ＡＫＩＮ　ＡＮＧ　ＰＡＮＧＡＲＡＰ　ＭＯ
（あなたの野望が私に）
　
92年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ローリス・ギリエン
主演：ディーナ・ボネヴィー
　　　 リチャード・ゴメス
　　　 ドーン・スルエタ
　　　 トントン・グチェレス
　　　 エディー・ロドリゲス
　　　 ジョニー・デルガド
　　　 ダリア・ラミレス
　　　 トミー・アブエル
　　　 ジョー・マリー・アヴェリアーナ
　極端な人格の女性を主人公にする大げさなフィクションで、アホらしいこと、このうえない。ネリッサ・カブラルのフィリピノ・コミクスによる原作をオリーヴ・ラマサンが脚色していて、まさに上ずみ波乱万丈ロマンス劇の典型といえる。こういう題材はレロイ・サルヴァドルあたりが大衆娯楽向けの通俗的みせかたで演出すれば、低レヴェルながらも退屈せずに楽しめるながら、ローリス・ギリエンがヘタに意欲を示すので、うんざり感を招く。
　ローリスの人間描写へのこだわりと映像センスが、かえって裏目にでたようだ。
　冒頭の船が火事になるエピソードは、ちゃっさやわざとらしさがなく、さすがに引きつける。ダリア・ラミレス演じる母親とデクスター・ドリア演じる母親がそれぞれ小さな女の子を連れていて、ジョニー・デルガド演じるダリアの夫が船長たちとの博打に負けてダリアにカネを無心するマヌケ男ぶりが、いかにも自然なイメージ。デクスターの娘が実子じゃない説明や、領主に教父をお願いしたこと、ダリアの娘がかけるペンダントの小道具的活用、ダリアと領主の関係暗示など、みごとにあとへ続く。
　十七年後のメイン・ストーリーに移ってダメになる。イロイロの実家でディーナ・ボネヴィー演じる成長したデクスターの娘が、たまたま滝のある池で水浴び中に、リチャード・ゴメス演じるアメリカから帰ったばかりの領主の息子にハダカをみられる。品のない食事のかっこうでディーナの育ちの悪さをにじませる表現は、確かにうまい。リチャードの家にお手伝いとして住みこみ、風呂へお湯を注ぐなどの挑発でディーナがセックスへ持ちこむも、寝たあとにカネをわたし、リチャードはディーナを娼婦の延長あつかいにしか考えていない。ドーン・スルエタ演じる成長したダリアの娘とリチャードが恋に落ち、ディーナが苦々しく思う。マニラへでてダリアの家に住み、正式にディーナがドーンを従姉妹と紹介される。人のよいドーンだが、宝石箱のネックレスを断わりもなくさわろうとするディーナの手をピッシャとたたくところで性格の違いをうかがわせる。
　ホント、さり気なく内面までにじませるがごときキャラクターづけのたくみさに、舌を巻いたのだが…
　リチャードとドーンの婚約パーティにディーナが現われ、ペンダントをだすと、船の事故の際に入れかわったものの、実は自分が領主の嫡子だと主張するところから一気にくだらなくなる。エディー・ロドリゲス演じる領主がその場で心臓発作を起こして死亡など、直前までのハイ・レヴェルがウソのようにバカバカしい。トミー・アブエル演じるエディーの弁護士によって法律上、兄妹とはいえ、両親の異なるリチャードとディーナとの結婚が遺言によって指示され、ディーナが財産を受けつぐ。ダリアへ冷たく接し、家政婦たちへごう慢にふるまい、なんとディーナの単細胞な悪女ぶり。結婚前の妊娠による流産は、さして内容にからんでこない。不幸な新婚生活を避けてリチャードがビーチ・リゾート開発の仕事に没頭し始め、計画現場へスタッフのドーンを呼んでセックス。一時期はディーナとつき合い、ドーンから「ダブるウェディングにしよう」といわれていたトントン・グチェレス演じるトミーの息子が、この事実をディーナに教える。トントンとのデートの中で射撃場へ行き、トントンからの誘いに「イヤだ」と拒否していたディーナが、浮気現場へ乗りこんでピストルをふりかざすにおよび、絵空ごともたいがいにせー、と怒鳴りたくなる。トミーに命じてドーンのクビをきり、リチャードがドーンと別宅に暮らすと、財産権をたてに家をとりあげる。
　極めつけのしょうもなさは、ジョニーがドーンにカネをたかり、あまりのしつこさでとっさにドーンがナイフを手にとるも、無事におさめたあと、今度はジェニーがトミーを脅したとき、ディーナがジョニーを刺すクライマックス。タイミングよく帰ってきたドーンにディーナが巧妙に罪をなすりつけるながら、ディーナが返り血を浴びていないのは、およそリアリズムを意識した演出とかけはなれすぎ。
　話のご都合主義につじつまを合わせるべく、ローリスが逃げたとしか思えない。
　トミーが殺人現場からこっそりでてくるのをトントンが目撃し、裁判で証言しないあたりはよいものの、判決がどうなるかのサスペンスを含まず、決着が中途半端なまま。ついにダリアが「お前はエディーの子じゃない。父はジョニーよ」と告白するツメは衝撃以前に、最初からバレバレじゃないか。
　とにかくディーナの性悪ぶりの底が浅く、くつりっぽいのが致命的。頭からマンガとわりきって娯楽に徹すればマシだったかもしれず、笑ってすませる余裕を奪ったローリスの丁寧な仕事に皮肉を感じるのみ。
　素材と狙いのアンバランスという失敗だろう。
　もっともディーナとドーンの魅力は、それなりに輝いている。ディーナはリチャードにのぞかれる池で水につかった裸身がまぶしいし、トントンと行くプールでセパレーツの水着を披露してくれる。さすがにリチャードとのベッドでは、バストをシーツで隠す。ドーンはリチャードと池で愛撫のとき、赤い水着姿が驚くほどセクシー。ブラが小さめの胸に貼りつき、谷間の誘惑がものすごく、引っぱがして吸いつきたくなる。リチャードとのセックスではシャツを脱いで背中のヌードにゾクゾクと興奮を呼び、リチャードに抱かれながら乳首のでる寸前のオッパイにビンビン必至。
　ディーナとドーンの存在で、みたかいがあったようだ。