ＡＳＴＩＧ
（人でなし）
　
09年：シネマラヤ／ボーイ・アブンダ＝ボーイ・ソー・プロダクション
監督：ジュゼッペ・ベデ・サンペドロ
主演：デニス・トリーリオ
　　　 シド・ルセロ
　　　 アーノルド・レイエス
　　　 エドガー・アラン・グスマン
　　　 グライサ・デ・カストロ
　タレントのボーイ・アブンダが制作のディジタル作。低予算でウィットのある内容により、メトロ・マニラ映画祭あたりの賞を狙ったと思われる。
　四人の若者をめぐるオムニバスで、微妙に四つのエピソードが重なる。ノエル・Ｄ・フェレル、監督のＧＢ・サンペドロ、ジェリー・グラシオのストーリーにもとづくジェリー・グラシオの脚本が練ったフィクションをなす。
　パシグ川の北のキアポ教会周辺やチャイナタウン付近にドロテオ・ホセやレクトを舞台にとる。ちょくちょく訪れる場所だけに興味がわく。
　男娼で結婚詐欺師のアリエル（デニス・トリーリオ）をあつかうのが最初のエピソード。偽名を使ってウルトラ・デブの熟女（ロトロト・ブスタマンテ）やデブの黒人の熟女（ウィットニー・タイソン）、色っぽい中年女（アンジェリ・バヤニ）などをダマし、中に若いかわいこちゃん（ロレイン・ロペス）までいる。友人（ジョング・ヒラリオ）と代書屋を営み、身分証明書の作成をうけるも、偽造がバレたと怒る船員の客（パオロ・リヴェロ）に謝るどころか、反対にボコボコに殴る。インターネット・カフェで女子大生のエルジン（グライサ・デ・カストロ）と知り合い、次のターゲットに定める。エルジンの処女を奪うや、初めて罪悪感をおぼえる。妹が犯されたと気がついたエルジンの兄のバステ（シド・ルセロ）がアリエルを半殺しにくる。ふたりが警察署へしょっぴかれ、取り調べで集まった犠牲者の女性たちがいっせいに苦情をのべる。
　アリエルの騒ぎをよそに警察署をでるボーイ（エドガー・アラン・グスマン）と母（チャンダ・ロメロ）が第二のエピソードの主人公。路上で雑貨を売るボーイは妻のメメン（アンジェリー・ウルキコ）が妊娠中のために小銭を貯める。知人のケネス（アンドルー・ミゲル）に映画館で上映中にフェラチオの仕事を紹介されるも、さすがに拒む。でも違法品の販売で母が警察につかまり、保釈に貯金をはたく。妻の出産でカネの必要に迫られ、いやいやフェラチオをおこなう。
　サンボアンガから上京のロナルド（アーノルド・レイエス）が第三のエピソードの主人公。幼少時代のロナルドのことを知る老女（ルスティカ・カルピオ）が、かつての雇い主で、ロナルドの異母兄にあたるウィリアム（エリミオ・ガルシア）を鬼という。実際にロナルドが会えば、冷酷な追いはらいをうける。最近、亡くなった父が家を残し、それを売却したいも、あまりのボロ屋で買い手がつかない。同性愛者の男（ガルド・ヴェルソサ）に現金で取り引きを約束にお尻の穴を掘られ、大金をえるながら、路上売春婦（ケアンナ・リーヴス）の誘いにのり、これがセット・アップだったため、ピストルをもつ男の踏みこみですべてを盗まれる。呆然とパンツ一丁で町を歩くのを同性愛の男やバステがながめる。どうもセット・アップは同性愛者の指図らしいのがわかる。
　しめの第四はバステのエピソード。ロナルドをはめた売春婦が同じエリアに住み、売春婦はエルジンの友人。学生のかたわらルイス（パオロ・パライソ）がオーナーのペット・ショップで働き、エルジンのほかにもコリーン（リタ・イリンガン）と年少のふたり（アイヴィー・グヤブ、ミアー・イサベル）の合計四名の妹がいる。父が不在で、なにやら犯罪に加担したようす。学校では試験の成績が悪く、あいた時間に勉強にはげむも、母（マルー・クリソロゴ）の苦労に再度の休学を考える。優秀な姉が妊娠で人生を狂わせ、家族の希望が重荷に変わったため、コリーンの交際にうるさい。家計の不足に母が泣き、血を売ってカネをつくる。第一話でエルジンがアリエルにあげたのはなけなしの学費だったとわかる。妊娠が発覚のエルジンが闇の堕胎医にもかかれずに自殺。
　ハダカで外を歩いたとロナルドが逮捕されたのをＴＶが伝えるエピローグがつき、ロナルドを知る老女が取材に応じ、番組をボーイやウィリアムがみる。エルジンの葬式を遠くからアリエルがながめる。
