ＡＮＧＥＬ　ＮＡ　ＷＡＬＡＮＧ　ＬＡＮＧＩＴ
（天国のない天使）
　
94年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョエル・ラマンガン
主演：ヴィーナ・モラレス
　　　 アリエル・リヴェラ
　　　 ガーリー・エストラダ
　　　 アルベルト・マルティネス
　　　 ビン・ロイサガ
　　　 マージョリー・バレート
　　　 ルス・ヴァルデス
　　　 アマド・コルテス
　　　 ラモン・クリストファー
　　　 オギー・ディアス
　　　 ジェッサ・サラゴサ
　　　 ルシタ・ソリアノ
　　　 ランデル・ヴェラ・ペレス
　もし自分と瓜二つの顔をした人物がいたなら…　とのいかにも映画的なフィクション。ヴィーナ・モラレス演じる年ごろの女性が、ルシタ・ソリアノ演じる叔母を頼ってセブからマニラへと上京が冒頭。ジプニーごしにリサール像などをながめるおのぼりさん気分がよくでている。ルシタが迷惑だとばかりにヴィーナを受け入れないのは、一般的なフィリピン気質っぽくない。行き場を失って夜の公園をうろついていると、マージョリー・バレート演じる売春婦のスカウト・ウーマンに声をかけられ、ビン・ロイサガ演じる女性に救われる。オギー・ディアス演じるマージョリーの助手がオカマなのが、確かにありがちな存在。ビンがヴィーナを妹そっくりだと驚き、家へ連れてくると、ルス・ヴァルデス演じる母が完全に家出中の娘だと思いこむ。ビンの頼みでヴィーナが髪型を短くし、もう一人の自分になりきるわけである。
　おとなしいうえに、やさしい性格のヴィーナに対し、一方で本当に娘のヴィーナは気性が激しく自分勝手、との対比がいかにも。ガーリー・エストラダ演じる犯罪仲間のリーダーと交際し、渡航費を貯めて日本へ行き、金持ちになる夢を抱く。タバコを吸うことで蓮っ葉な面を表現も、コカインに溺れている設定は生かしきれていない。しばらく物語はおとなしいヴィーナがアリエル・リヴェラ演じるボーイフレンドと出会って純愛を育んでいく過程と、激しいヴィーナを取り巻く環境が同時進行で描かれる。ラモン・クリストファー演じるのがシンジケートの大物でガーリーのボス。麻薬と売春ビジネスに手をそめ、マージョリーなどが連れてきた女の太腿に焼きごてを押して商売道具に使う。売春はディスコでビキニ写真のアルバムをみせて客に声をかけるシステムで、実際にホテルで斡旋が写真とは別の女性。ずいぶん落ちるぞ、との印象なのが、日本の風俗チラシみたいでおかしい。イヤだと抵抗の女性に怒った客が不満をぶつけると、ガーリーが謝って相手をチェンジのとき、客がアメリカ白人だからやっぱりね。ジェッサ・サラゴサ演じるガーリーの配下にいる売春婦の一人が、マージョリーの妹。アルベルト・マルティネス演じる悪徳警官とマージョリーがつき合っていて、アルベルトの情報提供先がラモンとの人間関係になる。
　ジェッサが組織のカネをネコババしようと殺され、宝石を盗んだヴィーナが怖くなって実家へ逃げこみ、初めて二人のヴィーナが対面。控え目なヴィーナに片方が荒っぽく食いかかり、二役の演じわけを楽しんでいるようだが、どちらかというと悪女のほうに精彩を放つ。血のつながらないヴィーナにビンが味方するも、家族の意味を軽く問いかける感じ。家をでたおとなしいヴィーナがルシタと住むのは、ちょっと説明不足かな。
　とにかく後半はマージョリーがジェッサを助けてくれとアルベルトに頼むが、アルベルトがマージョリーをあっさり射殺したり、アマド・コルテス演じる警察の上司がアルベルトの汚職をみやぶるのに伏線がなかったり、安易さの目だってくる展開が惜しい。ジョエル・Ｃ・ラマンガンはじっくり人間ドラマを描こうしていただけに、単細胞さが気になるところ。やさしいヴィーナが勘違いからアルベルトにら致され、別人と判明も、太腿に焼きごてを押されそうになる。組織からの暗殺におびえる悪女のヴィーナが警察へ出頭し、その証言からアマドたちがアジトを襲撃のクライマックスで、はたしてヴィーナの太腿を守れるかのサスペンスがまずまず盛りあがる。でもいつの間にか同行のアリエルや激しいほうのヴィーナが射撃の名人に変身に、アリエルなどカッコつけて銃をポイと捨てるショットまであるから、あきれてものがいえない。
