ＡＢＵＳＯ　　ＣＡＳＥ　＃　６４３３
（虐待　訴訟６４３３事件）
　
97年：ＭＡＱプロダクション
監督：タタ・エステバン
主演：アナ・マリー・ファルコン （フランシン・プリエト）
　　　 ルストム・パディーリア
　　　 ジョアンヌ・キンタス
　　　 ジョルジア・オルテガ
　　　 パキト・ディアス
　　　 ルイス・ゴンサレス
　　　 エヴァンジェリン・パスクアル
　　　 クリスティー・フェルミン
　政治家によるレイプを扱う作品。犠牲者が未成年の少女であることから、性的虐待の実態にもふれている。
　でも社会問題がどうのという前に、女性のパワーが圧倒的なフィリピン社会の構造をうかがわせるよう。
　アナ・マリー・ファルコン演じる娘をクリス・ダルス演じる義父が、パキト・ディアス演じる知事の元へ連れてくるのが冒頭。クリスはルシタ・ソリアノ演じる妻に暴力的な、どうしょうもない男で、知事から礼金をもらうとトランプ博打にふけり、勝つと周囲の女たちにチップをあげているのが、さもありなん。以前、バブル全盛期に済州島のカジノで似たような日本人を何名もみかけたから、アホがカネを持つとどうなるかは、日比共通かもしれない。
　なんて話は関係なく、パキトはアナをモノのごとく品定めするとき、タバコの煙を吹きかけていて、人間の低級さを表現する際に、タバコはもってこいの小道具だなあとあらためて認識。パキトから暴行を受けてアナが逃げ、翌朝、ルストム・パディーリア演じるランニング中の青年が倒れているのを発見する。ルストムがルイス・ゴンサレス演じる議員の息子で、パキトとルイスが友人同士、ルストムがパキトの名づけ子だったから、ややこしいシチュエーションに…　と感じるも、ルイスがちゅうちょする中、ルストムは正義に燃え、デクスター・ドリア演じる母も応援していて、人間関係への悩みを省略した単純なストーリーに、わかりやすさを優先したのねと納得。
　ルイスが経緯をたずねる電話をパキトへ入れたため、パキトが証拠隠滅を指示。このとき「殺せ」と合図を送っているボディー・カードのチーフがクリスティー・ポルトゥガル演じる女性で、どうみても野郎どものメンバーより頼りがいがありそう。クリスはあっさり始末され、ルシタは家から麻薬がでたと逮捕。警察が自ら麻薬をだして強引にしょっぴくケースは、実際にあると聞く。
　いつだったか、タイの某警察大佐と親しくしたときのこと、日本のマスコミ、とくにＴＶの取材には率先して案内役に立っていたのだが、麻薬の取材でブツがでなかった場合、いつも適当に自ら仕込むのが常とう手段。大佐は夫人が日本人で、どうすれば日本のマスコミが喜ぶかをよく知っていて、ヤラセがうまいのなんの…
　なんて話はまた関係なく、ルストムにも監視がつくが、うまく抜けだしてアナをジョアンヌ・キンタス演じる恋人にあずけ、エヴァンジェリン・パスクアル演じる弁護士に相談する。長身のエヴァンジェリンが知的な雰囲気を醸し、いかにもやり手のキャリア・ウーマン・タイプで、実に適役。
　同時にジョルジア・オルテガ演じる謎の女性が登場し、パキトのニュースを興味深くながめている。射撃練習から男まさりの性格を強調。
　ルストムとジョアンヌが拘束され、目の前でルシタの殺害をみるのは、ルシタがまったく無実なだけでなく、やはり被害者なわけで、雑魚は人間じゃないみたいな構成に偽善臭プンプン。ルストムたちもあわや…　の瞬間にジョルジアが駆けつけるは、場所を割りだす経過をハショっていてアレレ。ジョルジアがパキトの娘で、少女時代に父から性的いたずらを受けた事実が判明し、裁判所へと急ぐ。
　パキトがエンリコ・サルセド演じる医師に自分のそっくりさんをつくらせていたとの無罪工作は、あまりにもバカバカしさ優先で、フィクションだなあ、とあきれるのみ。後悔からエンリコが自殺するあたりも、とう突すぎて説得力を欠く。
　はたしてインチキ裁判の判決へルストムたちが間に合うかのサスペンスがクライマックスとなるも、道路でバンバン撃ちまくるうえ、車が横転炎上爆発。いくら買収されたとはいえ、これで警察が出動しないのはなぜ、との疑問がもたげてくる。ハラハラドキドキどころの騒ぎじゃない。
　ジョルジアが拳銃を手に法廷へ乗りこむにいたっては、セキュリティー・チェックがあるはずで、そんなバカな…　と笑いすら起きる。
　はっきりいって、くだらない内容だ。
　結果、正面から社会問題に取り組んだとは考えられず、ただの空回り作品。タタ・エステバン監督にすれば八十分ほどの上映時間しかなく、すべてが中途半端になったのかもしれないが、その短さゆえに、かえって退屈を招かなかったのは皮肉か。
　ただ作者の意図とは別に、政治家といった権力を有する者だけでなく、貧乏人であっても、父親といった権威を振りかざす者にもてあそばれるのは、常に妻や娘などの弱者であり、かよわい女性を救うのは、やはり女性だ、との構図が全体からにじみでたのは興味深い。一応、ルストムが主人公であるはずなのに、ジョルジアやエヴァンジェリン、または逆説的にクリスティーやパキトの妻を演じるテス・ヴィリアラマを含め、女優陣の存在感におされて陰が薄いため、そのまま女性社会フィリピンをシンボライズしているとも思えてくる。
　よくも悪くも、女性映画といった感じ。
　なお、アナは暴行シーンでバス・タブにつけられ、服がビショビショに濡れるも、スケないし、脱がないまま。現在はフランシン・プリエトと改名してヌードになりまくっているアナだが、この頃は清純派だったからしょうがないか。セクシーな期待をジョアンヌに向けたところ、短パンのお尻をアップにするショットがでてくるも、キュッとフィットしたタイプじゃなくて残念。スケベな目的には、ついに応えてくれなかった。