　根本に流れるテーマは貧困に違いなく、エルジンが自殺のときにバステの家は水道代優先で電気代をはらわなかったため、妹たちがロウソクをともしているなどの生活ぶりを盛りこむ。アロヨ大統領への陰口も聞こえる。「身分証明書なしでカネを貸すのはインド人だけだ」とゲスト出演のアイアイ・デラス・アラス演じるマーケットのおばさんがいうのに、フィリピンの裏の構図がうかがえる。ボーイにカネは貸せないも、シチュエーションに同情でおばさんが心づけをくれるあたりにフィリピンのパキキサマがにじむ。ケネスもバステに学費をわたす。一方でウィリアムが冷淡なのは半分が中国系のせいで、同じく中国の血をひくロナルドがアイデンティティーをもとめ、母（声の出演：ベット・エダヴェ）と電話のやりとりで父の実像を察し、家の売却中の看板とともに父の写真を捨てる行動が象徴をなす。多言語がフィリピンの障害のひとつだとも示し、アリエルに代書を依頼の船員がセブ出身に連想をそそる。証明書偽造の横行はゲスト出演のキム・アテンサが演じる客とバステの会話に犬の血統書もとわかる。
　バステやエルビンがキアポ教会で祈ったり、バステの母やバステが家のキリスト像に祈ったり、ロナルドがバッグからキリスト像をだし、それに父の写真を並べるあたりはフィリピンの宗教に寄りかかる姿勢のあらわれ。
　アリエルがタバコをポイ捨てや、売春婦がミニスカでタバコをプカプカは、人間の下等さを視覚化にタバコがいかに有効かを教える。
　まあ、偶然にアリエルの仲間とボーイの仲間が同じ安いバーのとなりのテーブルで飲んでいるなどに、他人の誰もがドラマをもつとにおわせ、たくみに細部にこだわった構成。キアポ教会前の地下通路の階段でバステがアリエルを殴りつけるシーンや、夜道をロナルドがパンツ一丁で歩くシーンに撮影をながめる周囲の住民がそのまま入りこみ、低予算ゆえの強引さだろうが、かえって臨場感をうむ。ジュゼッペ・ベデ・サンペドロの演出がリアルな印象を与える。薄い色調で喧騒の雰囲気をディジタル映像におさめたオデッセー・フロレスの撮影が評価できる。
　ただし貧困を題材にすえたほうが賞をとりやすいし、海外からの賛辞をえられるとの意図が、ほかの多くの低予算によるフィリピンのディジタル作にここでも共通する。一般の商業的なフィリピン映画のほとんどが観客に夢の提供を目的におくせいか、あまり貧困をあつかわず、安易な内容も手伝って、まず海外にでないため、独立系の意欲作のみがフィリピン映画のごとくうけとめられ、そこに貧困ばかりが描かれるので、フィリピンのイメージが貧困限定で広まる傾向にかたむく皮肉な現象に思える。
　俳優陣は全員がうまく、この達者なキャストがアルマンド・レイエスの二班監督の助けもあって、ジュゼッペ・ベデ・サンペドロに短期間のロケを可能ならしめたのだろう。とくに狡猾なオカマを目つきで表現のガルド・ヴェルソザがさすがの厚みだが、映画館のホモを含め、やや同性愛者の人間性が極端かもしれない。
　ボーイ・アブンダの交友関係からか、アイアイ・デラス・アラスとキム・アテンサのほかにもゲストの登場が楽しみをつくり、ロナルドの家の査定にくる買い手にボーイ・アブンダ本人とヴォン・ナヴァロ、映画館のチケット売り場のオカマにプーが顔をだす。サプライズ的に嬉しいのはメメンの出産に立ち合う看護婦にマリエル・ロドリゲス、血の密売でバステにこっそりカネを握らせる看護婦にシッティ、ＴＶのレポーターにビアンカ・ゴンザレスの美人のカメオにつきて、マリエルとビアンカなど、本当に魅力的。
　個人的に肝心なポイントの女優陣のセクシーさでは、グライサ・デ・カストロが以前よりも垢抜け、かえって役がらに浮いた存在っぽいも、アリエルに恋心が芽ぶくキャラクターに説得力をくわえる。キュートな容貌にドキドキながら、アリエルとのセックスは下着を脱いでもオッパイが隠れる。
　アンジェリー・ウルキコは庶民的なかわいさで、リタ・イリンガンは将来が有望な感じ。
　ケアンナ・リーヴスがトップレスの露出で興奮を呼ぶ。ロナルドと安ホテルでセット・アップの男の襲来を待ちつつ、ワザとあえぎ声をあげる愛撫でブラをはずし、揺れる乳房をもまれまくる。立位と寝転んでプルプルのオッパイに乳首があらわ。ライト・グリーンのパンティーがお尻にくいこむも、刺青とヘソ・ピーにげんなり。
　ホモ・セックスで気持ち悪いとロナルドがチンポを洗うとき、エドガー・アラン・グスマンのお尻が丸だしの全裸は女性とホモ・ファン向けか。
　アリエルがダマす女たちはロトロト・ブスタマンテのブヨブヨにたれたオッパイのみえる腹のたるんだヌードがホラー・レヴェルだが、アンジェリ・バヤニの黒いブラとパンティーのボディーは、もっと大胆さがほしいと思わせる。とにかくロレイン・ロペスのオッパイも陰毛もモロの素っ裸が素晴らしく、開巻すぐに全裸のショットで、しかも短すぎるため、二度目があるかと期待が高まる。いや、真剣になくて残念。
　それにしてもグライサ、抱きたくなるなあ。

※　この作品は『見捨てられた青春』の題名で“大阪アジアン映画祭2010”にて上映された。