ＡＢＡＮＤＯＮＡＤＡ
（見捨てられて）
　
00年：ＶＩＶＡフィルムズ
監督：ジョエル・Ｃ・ラマンガン
主演：マリセル・ソリアノ
　　　 エドゥ・マンザノ
　　　 アンジェルー・デ・レオン
　　　 ジェー・マナロ
　　　 イネス・ヴェネラション
　　　 ベルナルド・パランカ
　海外就労の間に家族が崩壊する話で、社会問題というよりは、いかに奪われた息子を取りもどすかをサスペンス・タッチで描く娯楽作になっている。大御所的な存在に近づいたマリセル・ソリアノのための企画だろうが、いわゆる母もののドラマとして、そこそこによくできているといえる。ジョエル・Ｃ・ラマンガンの手堅い演出が支えた結果だろう。
　海外就労の問題については、あのフロール事件を扱った『ＴＨＥ　ＦＬＯＲ　ＣＯＮＴＥＭＰＬＡＣＩＯＮ　ＳＴＯＲＹ』を監督しているジョエルだけに、もう少し是非を論じるかと思ったのだが、出稼ぎ先での差別といった内容には深く言及していない。マリセル演じるのは看護婦との設定で、医療ミスをおかして訴えられたため、帰国したことになっている。このときの精神的な苦痛が、あとの息子への思いに圧迫を加えるのだが、それ以上の要素ではない。単なるきっかけの一つということか。
　確かに看護婦として出稼ぎするフィリピーナは多いので、事故にかかわるケースも少なからずあると想像するのだが…
　友人の一人が看護婦で、やたら外国へ働きに行きたがっていた。でもかなうことなく、フィリピン人の医者と結婚した。まあ、個人的にはそのほうがよかったと思う。結婚式ではなぜか仲人のようなポジションを頼まれて、こっちはシングルなのに…　と感じたものだが、それは関係のない話。
　マリセルが働いていたのはカナダで、アメリカ合衆国やサウジ・アラビアなどとともに、フィリピン人看護婦をけっこう受け入れているのだろう。そういえば以前のカノジョが結婚した相手もカナダ人なのだが、またまた関係のない話。
　映画は帰国時の飛行機の中でマリセルが家族の写真をみいているショットから始まり、この写真がキー・アイテムとして最後まで重要な役割りを担っている。ほかにもクマのぬいぐるみなどが小道具として登場し、ラクエル・ヴィリアヴィセンショのシナリオはよく練ったなあという印象。
　エドゥ・マンザノ演じる夫が、留守中にアンジェルー・デ・レオン演じる若い金持ち女と再婚し、息子も一緒に連れて行ってしまった事実がわかって、ドラマが動きだす。モーリン・マウリショ演じるアンジェルーの家で働く家政婦の一人とうまく友だちになり、モーリンの推薦でマリセルも家政婦としてもぐりこむのだが、この間に結婚したときや、妊娠したとき、出産したとき、出稼ぎに出発したときなどのやさしかったエドゥの思い出が適所に挿入され、ホントにシナリオを練ったなあと感心。
　ただ人間のキャラクターづけはいささか曖昧で、エドゥがアンジェルーに対して暴力夫なのは、マリセルにも手をあげた記憶が挿入されるものの、ヒモ亭主としての説得力を欠く。重婚の事実を知り、それを責めるや殴られて、顔に青傷までつくったアンジェルーがエドゥを追いださないあたりもヘンで、巧みにいいくるめられる過程など、みていてイライラする。アンジェルーに重婚の事実を教えるベルナルド・パランカ演じる男は、アンジェルーへの恋愛感情を表現しきれていないから、エドゥ同様に財産目当てなんじゃないの、といった疑惑を起こさせてしまう。とくに類型的であきれるのは、イネス・ヴェネラション演じるベビー・シッターの家政婦で、マルセルの子どもをバンバン引っぱたく短気な性格だけならまだしも、男を連れこんでイチャついているところをペルラ・バウティスタ演じる家政婦の長にみつかり、非難されてカッとなるとナイフで刺そうとするのだから、そんな異常者を子守りに雇うか、といったあきれ感も手伝って著しく感心しない。しかも殺人未遂から取っ組み合いになると、階段から転げ落ちて死んでしまうのだから、それってご都合主義よ、とオイオイオイ。
