ＢＡＧＡＮＳＹＡ
（浮浪者）
　
00/01年：リーガル・エンターテインメント
監督：ポン・メルカド
主演：ジェリク・ラヴァル
　　　 シャルラ・トレンティノ
　　　 ダン・フェルナンデス
　　 　パトリック・デラ・ロサ
　　　 ディンド・アロヨ
　　　 レーモンド・キアヌー
　　　 アレックス・デーヴィッド
　権力の横暴にはむかう内容だから、けっこう心情がよく伝わってきて、Ｂ級アクションの佳作と評価したい。
　警官隊が工場労働者のストライキを弾圧するのが冒頭。ジェリク・ラヴァル演じる労働者の一人には、シャルラ・トレンティノ演じる妻がいて、夜中に幼い息子の容態が急変して困っている。ジェリクがベルト・カヤナン演じる組合長からカネを借りて薬を買うのだが、帰りにパトリック・デラ・ロサ演じる警察とでくわす。いいがかりのうえ、薬のビンを割られてカッときたジェリクが殴りかかり、パトリックがピストルをつきつけるも、銃口をそらせたときにアレックス・デーヴィッド演じるパトリックの部下の脚を撃つ。ジェリクは素早く逃げて、そのまま今度はシャルラと病院へ向かうとき、運悪くもパトリックらに遭遇。リンチのすえに逮捕される。シャルラはなんとか病院へ着いたものの、おカネがないから治療を断られて子どもが亡くなってしまう。
　ジェリクに対してみるみる同情が盛りあがり、グイグイとドラマへ引きこんでいく展開が実にうまい。
　パトリックの周囲には、悪の権化のようなディンド・アロヨ演じる警察署長がいて、ダン・フェルナンデス演じる正義の警官が彼らの実態を調査しているとの構図は、いささか類型的。スーザン・ゲニル演じる女性弁護士が、シャルラからの相談にカネのないことを承知で引き受けるあたりも、現実性に乏しいが、単純な悪役設定の反面、こういう不正を憎む人物を登場させることで、たくみに映画はドラマ性をプラスする。事故とはいえ、ジェリクがアレックスを撃ったことをシャルラが気にしていて病院を訪ねるも、クリスティー・ポルトゥガル演じるアレックスの妻に追い返されるあたりから、さらにシャルラへの共感を誘う。それだけにパトリックが親切を装ってシャルラをダマし、ディンドに会わせると、レイプのあげく重傷を負わせる行為に怒りが頂点へ。
　よく観客の心理を適切な呼吸でとらえた、ポン・メルカド監督の語り口が鮮やか。
　もっともジェリクの復讐がストーリーの骨格だから、脱獄しないことには先へ進まない。レーモンド・キアヌー演じるパトリックの部下がジェリクを密かに始末しようとする過程で、強引に車のハンドルをとって横転させ、ズルズルと車体が動く中で対決のアクションは、そこそこにアイディアを感じとる。
　ジェリクが手錠をはずすシーンがないのは、省略のしすぎかな。
　ギリギリでダンに助けられて命をとどめたシャルラの入院先を悪の警察が襲撃するシーンあたりから、欠点が目立ってくる。まず護衛警官や看護婦が射殺されているのを軽く描いてすませる生命への軽視は、いかがなものか。
　非情となったジェリクがアレックスを難なく始末したり、パトリックを殺し、ディンドをクレーンで吊りあげるところなど、ありきたりな内容だなあ、とつまらなさが先行状態。ダンがかけつけて善悪入り乱れての銃撃戦で、敵から奪った機関銃を使って一人だけやっつけると、ジェリクがポイと投げ捨てる気どりにいたっては、あまりにもカッコつけすぎじゃないか。ダンがディンドに撃たれたにもかかわらず、ラストでおよそ傷を負った体とは思えないくらい元気なのもヘン。
　ツメが甘かった、と指摘せざるをない。
　でもジェリクが安易に許されず、ダンからお縄をちょうだいしているから、フィリピン映画にしては厳しさを失わなかった姿勢を買う。
　とりあえずは納得のいく作品だ。
　なお、シャルラは太めのプロポーションでとてもセクシーとはいえないものの、妙なフェロモンを放っている女優で、じゃっかん際どいシーンのあるのが嬉しい。ディンドに犯されるとき、ベッドに倒されて胸の谷間が視線を奪う。ジェリクの回想に登場するときのジーンズも、むっちりした下半身が刺激的なこと。
　もっと脱いでほしかったなあ、と鼻の下が伸びっぱなしだった。