ＡＮＧＨＥＬ　ＳＡ　ＬＵＰＡ
（地上にいる天使）
　
02(03)年：リーガル・エンターテインメント
監督：ホセ・ハヴィエール・レイエス
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 コギー・ドミンゴ
　　　 リッキー・ダヴァオ
　　　 マキシン・マガロナ
　　　 ジロ・マニオ
　　　 アルウィン・ウイティンコ
　　　 パオロ・バリエステロス
　　　 ルシアノ・Ｂ・カルロス
　　　 ラモン・レクト
　死んだ人間が天国へのぼらずに地上をうろつくストーリーは『天国から来たチャンピオン』（すでに『天国は待ってくれる』のリメーク）など、けっこうファンタジーの題材に使われている。ホセ・ハヴィエール・レイエスによるこのフィリピン映画は、そうしたアメリカ映画のいくつかを参考にしたように思われる。
　二年前に亡くなった父の思い出がふりきれないでいるコギー・ドミンゴ演じるハイ・ティーンが主人公。ディーナ・ボネヴィー演じるキャリア・ウーマンの母が、父の誕生日を忘れてリッキー・ダヴァオ演じる男とつき合っているのを毛嫌いしている。アルウィン・ウイティンコ演じる弟がＴＶゲームに夢中だったり、遊びほうけているのも気に入らない。マキシン・マガロナ演じる同級生と淡い初恋関係にある。とのシチュエーションにおいて、夜に仲間たちと外出したアルウィンを責めて自転車で追いかけ合いになったとき、交通事故を起こして逝く。
　しばらく自分の死を認識できずに自宅周辺をうろつきながら、泣くディーナへ話しかけようとしたりのあと、パオロ・バリエステロス演じる同い年くらいの青年が訪れて、自分の墓への案内などで現実を知らされる。
　何名かの興味深いキャラクターが登場し、マデリン・ニコラス演じる教師が授業でポーの文学を例に天使と悪魔について述べ、マキシンが共感を抱いているのが伏線。コギーが抜けた教室では天国の話題でクラスをなぐさめる。自宅のとなりにはルシアノ・Ｂ・カルロス演じる祖父が住み、ほとんどボケていて、ルズ・インペリアル演じる叔母がうるさく看病している。ジロ・マニオ演じる十代前半の少年がやってくると、郊外に住宅を持つ典型的な中流層のコギーと違い、貧困の出。オルガ・ナティヴィダッド演じる母が父親やボーイ・フレンドなどの子を次々と生んで種違いの兄弟で騒がしい雑居部屋を逃れ、ホームレス生活の間に病気で倒れたため、仏教の表現を借りるところの無縁仏（キリスト教では何というの）として埋葬された子。さすがホセだけあって、これらの人物がたくみカラむ構成をとる。
　リッキーはジレット・サンディコ演じる愛人をかこい、ディーナへやさしく接するのとは裏腹に、ジレットへごう慢な態度をとっている事実をコギーがディーナへたくみに教える。コギーのような優等生をディーナがアルウィンに強いたため、アルウィンが「ボクは兄じゃない」とますます反発を強めるギクシャクした家庭の中で、いよいよ最期が近いルシアノがアルウィンを呼び、いかにディーナが愛しているかを諭す。マキシンにはコギーがジロのことをノートによる伝達で頼み、オルガのところまでマキシンが会いに行き、ジロの墓のある場所へと連れだす。
　実はオルガの愛情が深かったのを悟ったジロに未練がなくなり、お迎えがくるのは仏教の表現による成仏。キリスト教だと昇天か。なんて宗教が異なっても、似たような発想をするとわかる点が、作者の狙いにない一つの特徴。
　コギーの前にルシアノが歩いてくる瞬間がちょっとした感動をともない、ディーナとアルウィンが打ちとけて親子の絆が復活したことを確認するや、ルシアノと一緒にコギーが天国でラモン・レクト演じる父との再会をはたすまで、無難によくできた内容としきりにうなずく。ディーナとリッキーが抱き合うのをみてコギーが父の写真盾を倒したり、マキシンの部屋の鏡に「ここにいるよ」との文字を浮きあがらせたりの超自然現象を差しこむ方法に説得力が少ないとはいえ、ホント、今さらながらにホセの実力を思い知る。少なくとも前出の二作をのぞき、同種のアメリカ映画よりは上質で、むしろ“できすぎ”が不満なくらい。まあサルトルの脚本によるジャン・ドラノワの『賭はなされた』や安部公房の原作による勅使河原宏の『おとし穴』のように実存主義的な問いかけを含まないのが軽い印象を与える一因と指摘するも、あえて政治や社会性を加えないさわやかさが身上なようだ。
　もちろん風刺もじゃっかん盛りこみ、物質的にめぐまれた環境のはずなのにディーナがコギーやアルウィンのみならず、チア・プシット演じる家政婦にもヒステリックに怒り、貧しいオルガ一家との対比をなす。ルイ・マナンサラ演じる母や、ヴァル・トロノ演じる友人にディーナが子育ての悩みや再婚について相談し、決してモノが豊かになるばかりが幸福につながらないとの暗示をほのめかす。これは日本のほうがあてはまる要素か。アメリカにいる兄のもとへディーナが移住を考えるのは、フィリピン人のメンタルっぽい。
　もっとも、それらは単にかするだけにすぎず、無害な家族向けの範ちゅうとして合格だろう。
　ただし大人の映画を目的としない以上、ディーナのセクシーさ後退はファンとしてさびしい限り。ピンク、白、黒のパンツ・ルックで熟女になってもバツグンのプロポーションを誇るディーナだけに、そそるボディーをみたかったなあ。マキシンもえんじのピタパンでキュートなラインを強調するショットがあって、そこそこかわいいし、コギーとプール・サイドでデートするシーンで水着にならないのが惜しい。青いワンピースを濡れて貼りつかせ、ヒップラインがくっきりのエキストラがいるにもかかわらず…
　残念。
　確かにイメージすれば、もし自分がコギーのような霊の立場だったら、絶対にマキシンがシャワーを浴びるなど、素っ裸になるのをのぞきに行くのは間違いない。スケベ人間は、死してなおドスケベ、ということか。