　でも息子の誘拐を決意したマリセルを助けるジェー・マナロ演じるマリセルの旧友は、やはり恋愛感情の部分に納得いかない要素を残すも、こちらは好青年ぶりがストレートに伝わり、まあまあかな。普段はセックス・アピールをムンムンに漂わせた性欲丸だし男役の多いジェーが、射撃場で練習するあたりからひと癖ありそうだとうかがわせるも、最後までイイ奴を通しているのが面白い。アンジェルーの口紅を隠れて借りたりしているズルいメイドを演じたメル・キムラの部分も、なかなかうまい描きかたになっている。マリセルの荷物からエドゥと一緒の写真をみつけて驚き、マリセルがカネを渡して黙っていてくれと頼むのだが、いよいよマリセルが事実を打ち明けたモーリンの協力で誘拐未遂になって、偶然にもジャマなときに現れる。さて、どうするのかと思えば、モーリンに説得されて助ける側に転じ、失敗に終わるも、あとでマリセルにカネを返すあたりの心理がすごく納得させられる。このメルの役は、もっともイキイキしている人物と評価したい。
　とはいえ脇はほとんどがマリセルの刺身の妻のような構成で、実の母と気がついていない息子に寝室や洗濯場などで愛情をそそぐ親心など、いかにもといった同情を誘う演技。おそらくマルセルにたっぷり芝居をさせたかったんだろうなあ、との狙いがミエミエに受けとれるもの。これに感情移入して自分を置きかえる観客までもが脳裏に浮かんでくるよう。
　同じ屋根の下に暮らすエドゥを泥酔したときに介抱するなど、マリセルが家政婦で働いている事実を覚られそうになるハラハラ要素も用意されているが、ついにバレてお互いが怒りをぶつけ合うシーンは、絶叫スタイルの熱演があまり好きではないのでイマイチ感なのはぬぐえない。見せ場には違いないが…
　ついに息子を連れて逃げたマリセルにエドゥが手下を従えて追ってきて、ジェーとカー・チェイスしながらの銃撃戦を繰り広げる展開が盛りこまれるにいたっては、この手のストーリーにはたしてドンパチが必要かといった疑問が生じ、これまた共感できないクライマックスになっている。それでも映画館の中での隠れるマリセルたちと、探すエドゥたちの緊迫感はスリルたっぷりのドキドキものだから、さすがといえばさすがなのだが…
　ヴァイオレンスとは違った盛りあがりを期待したのが本音。
　まあ真相を知ってマリセルを許せなかったアンジェルーが家政婦たちの訴えで母親の気持ちを理解し、エドゥを追いだすと、マリセルに息子を返してあげるラストはパターンながらも、ジーンとくるムードづくりにすぐれていて、ウェル・メイドな作品ではある。とかくツメが甘い傾向になりがちなフィリピン映画にあって、ちゃんと亡くなったジェーの墓に花を捧げに行くエピローグがついている点もよろしい。
　アンジェルーがアメリカ合衆国へと旅立つのは、相変わらずあんなダメ国家にあこがれるフィリピン人よ、とバカにしそうになるも、それは関係のない話。
　ジョエル監督にすれば『ＢＵＬＡＫＬＡＫ　ＮＧ　ＭＡＹＮＩＬＡ』に比べれば三歩ぐらい後退していると指摘せざるをえないが、まだ水準レヴェルを保っているといえよう。
　さて肝心の女優陣の魅力だが、マリセルはとくにファンというわけではないものの、まずは貫禄を示し、しっかりと主役をこなしている。アンジェルーは好きな女優だけにセクシーさを期待したが、残念ながらパンチ力を欠いた結果。ガウンやパジャマ、中でもスリップ風のイヴニングがそそるものの、もう少し肌を露出してもよかったんじゃないか。イネスは小さな役ながらも、セックス・ニンフらしく、お色気要員としての役割りをはたしているのが嬉しい。子どもを世話しているときにプールへと落とされ、白いスラックスが濡れてパンティーがスケるカットにドキドキ。男を連れこむシーンでは下着のままバス・タブで混浴していて、乳首がみえないものの、肌にピタッと貼りついたブラが挑発的。しかも立ちあがるときにパンティーがスケスケ状態で、ヒップラインのキュートさなど、さすがイネス。
　うーん、よだれがたれそうなくらいおいしいそうだ。
　なお、テーマ・ソングをジャヤが歌っている。