもの性のプロ）
99年：グッド・ハーヴェスト・プロダクション
監督：リト・カサヘ
主演：アイラ・マリー
ジェラルド・マドリッド
マルクス・マドリガル
アニータ・リンダ
アナ・カプリ
トミー・アブエル
ジョン・アパシーブレ
ジョン・アルシーリア
フリオ・ディアス
ロバート・ハミルトン
ナネット・インヴェントル
リチャード・クアン
メリッサ・メンデス
エリザベット・オロペッザ
レオ・ラバゴ
ロイ・ロドリゴ
火事のイメージの間に、覚醒剤でセックスを強要される全裸のアイラ・マリーのショットが入る。売り物のタバコを入れた木箱を持つジェラルド・マドリガルとマルクス・マドリガルのストリート・ボーイがいる。ずっしり重そうなドラマの始まりを予感させる、秀逸な出だしである。火事の炎が思いださせるかのように回想が始まる。セックスが原因でジョン・アルシーリア演じる父とナネット・インヴェントル演じる母にバコロドの家を追いだされ、レオ・ラバゴ演じる船員に身体を提供などしてマニラへでてきたアイラ扮する娘。フリオ・ディアス演じる飲んだくれの親父によってロバート・ハミルトン演じるドイツ人の変態に売られたジェラルド扮する少年。それにエリザベット・オロペッザ演じる母から自立できず、劣等感から落ちこぼれていくマルクス扮する少年。映画は二人の少年と一人の少女の奇妙な結びつきを通し、フィリピン社会がかえる問題点をえぐりだしていく。
とにかくトミー・アブエル演じる怪しげな堕胎医とカティー・アルグエレス演じるその助手、リチャード・クアン演じるゲイの神父、ダニー・マギサ演じるゲイの教師といった普通ではない人物が次々と登場して、ちょっと現実離れしていないかと思わせるも、リト・カサヘ監督の雰囲気描写にすぐれたリアリズム・タッチの演出によって、ずるずるドラマへと引きこまれる。
マニラ動物園にいた象とアイラや、変態ドイツ人宅にいた犬とマルクスなど動物との交流に面白いところがあるが、人間はかくも残酷だというのが強烈な印象となって迫ってくる。とくに母が亡くなってからマルクスがシンナーにおぼれ、さらにはジェラルドもシンナーに走っていく展開にほとんど救いがない。アイラはロイ・ロドリゴ演じる銀行員から費用を捻出させてマルヴィ・リウ演じる友人とともにじゃぱゆきになるのだが、日本でヤクザに刺青を彫られて帰ってくる。やがてドイツ人の子を妊娠したすえに相手を殺し、自らはパッシグ川に水死体となって浮かぶのだから、もうみていてやるせない。
最後は自分たちで放火した建物の中にジェラルドが入っていき、これほど見終って落ちこむ作品もそうはないといえよう。ラストの路上で寝る少年たちのカットの挿入に、フィリピンの現実をつきつけたといわれれば「ハイ、そうですか」としか答えようがないし、なら一体どうやって状況を改善すればよいのかという回答の難しい問いに呆然となる。
問題提起としてはすごいが、どっと力を奪い取られる作品だ。
人間描写にも興味深い点をけっこう含む。ゲイの変態のもとから逃げてきたジェラルドにアイラがセックスしてあげるシーンでは、その前にマルクスも入れて、三人で下着になって立ったまま抱き合うイメージが鮮烈である。マルクスがアニータ・リンダ演じる祖母に薬を飲ませるあたりにはやさしさというよりは、現実の厳しさがヒシヒシと伝わってくるが、その祖母が寝る横でシンナーを吸ってジェラルドとアイラがセックスの描写は狂気の前兆のようなものをにおわせる。
外国人の描写も実に意味深で、ドイツ人のゲイの変態ぶりがものすごい。オカマを堀るだけでなく、その暴力の振るいかたも常軌を逸した内容になっている。日本人がヤクザなのは、いかにもイメージの強さを裏打ちするかのようだが、東京の風景が画質から判断でどこかから借りてきたものなのはいいにしても、ドイツ人をちゃんと白人が演じているのに、登場する日本人がどれもフィリピン人なのは困ったもの。現地に端役くらい演じてくれる日本人はいないのか。ラス・パルマス・ホテルでアラブ人二名とアイラが３Ｐのシーンは、ジェラルドとマルクスの料金交渉のところが本当っぽく、これもイメージによっているのだろうとの想像が成りたつ。
とにかく内容に圧倒をうけたながら、個人的に本来の目的はアイラのヌードがみたかったからなのは確かで、何度かあるセックスの中では、まずロイとの下着をきたままのベッドでのやりとりが色っぽい。さらにジェラルドと結ばれるシーンは最高で、女性上位になったアイラの乳房は興奮からか乳首がツンと立っていて、スルスルとジェラルドの胸板をその乳首でこする。みているこちらまで気持ちよさそうという感触が伝わってくる。
“ミス・ユニヴァース”と“ブラック・スタリオン”の看板が写されたあと、ジェラルドとアナ・カプリ演じる売春婦とのカラミも絶品。アナはパンティーだけはいたまま風呂へ入り、濡れてピッタリとお尻に貼りついたパンティーが超セクシー。乳首はチラチラするものの、みえそうでみえないぞと視線を奪ってくれる。そしてまたお湯から下半身を浮かせるとパンティーはめくれていて、お尻が丸だしになっている。アナはゲスト出演だが、十分に期待に応えている。
スケベな目的もしっかり満足の作品だが、正直いうと内容の暗さには耐えきれない。これを社会問題に迫った傑作といおうか、ショッキングな印象を残すためにゆがんだ人間ばかりだしすぎているし、いささか類型的だと否定しようか、迷うところだ。