　ナニ、コレ。
　ガーリーがバイクで逃走し、それまで二度ばかりヴィーナが乗馬のシチュエーションが設けられていたので、馬にまたがって駆けるのかと思わせながら、車で追うのがアレレ。走ったままガーリーのバイクへ乗り移るスタントは、アクション演出におけるジョエルのヘタさぶりを痛感する。とくにドッチラケはラストで、ガーリーとヴィーナがどんな結末を選ぶのかと緊張感を引っぱったのに、エーッ、どう考えても『テルマ＆ルイーズ』のパクリじゃないか。『テルマ＆ルイーズ』自体、ひょっとして『バニシング・ポイント』のいただきだぞと落胆したわけで、アメリカ映画の影響も、えー加減にせー！
　ツメで失速のダメ作品と評さざるをえない。
　もっともヴィーナが主役だから正直なところ期待していなかったのだが、いつになくセクシーなのに歓喜。悪女のヴィーナがガーリーの命令でランデル・ヴェラ・ペレス演じる客と寝て、ランデルの経営する会社の企業秘密を盗みだすエピソードで、ベッドから起きあがるとＹシャツ一枚がそそる。そのシャツを脱いで着がえるショットはさすがにシルエットだが、あとのかっこうがピタッとボディーにフィットしたパンツ・ルック。しかも赤外線の防犯ライトをよけるために床をはいながら進むため、四つんばいになってお尻を突きだすポーズが挑発的すぎるじゃないか。海岸にあるラモンのアジトへぞろぞろ女たちが連れてこられるシーンは、水着のものが何名かいるのに、馬に乗ったヴィーナはジーンズ姿なものの、ガーリーとビーチでデートのときにちゃんと黒いワンピース水着を披露にウハウハ。さして巨乳とはいえず、だからこそ好みのプロポーションがバッチリに。そのうえ海辺にあるテラスのレストランでパーティーのシーンへとつながり、まだヴィーナは水着のまま。スリムなボディーで立つ全身が生つばゴクリなうえ、カメラはうしろ姿をしばらくとらえ、ヒップラインのキュートな切れあがりと、ハイレグからはみでたお尻のお肉がビンビンを誘う。まさかヴィーナがここまで魅せてくれるとは予想外の興奮で、もはや我慢できない。宝石泥棒のところでの黒ずくめの衣装も色っぽく、心底ヴィーナ、素晴らしい。欲をいえばラモンに犯されるときにもあやうい誘惑がほしかったものの、高望みはぜい沢か。
　本来はビンとマージョリーにひょっとして肌の露出があるかなとかすかな希望を抱いていたのだが、ビンには見せ場がなく、マージョリーはアルベルトとセックスで刺激ゼロなのが残念。
　大ファンのジェッサは本格的な紹介作にあたり、オープニングのタイトルで出演を知ってびっくり。ピンキー・ロサス演じる妹分と一緒に取り引きのカネを持ち逃げしようとするところで、女学生や尼僧といったコスプレのあと、殺されているかっこうが黒い下着姿で腰をくねらせ、お尻を手前に向けたポーズだからウヒャーッ。顔のアップになって目が動いているので、ちゃんと死体の演技をしなきゃダメよといいたくなるも、とにかくジェッサに拍手。
　もっと驚いたのは、フィリピン映画界に限らず、世界中の女優で一番好きなアラ・ミナの名前がクレジットにでてきたこと。アラ・ミナ・レイエスと書かれていて、本名がヘーゼル・レイエスだからだろう。初期のチョイ役作品はすべて調べたつもりだったのだが、ホームページや資料のフィルモグラフィーから落ちていただけに感激の発見。いったいどこにいるのかと注意してみれば、ランデルのバスディー・パーティーのシーンに台詞もなく立っているだけ。ホント、あえて名前を入れるまでもないだろう程度の役ながら、ときめくじゃないか。余談ながら、公式なアラの生年月日は1979年５月３日だから、この作品のときは14歳か15歳ということになる。まさか、そりゃないぞ。もうアラったら、年齢をごまかしちゃって。