ＢＡＫＩＴ　ＫＡＹ　ＴＡＧＡＬ　ＮＧ　ＳＡＮＤＡＬＩ？
（何と短い時間だというのになぜ？）
　
90年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：チト・Ｓ・ローニョ
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 チャリト・ソリス
　　　 ジャニス・デ・ベレン
　　　 フリオ・ディアス
　　　 エディー・ガルシア
　愛欲と憎悪を描く人間ドラマで、いかにもフィクションといったストーリーながら、チト・Ｓ・ローニョの語り口でみせる。またディーナ・ボネヴィーとジャニス・デ・ベレンの顔合わせが魅力をつくる。
　フリオ・ディアス演じるビジネスマンが前半の中心になり、大企業に勤めて出世の野望を抱いている。その能力を買われ、エディー・ガルシア演じる社長の片腕として屋敷に住みこんで信頼を得る。週末には田舎へ戻ってディーナ演じる恋人に会うのだが、ラヴラヴのディーナに対して今ひとつ煮えきらない。たまたまエディーの豪邸でのパーティーへディーナをエスコートしてきたら、エディーがその美しさに引かれる。エディーの求めに応じてディーナを説得のうえ紹介し、プロポーズをうけたと知って喜ぶ。人身御供のようにエディーと結婚で初夜のあとディーナが涙を流す。こっそり屋敷でフリオに迫るも、出世優先のフリオは逃げ腰。アメリカにいたジャニス演じる娘が帰ってきて後半に入る。うまくジャニスに接しようとするディーナだが、ジャニスのほうは継母になるディーナをいきなり財産目当てと嫌う。ディーナもジャニスに反発を覚え、ジャニスがフリオにアプローチしたので、心配そうにながめる。ディーナが出産で男の子ができると、ジャニスはフリオと結婚。実質、会社の経営を握ったフリオがセブやダヴァオで事業拡張に成功するも、ジャニスが不妊の宣告をうける。ついにディーナの追いだしにかかったジャニスに対して「私は妻だ」とディーナが訴えるや、ジャニスが「正式には籍が入っていない」と返し、エディーが申し訳なさそうに認めたため、ディーナが指輪を捨ててでていく。エヴァ・ラモスとエルサ・デ・ヴェネシア演じる知人を頼って田舎の闘鶏場で食堂をだしたところへ、エディーが子どもに会わせてほしいとやってくる。ディーナが拒み、ずっと心臓の悪かったエディーが帰りの車の中で死亡。エディーの遺言のヴィデオで遺産が赤ん坊の息子に譲られるとわかってジャニスがあわてる。フリオが赤ん坊を誘拐同然にディーナのもとから連れ去る。
　とにかくオルランド・ナドレスの脚本が安手ロマンス小説なみで、人物のキャラクターづけがあまりに極端。その閉鎖的な振るまいにあきれるばかり。エディーが何度も心臓を押さえて倒れ、ニトロの錠剤を飲んでいるのはよいながら、ジャニスが突然に難病で苦しむ流れはちょっと無理がある。でもジャニスとディーナのののしり合いにけっこう迫力がみなぎるし、ジャニスの股から血がしたたり、髪の毛が抜けていく病状がゾッとさせる。今村昌平が『黒い雨』で田中裕子の演じるヒロインの髪の毛が抜ける瞬間をとらえた恐怖には足元におよばないが…　赤ん坊を返せとつめよったディーナの前に、すっかり顔が崩れたジャニスが現われ、死に際してジャニスが改心しているのは納得かな。結局、ジャニスの遺言ヴィデオによってディーナと赤ん坊が会社を継ぎ、ディーナがフリオをはねのけたので、フリオの野望が頓挫するオチ。赤ん坊が誰の子かにほんのりと疑問を残すあたりは、まあまあうまいかもしれない。
　チャリト・ソリス演じるディーナの祖母がカネをやたらほしがるのが、まさにフィリピン人そのものに思える。フリオが財布から生活費をわたすや、もっとお願いと自分で札をとりだす。ディーナの妊娠を聞いて礼金をいくらくれるだろうかと勘ぐり、ディーナが屋敷をでていくのにフリオが五万ペソだし、ディーナの「そんなカネ、突っ返して」に「絶対、イヤ」という。対照的にディーナは金銭よりも愛情優先の女性になっていて、赤ん坊を奪うわびにフリオが大金をおいていくと、嵐の中で札束をばら撒き捨ててエヴァとエルサをあわてさせる。アイアイ・デラス・アラス演じるエディーの姪がフリオを狙っていたのだが、なかなかのらないのに、ジャニスが出現でアイアイをあからさまにしかとは、女を成功の足がかりにする狡猾さにおいても、やっぱりブスより美人のほうがいいに決まっている男の心理といえる。赤ん坊をみてジャニスがかわいいと微笑むのは母性本能のようで、抱いているディーナへ視線を移すや、とたんに険悪な表情をつくる二面性がカネもちのごう慢さ。それなりに人物描写のおかしさが全体に起伏をつけたと感じる。
　エディーが田舎道で危篤に陥り、同乗のチャリトが病院へ急ごうとするのに牛の群れがジャマで先へ進めず、シッシッと追いたてる光景は、笑うシーンじゃないのに、どこかユーモラス。
　まあ、ひとつ間違えばシラける構成の劇を細部の表現で興味深く進めるながら、なんといっても満足を呼ぶのはディーナとジャニスのセクシーさに尽きる。ディーナはシャツと短パンでフリオに馬乗りになってシャツをまくるが、ブラをださずじまい。ビーチで水からザバッとあがるも、Ｔシャツの下はブラで貼りついても乳首がスケず、しゃがむポーズをせっかくうしろからとらえてお尻を突きだすのに、短パンがのぞくのみ。ブラがシー・スルー状のシャツを着ている衣装がそそるとはいえ、エディーとの初夜でハダカにされて胸を手で隠し、翌朝にベッドを抜けだして海岸で泣くとき、エディーのお尻がみえているが、ディーナはシーツをボディーにあて、ネグリジェでしゃがんでも中身がうかがえない。フリオに台所でセックスをせかすワンワン・ポーズも露出イマイチ。でもジャニスとプールでケンカになるシーンで青いワンピース水着を披露し、濡れたうしろ姿にヒップラインが浮かぶのがキュート。美貌のディーナ、素晴らしいじゃないか。ジャニスはいきなりジャケットをはだけてブラのでたジーンズのファッションで登場すると、ディーナとのプールは黒いワンピースにパレオを巻いているのが惜しいが、フリオの部屋へ忍んできてのセックスでオッパイをきわどくもだえたうえ、二度目のプールでオレンジのワンピース水着からプロポーションを明らかにフリオとたわむれる。
　いやはや女優が輝けば、映画の価値があがるなあと再確認した次第。
　なおエマヌエル・Ｈ・ボルラサが追加台詞を担当している。

※　この作品は『失われた結婚』の題名で“フィリピン映画祭1991”にて上映された。