ＡＬＩ　ＩＮ　ＷＯＮＤＥＲＬＡＮＤ
　
91年：オクトアーツ・フィルムズ
監督：トニー・Ｙ・レイエス
主演：ジョーイ・デ・レオン
　　　 オギー・アルカシド
　　　 モニカ・ヘレラ
　　　 レーチェル・ロバンコ
　　　 パンチト・アルバ
　　　 デンショ・パディーリア
　　　 チャリト・ソリス
　　　 メリッサ・ギブス
　トニー・Ｙ・レイエス監督とジョーイ・デ・レオン主演のコンビによるコメディーで、脚本も共同執筆している。題名からルイス・キャロルの小説を意識におくのは明らかだが、パロディーにはほど遠く、かなり寒いできに終わったと感じる。
　ジョーイは田舎の漁師を演じ、パンチト・アルバ演じる伯父と暮らし、デンショ・パディーリア演じるライヴァルとともに、パンチトがチャリト・ソリス演じる中年女性を争う。チャリトにはモニカ・ヘレラとメリッサ・ギブス演じる娘がいて、ジョーイがモニカにホレる。偶然に海岸で人の声で呼びかける瓶をみつけ、ジョーイが栓を開けると、中からオギー・アルカシド演じるアラビアふうというか、シンドバッドもどきの男がでてくる。ジョーイの家にいつき、オギーはメリッサに恋する。一方、ロミー・ディアス演じるカネもちの男もモニカが好きでアタックを繰り返すも、ほとんど対象にされず、手下に命じてモニカとメリッサを誘拐。ジョーイとオギーがボートに乗って救出に向かう途中、嵐に遭遇で波にのまれ、異次元の渦まきをくぐって別世界へまぎれこむ。
　とにかく不思議の国に入るまでが六十分もあって、まず退屈を招くのがダメな点。入ったあとも、アトン・レディーリアスなどが演じる原始人のかっこうの小人たちや、レーチェル・ロバンコ、アイアイ・デラス・アラスなどが演じる豹柄衣装のアマゾネスたちがチンギス・ハーンふうというか、モンゴリアンのイメージの中国集団、尻尾のはえた半恐竜の野郎どもに襲われるのをジョーイとオギーが退治の展開で、白い熊と狼の折衷男や『ユリシーズ』にいたような一つ目モンスターなどが現われて、どれもオリジナリティーを欠くのが著しく失望をあおる。ハートの女王、グリフォン、または『鏡の国のアリス』のジャバーウォック、トイードルダムとトイードルディー、ハンプティ・ダンプティのごときユニークなキャラクターは望むべくもないか、なんて思いが起きてくる。中国集団の首領をジュニー・ガンボアが演じていて、中国なまりの発音による台詞まわしなど、確かに芸達者でうまいのだが、ミンという役名からして『フラッシュ・ゴードン』のいただきだなと推測させる。このミンが溶けてなくなるショットにいたっては、ＳＦＸの常とう手段。それにジョーイとオギーが魔法のじゅうたんに乗って現実へ帰るあたり、だからオギーがアラビアふうなのかと推測するも、大きな月を横切っていく構図は『Ｅ．Ｔ．』そっくり。
　とくにマイナス・ポイントは中国集団の襲撃で小人が血を流して倒れ、怒ったジョーイが剣で相手を突き刺すのみならず、現世に戻ってロミーの屋敷へかけつけたジョーイとオギーが敵の銃を奪って撃ち、残酷さの表現や、武器に対する安易な対応が嫌悪感をもよおすところに尽きる。いったいファンタジーに暴力をもちこんで、そんなに嬉しいのかと問いただしたいほど。
　チャリトがネナ、モニカがネネン、メリッサがネネという名前など、ルイス・キャロル的な言葉あそびを含むながら、さっぱりギャグが冴えなかったようだ。オギーが瓶につまっていた設定も、まったく意味をなさないままで、トニーにしてはお粗末な駄作。一応、おなじみ窓の下でラヴ・ソングを歌う求愛のシーンがでてきて、歌手のオギーがのどを披露するのに、口パク丸わかりの無配慮な手抜きにもあきれる。ジョーイの歌がボギー大佐（クワイ河マーチ）の替え歌だったり、ロミーがモニカにチョコレートを贈る口説きかたは、じゃっかん興味を刺激したかな。
　唯一、プラスなのはモニカとメリッサが水着姿をみせるサーヴィスになり、長身のモニカのほうが美人だが、二人ともワンピースで海の浅瀬にたわむれるとき、柄のないデザインのを着た小柄なメリッサがそそる。アマゾネスたちはビキニの素材が厚手でボディー・ラインを隠し、挑発不足が残念。しかもレーチェルとアイアイのみミニスカ・ワンピース型で、コメディエンヌのアイアイはともかく、色っぽいレーチェルを期待したものとしては不満が多かった。