ＡＬＥＪＡＮＤＲＯ“ＤＩＡＢＬＯ”ＭＡＬＵＢＡＹ
（悪魔のアレハンドロ・マルバイ）
　
93年：ムーヴィー・スターズ・プロダクション
監督：アウグスト・アルヴァドル
主演：ロニー・リケッツ
　　　 ヴィク・ヴァルガス
　　 　ロベルト・アレヴァロ
　　 　エフレン・レイエス
　　 　ジャニン・バレド
　　 　ジェシカ・ロドリゲス
　　 　カロル・ラウデン
　　 　ジェシー・デルガド
　　　 ディンド・アロヨ
　手づくり感覚のＢ級アクションなら、フィピリン映画に本領がある。ハデにしようと香港映画のようなワイヤーをつかわないあたりがよい。また暗く重い雰囲気ながらも、フィルム・ノワール風にしようとムード的な演出を加えない点もよい。
　とはいえ、あまりにも暴力に満ちている。全編、ケンカ、殴り合い、誘拐、拷問、暗殺、銃撃戦で、これでもかのてんこ盛り。『ダイハード』は面白くても、過剰ヴァイオレンスが不快だと思う者には、同様の印象を受ける結果。
　舞台はまだスモーキー・マウンテンがあった頃のトンドで、冒頭の埠頭での凧あげから、闘鶏場など、興味深い風景が登場する。シンジケートのボスたちが裏社会を仕切っているのだが、ロベルト・アレヴァロ演じる穏健に貧民たちのことを考える者がいれば、ヴィク・ヴァルガス演じる私欲のために何でもありの者もいて、この構図はいかにもとの感じ。
　ロニー・ロケッツ演じるのは不正が大嫌いな男で、エフレン・レイエス演じるヴィクの手下などと対立しまくるも、いよいよ警察官になると摘発に乗りだす。本当にフィリピンにこんな正義感はいるのか（失礼な！）との疑問があるながら、簡単に警察に志願できるあたり、エッと驚きが生じる。
　ジェシカ・ロドリゲス演じるロベルトの娘と愛し合うようになり、結婚式の最中に襲撃を受けて花嫁を殺される展開に、あとは復讐もあって、直接ヴィクのアジトへ踏みこみ、上層部から横槍を入れられると、警察をやめて、犯罪者になることを覚悟で全滅させる。
　まあ単純な話だが、途中でこれだけ暴力しかない街にどうしてロニーは住んでいるんだとの疑問を感じさせ、ちょっと納得できない。あくまで映画であって、現実じゃないんだ、ということだろうが…
　全体的な流れはともかく、部分的には牛をつかった残虐な殺人など、よくアイディアが盛りこまれているし、車に放り投げてフロント・ガラスを破るアクションや、手榴弾の爆発をよけて隣のビルに飛び移るなど、まさに体を張っているから、けっこうハラハラさせる。とくにデジタル処理していないだけに、アナログのパワーを再認識する気分になる。一方的にカッコいいだけでなく、弱さもみせるロニーのヒーロー像にはうなずけて、監督のアウグスト・サルヴァドルの演出力はしっかり評価したい。
　フィリピンらしいＢ級アクションの佳作といってよいかもしれない。
　女優陣に関していえば、もともとはジャニン・バレドに引かれてみた映画だが、ロニーに片思いする彼女はかわいく撮られているものの、いつもの野性味は薄くなっている。意外と魅力的だったのはジェシカで、骨っぽい顔だちが美人とはいえないながら、ジーンズ姿などスラッと決まっていて、うっとりを呼ぶ。誘拐のうえに拷問を受けそうになり、夫の殺害から発狂する妻を演じたカロル・ラウデンは、容貌的にイマイチでも、カミソリでシャツを切られ、オッパイのでる寸前のシーンで興奮させてくれる。チョイ役だが、サリサリ・ストアーの娘役のジェニー・スアレスがキュートだった。